助っ人の力
「……ナニコレ?」
「ワフ!」
いよいよ恐怖で頭がおかしくなったかと杏樹が蒼白になっていると、犬っぽい何かは人懐っこく杏樹の周りをぐるぐる回る。
そして杏樹と龍の間に腕を組んで立ちふさがった。
「ん? なんだ? 妖怪……か? なんにせよどこから入った? 邪魔だからさっさと……」
そしてようやく犬に龍が気が付いた瞬間、犬の目がギラリと輝いた。
猛烈な勢いで飛び出した犬の頭突きが、龍の巨大な顎を高々と真上に跳ね飛ばしたのだ。
「!??……なぁ!」
「えぇ!?」
なんという神をもおそれぬ所業!
ためらいのない一撃はいっそ爽快だが、杏樹は血の気が引く。
更にどこに隠れていたのか、飛び出す色とりどりの犬達。
恐ろしく速く、死角を突いた波状攻撃は、まるで野生動物の狩りである。
「ぐお! なんだこいつら! トンチキな見た目のくせにやたらと……グオ!」
頭突きが決まるたびに響く音が重くてエグい。
龍は確実に翻弄されていた。
「どどど、どうなってるの……」
状況はわからないが、杏樹にはこのおかしな状況に既視感があった。
龍は周囲の水を操り、本格的に犬っぽい何かに応戦していた。
結果として杏樹を捕らえていた龍の囲みはほどけて、注意が散漫なのは不安定な水を見ればよくわかる。
今なら逃げ出せそうだが、残念ながら白まで開放はされていなかった。
「なら、せめてカバンだけでも……」
大慌てで取られていた自分のカバンを探すとそこで杏樹の前にカバンが差し出された。
「コレ、イル?」
「……ありがとう」
カバンを引きずって来たのは妙に綺麗な目のストーカーで、杏樹はあっけに取られたが、自分のカバンを受け取った。
相手に記憶があるのかどうかもわからないが、裏があるとかではない気がする。
「~~~ああ、もう……反応に困るなぁ」
杏樹はカバンもろとも小さなトカゲを掴んだ。
後は白をどうにか助けなければと考えていると、その時ドンと激しい音が洞窟に響き渡って、杏樹は身をすくめる。
そして龍も顔色を変えた。
「ぐぅ! 今度は何事だ!」
風が吹き抜けて来て、淀んだ空気が押し流されてゆく。
そして、ゆっくりと音のした方から歩いてきた人影に杏樹は表情を輝かせるが、すぐにはっきり見えた楠君の顔を見て一歩後ずさった。
助けが来たと思ったら鬼がいた。
楠君の目は完全に据わっていて、胡乱気な視線は龍よりもむしろこちらに向かっていた。
「君達……やってくれたな?」
あ、明らかに怒ってる!
杏樹はごくりと喉を鳴らし、でも事態が動いたことにほんの少しの希望も見いだしていた。
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