楠君は川に流される
「……太陽が黄色く見える」
「いいアイディアでしょう? ボランティアの河川掃除。模型部のイメージアップにもなるし、水神様への謝罪にもなってすごくお得!」
「いや、しかし……もうちょっと間をおいてもよかったんじゃない?」
「……そっちはごめん。まさかそんなに根詰めなきゃいけないものだとは思わなくて」
晴れやかな笑顔の神木さんがやる気になっているのは素晴らしい。
だがこれは少々やる気を出しすぎだと僕は思ってしまった。
ある休日の朝、僕と神木さんは川でゴミ拾いに勤しんでいた。
これは神木さんの提案である。
ニュースで話題になったこともあり、この献身的なボランティアは実に立派な学生らしい活動として学校の先生方は快く許可を出し、他の部活も参加してそれなりの数になった。
ただ問題は日にちである。
僕は連日の寝不足で重い体を引きずりながら、手を休めずにゴミを拾う。
事件からそう間も置かずに実行に移した神木さんの行動力はとても前向きで、まぁ当然のことながら責められるようなものではなかった。
だがしかし今回の活動の立役者は神木さんではあるのだが、模型部の名前で届け出を出しておいて、部長がさぼっちゃさすがにまずいわけだ。
諸々きついが、部長としてはここは気合の入れどころなのかもしれない。
額の汗をぬぐいながら僕は呟いた。
「ふぅ……しかし、ぼかー控えめに控えめに行動してきたのに。ずいぶん目立つことしちゃってるな……。有名人になっちゃったらどうしてくれる?」
そんなことを冗談交じりに言ってみると、神木さんからはジト目が返って来た。
「いや……それはもう手遅れでしょう? 楠君、もう十分有名人だよ……? 要注意人物かもよ?」
「なんだって? いやそんなまさか……」
いやいや神木さんがそんな冗談を言うだなんて思わなかった。
こんなにも楠 太平という人間は目立たないこじんまりとした趣味人間だというのに。
しかし神木さんの真顔は変わらない。
「え? マジで? そんなことないよね?」
「さあ……どうかなぁ」
つい動揺して、神木さんに詰め寄ろうとして、コケで滑って転んだ僕。
全身ずぶぬれになった僕は、体力も底を突き精神的にもへばった。
「……ああ」
水が冷たくて、なんか気持ちがいい。
水に浮いていると、ボランティアに参加している他の生徒達の声が聞こえてきた。
それは噂話だが、実に楽しそうだ。
「そういえばあの噂聞いた? 夜中にプロペラのついた飛行機が町を飛んでたんだって!」
「聞いた聞いた!」
「幽霊とかかな? ゼロ戦でしょ?」
ああ、うん。さっそく水神様使ってくれたんだなアレ。
僕渾身のゼロ戦は、きっと人目のつかない闇夜を今日も飛んでいることだろう。
今回の仕事は見事満足してもらえたらしい。頑張ったかいがあった。
「ちょっと! 楠君大丈夫?」
「……うん。大丈夫。ちょっと眠たいだけー」
神木さんが走り寄ってきて、手を伸ばす。
しかし僕はいつもより穏やかな水の流れに身を任せて、とりあえずしばらく川を流れてみることにした。
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