要するに接待
「本日のお客様は、白蓮様に海青様です」
「えぇー……」
というわけで宴会である。
会場は我が家の庭で、本気で準備を整えた僕は満を持してこの日を迎えていた。
そしてお呼びしたスペシャルゲストはお二人。
僕は、当事者である神木さんに彼らを紹介した。
「……なんだろう。対策を考えようとしたら、もっと危ない修羅場に首を突っ込んでない?」
ただ肝心の神木さんの視線が若干痛いのが気にかかる。
本末転倒? いやいやそんなことはないはずだ。
震えている神木さんの視線の先には空に浮かぶ黄金の雲。
そしてその上では、白虎と青龍が睨み合っていた。
まぁなんて絵になる光景だろうか? その体から迸る力で天地が震えそうである。
「なんでお前がいる? 川に帰れ」
「こちらのセリフだ。山に帰れ」
先日の騒動がまだ尾を引いているのか、お二方共に対抗心むき出しだった。
「……写真撮っとく? なんかご利益があるかも?」
「さ、先に罰とか当たるんじゃないかな?」
神木さんなんて、ちょっと呼吸すらし辛そうにして涙目になるくらいにはこの場のプレッシャーが半端じゃない。
服の上から刺さってきそうな刺々しい空気の中で、神木さんは訴えた。
「い、一体何事なの……大物はそんなに簡単に現れないんじゃなかったの?」
「そうとも。ありがたいことに、此度わざわざ招待に応じてくださったんだよ?」
「しょ、招待したんだ。……なんていうか、大丈夫なの? 何のために?」
神木さんは大層焦って信じられないとこちらを見るが、そんなものは決まっていた。
「いや、防犯のアイディアをもらおうかなと」
「そ、そんなことで神様なんて呼んじゃってもいいの!?」
「……いいんじゃない? 現にこうして来てくれたわけだし」
なんて言いつつも、僕はこっそりと冷や汗を拭う。
まぁ気分が変わりやすいのも間違いないけどとは言わないでおいた。
しかし僕とて何の策もなく彼らを呼び出したわけではなかった。
「安心してほしい。僕にも秘策はある……」
「秘策?」
「そうとも」
そう、この日のために念入りに準備はしていた。
僕はさっそく睨み合う龍と虎に深々と頭を下げて挨拶をした。
「本日は招待に応じてくださり誠にありがとうございました」
僕が頭を下げると龍虎の視線が一斉にこちらを向き、まず口を開いたのは白虎の白蓮様だった。
「……よいよい。宴会は好きなのだ。まぁこやつを一緒に招待する気はしれんが?」
そして龍の海青様も重々しく頷いた。
「先日のアレはいい仕事だった。このくらいの融通は利かせるとも」
「まぁ、お二方ともそうピリピリなさらずに。色々ありましたが、その辺りの和解も含めて親睦を深めようという趣旨の宴会ですので」
ひとまず僕らの印象は悪くは思われてはいないようだ。
宴会の準備をしたかいがあったと、僕は頷く。
「ではまず手始めに、こちらをお使いください!」
そして僕はこの日のために用意した、とっておきの秘策を早速その場に披露した。
取り出した男性型と女性型の人形は、僕が数ある作品の中でも極力作らないでおいたテーマの一つである。
「ベースは市販品であるものの、僕なりに改造を施しました、本日は是非お使いください」
そう手塩にかけた作品を紹介したが、しかし二つの人形を見た龍虎の反応はいまいち悪かった。
「うーむ。戦車の方が好むところだが……」
「我は飛行機が気に入っているし……」
おやおや、この人型の素晴らしさをわかっていただけないか。
僕はゆっくり首を横に振り、今回の宴会の最も重要な趣向を説明した。
「いえ、今回のこの依り代で重要なことはこの場限りの事―――そう、料理が味わえる点でございます」
庭に用意された赤い敷物と傘はこれから何かを用意しますと訴えている。
そしてこれ見よがしに存在感を出している大きな酒樽は、秘境で分けていただいた秘蔵の仙酒である。
「あなた方の事です、人に化けようと思えば難しいことではないでしょう―――しかし味を楽しむために僕の依り代を使った妖怪達が言うには……違うそうですよ?」
「ほう―――何が違うと?」
「曰く、世界が違うと」
これこそが僕の用意した秘策。
妖怪にお酒や食べ物をお供え物として奉げることは多々ある。
しかし、それを彼らが本当の意味で味として楽しんでいるとは限らない。
白蓮様も海青様も僕の意図を察してゴクリと喉を鳴らしたのを僕は聞き逃さなかった。
僕は用意していた真っ白いコックコートにエプロンをバシッと結び、長めのコック帽を装備する。
「では! ……ご賞味ください!」
「えぇ……」
神木さんの困惑ともガッカリともとれる声が聞こえた気がしたが、今は黙して協力していただきたい。
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