龍の言い分
「ぐぎぎ……なんだ」
痙攣するストーカーに杏樹は青筋を立てて叫んだ。
「なんだじゃない! あんたにはいい加減、本気で頭にきてるから! 付き合ってられない!」
「ヒッ!」
杏樹の怒声に、ストーカーが縮みあがる。
そしてその様子を見て、笑い始めたのは龍だった。
「ハッハッハ! 面白い娘だな! 我らが見えるその力といい気に入ったぞ。それに……我も同感である」
「え?」
「貴様の言葉はそろそろ聞くに堪えん。……協力関係はここまでとしようか」
その瞬間、龍から発せられる気配は、はっきりとした怒りだった。
人知を超える大妖怪のプレッシャーをもろに浴びたストーカーはヒュッと音を立てて息を飲む。
杏樹も一瞬で力に呑まれ体を強張らせていると、龍は動き出した。
「役に立ちたいと言うから使ってやればつけあがりおって。人質など我が欲しいと言ったか?」
「ひゃ! ひぃぃぃ!」
ストーカーは逃げ出そうとするが、水が体に纏わりついて動くこともできなくなった。
龍はぐわっと口を開け、あっさりストーカーを飲み込んでしまった。
「……!」
コロコロと飴玉を転がすように口を動かす龍に杏樹は息を飲む。
そしてあまりにもあっけなく食べられたストーカーを見て、強い恐怖を感じていた。
「むぐむぐむぐ……」
「な、なにを……」
杏樹がかろうじて声を出すと、龍は杏樹に注意を向け、プッと何かを吐き出した。
コロンコロンと飛び出たのは例のマスコット人形で、それはむくりとおきあがる。
ただそいつは妙に綺麗な瞳をしていた。
「ボクハダレ? アナタハナニレフ?」
「何言ってんの?」
意味が分からない。
そしてなんか小さくて、首をかしげるようなそいつを不覚にも可愛いと思ってしまった。
杏樹が何をしたのかと龍を見る。すると龍はまずそうに表情をゆがめて言った。
「邪気を食って浄化した。我が力で洗い流せば余計な邪気など綺麗に流れる」
「―――! これ浄化された!?」
杏樹は龍と綺麗になったストーカーの間を何度も視線を行き来させた。
確かに、近くに寄っただけで鳥肌が立つ感じがなくなっている。
杏樹はごくりと喉を鳴らして、こんなことまでできるのかと目の前の龍に戦慄していた。
「まぁそう言うことだな。さて娘。悪いが、せっかくここまで来たからには少々付き合ってもらうとしよう」
「えぇ?」
そう言って龍は杏樹を逃がさないように長い体でぐるりと囲む。
そして龍は大きな水の球を杏樹の目の前に持ってきて見せつけた。
その中に捕らわれているものを見て、杏樹は声を荒げた。
「白!」
「逃げようとすれば、こやつ同様捕らえる」
「ひ、人質はとらないって言ってたじゃないですか!?」
「好きではないが、連れてきてしまったものはしょうがない。奴はお前を探しに来るのだろう?」
目を細める龍は逃がしてくれるつもりはないらしい。
杏樹は深呼吸して心を落ち着けると、問いかけた。
「……白は、逃がしてくれるんですか?」
「もちろんことが終わればな。だから語れ。お前の知る事を」
「……そんなことを聞いてどうするつもりなんですか?」
せめてもの抵抗に杏樹が尋ねると、龍は眉間の皺を濃くしてぶるると震えだした。
「知れたこと……。無礼に対する相応の代償払わせるまでだ。だがどうにもあれは得体が知れない。我を撃ち落とすなど人の所業ではない」
「……それは、お怒りはごもっともだと思いますけど」
「そうだろう? 撃つか普通?」
「……まぁ」
言い返そうとしたけれど、実にもっともな意見すぎて杏樹は言葉に詰まった。
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