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くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。  作者: くずもち
第一章

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楠君は台無しにする

「あの……! 楠君! 助けに来てくれてありがとう!」


 ストレートな感謝の言葉を僕に言ったのは神木さんである。


 神木さんの顔は耳まで赤いが、彼女の顔を見た瞬間、僕も顔面の血流が良くなったのを感じた。


 ただそれは甘酸っぱいとかそう言う理由ではなく……なんだか無性に気恥ずかしくなったからだった。


「えーっと……助けに来たというか、止めに来たっていうか。ほんとに心が追いつかないんだけど。今にも爆発しそうだから、今日の事は忘れてほしい……」


 切実に願いを口にすると、神木さんは気まずそうに頭をかいた。


「あっはっは……いや本当に申し訳ないです」


「いや、こちらこそ申し訳ない。あれだけ偉そうに言っておきながら、まさか自宅で何かあるなんて」


 そして同時に僕としては合わせる顔がない感じである。


 あれだけ偉そうに、妖怪との付き合い方を説いておいて、この体たらく。


 穴があったら入りたい気分だ。


 しかし神木さんは首を横に振った。


「気にしないでよ。事故みたいなものなんだし、それに、楠君の言うこと……少しわかった気がするんだ」


 そう言って、掌に載せて差し出したのは見覚えのあるマスコットだった。


 妙に綺麗な目になっているそいつは、知っているストーカーとは一瞬わからないほどなんかかわいくなっていた。


「私は怖がるばかりで、よくわからないものをわからないままにしていただけなのかもしれないって思ったんだ」


 確かに邪気の類はなくなっている。


「ひょっとしたら今までだって、私が楠君みたいにきちんと話して、妖怪も自分の力も受け入れていたら絆だって結べていたかもしれない……そんな風に考えたらもったいなかったなって思えたんだ。楠君が前に言ってた宝物って……そういうものの事なんでしょう?」


「お、おう……そ、その通りだとも」


 僕は咄嗟に頷いた。


 神木さんがなぜだから突発的なトラブルでとてもいい感じに大切なものを悟っていた。


 いや、神木さんの言っていることは間違いじゃない。


 僕だってそう言うニュアンスの事は言ったはずだった。


 しかし僕は軽く気まずくなって視線を泳がせる。


 神木さんは怪訝な表情になっていたけれど、ちょうどいいタイミングでこちらに話しかけて来た龍に、僕は注意を向けた。


「ウハハハハハ! では我はいく。今回の事は水に流すとしよう!」


「はははは……ありがとうございます」


 すっかりお茶目になった龍は上機嫌の様で何よりだった。


 乾いた笑いを浮かべた僕は、しばらく徹夜が続きそうである。


 そして龍は、今度は神木さんに目をつけると、大きな口をゆがめてにこやかに笑いかけた。


「そこの娘よ! いやぁ、巻き込んで悪かった!」


「……いえ」


 神木さんは笑顔だが若干口元が引きつっているのは仕方がない。


 しかし龍は全く意に介さず水を操って、大きなツボをふわふわ浮かべて持ってくると、神木さんの前に下ろした。


 いきなり差し出されたツボは神木さんのひざ丈くらいの大きさがある。


 意味が分からない神木さんは首を傾げた。


「えっと……これはなんです?」


「うむ、これはその昔、我に捧げられた人間からの貢ぎ物である。今回の詫びにお前にくれてやろう。人間が置いて行ったものゆえ、お前達にも価値のあるものだと思う」


「は、はぁ」


 気の抜けた返事をする神木さんであったが、龍にはそれで十分だったらしい。


 龍は満足げにひげを揺らして、体をうねらせ空に飛んで行く。


「うむ! それでは人間よ! 献上品は川の上流にある我が祠に届けるように!」


 ゴロゴロと雷鳴を轟かせた龍は雲の中に消えていった。


 そして山神様もククッと笑い、踵を返す。


「ふむ。今回は面倒をかけたな太平よ。まぁあやつも強力な土地神だ。つながりを持っておいて損はなかろう。では、新作を楽しみにしているぞ?」


 再び戦車にその身を変えて、車体を揺らしながら山の中に消えていく山神様の後ろ姿は、違和感しかなかった。


 エンジン音が遠ざかり、やけに静かな洞窟の中で、ツボを抱えたまま呆けている神木さんと目が合う。


 そこに白が姿を現し、神木さんのツボに着地した。


「いやはやスリル満点だった。さっそく開けてみないか? 杏樹?」


「……君はまたそう言うことを」


 でも確かに開けてみないと始まらない。


 僕はどうしようと目で訴える神木さんに頷いて見せた。


 そして全員が見守る中、神木さんがツボの口を覆っていた布と木の蓋を外すと……山吹色の輝きがツボの中から現れた。


「エッ? ……エェ!!」


 神木さんは素っ頓狂な声を出す。


 ツボの中には大判小判がザクザクだった。


 おおう、そう来たかと僕は大当たりのお詫びの品に目を輝かせた。


「よかったね。これは君のものだよ」


「い、いや! それはさすがに!?」


 だが本人はどうにもこんな展開は予想していなかったらしい。


 震えている神木さんは涙目で僕に訴えた。


「あの……これ……どうしたらいいと思う! 楠君も貰うんだよね!」


 どうにかしてくれとそういうニュアンスは感じるものの、人の物を奪う気にはなれない。


 僕はどうせ持ち主不在の宝物を、快く神木さんに譲り渡すことにした。


「いや、それは神木さんが偶然見つけたことにすればいいよ。とりあえず埋蔵金を見つけたら、警察に伝えて、手続きすれば6か月で所有権がもらえるから、必要ならやり方を教えるよ? 換金するなら、知り合いにそう言うのを扱ってる人がいるから紹介できるから」


 でもそのまま投げっぱなしも悪いので、とっかかりは丁寧に説明すると神木さんは訝しんだ。


「……やけに詳しくない? でもそれはさすがに……楠君が解決したようなものなんだから、楠君がもらった方がよくない?」


 神木さんはそれでも大金に化けそうな宝物を僕に譲ろうとしてくるが……やはりそれはまずい。


 僕は神木さんの肩を叩いて、丁重に申し出を断るしかなかった。


「いや、あのさ。やっぱり……何度もおんなじ奴が埋蔵金見つけてたら……さすがに怪しまれるから」


「……!」


 僕が正直にそう告げると神木さんはハッと何かを悟ったらしい。


 彼女の脳裏には今までの些細な会話が怒涛の如く駆け巡ったことだろう。


 確信するだけの材料は沢山あった。


 具体的には妙に充実した部室の器具に、立派なお屋敷で一人暮らし。


 無尽蔵ともいえる趣味の予算の出所をである。


「君……まさか……」


 神木さんはヨロリとよろける。


 まぁ、そう言うことですよねまさに。


 特に悪いことでもないはずだが、とても気まずい。


 基本的に妖怪ってやつは人間に興味津々で……例えば大切なものを隠すためにコソコソしている人間なんて特に大好物なのである。


「まぁ、その……せっかくある力なんだし有効に使わないとね?」


「そう言うことなの!?」


 爽やかに開き直った僕に、神木さんは今日一番の驚きとともに叫んだ。


 こいつは台無しってやつなのだろうか?


 ちなみに僕は絆も実益もチャンスがあるならどっちも大事だとそう思った。


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― 新着の感想 ―
埋蔵金が何度も見つかる土地ってのも町の不思議に入ってそうw
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