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くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。  作者: くずもち
第一章

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謎の後ろ盾

「! お前が……なんで!」


「クアアアア!」


 杏樹が何か言う前に動いた白はどろんと巨大化し、前足の一撃でストーカーを叩き潰した。


 その速度は風の様で瞬きする間に終わった。


 速過ぎて逃げることもできずにストーカーは簡単に潰されていた。


「は、放せ!」


 白の前足の下でストーカーはじたばたと暴れるが、それを一睨みした白はあきれたように溜め息を吐いた。


「馬鹿なのかお前は? わざわざ潰されに来たというのなら一思いに潰してやるのもいいが……その前に聞きたいことがある」


「ヒ、ヒヒ」


「お前……どうやってここに入った? いやそもそもなぜ動ける? 昨日今日で動けるようになるものではなかったはずだが?」


 白は厳しい口調で問いただした。


 勝ち目なんて全くない、しかしそんな状況でありながらストーカーは笑みさえ浮かべて答えた。


「そんなもの関係ないね。俺には後ろ盾がいるからな」


「なに? 後ろ盾だと?」


 不敵に笑うストーカーに杏樹は不気味なものを感じた。


 こいつは相当にひねくれていて、陰湿だ。


 だがこれだけ不利な場面で根拠もなく強がれるような性格ではないことを杏樹は知っていた。


「そうとも……あるお方が、ここのガキに用事があるらしくてな。そのために俺を雇ったのさ」


「ふん。貴様ごとき低級を使いによこしている時点で格が知れるわ」


 鼻で笑う白だったが、それでも白の足の下で不気味に笑い続けるストーカーは余裕の態度を崩さなかった。


「フヒヒヒヒ。そうだなぁ……俺なんてただの雑魚さ。でもその雑魚を軽くここに送り込めるお方だよ。話くらい聞いといてもいいと思うがね? そうじゃないとあのガキが大変なことになる」


 ストーカーの言葉に杏樹はカッと頭に血が上るのを感じていた。


「……」


 だが杏樹は怒りを深く飲み込んで熟考する。


「楠君に何をするつもりなの……」


「さてね。ガキに用があるのは雇い主の方さ。杏樹。お前に用があるのは俺だけどな。おとなしくお前が俺についてくればガキを助けてくれるように口添えしてやってもいいぜ?」


「お前が? とても信じられないな。君がそんな大物に口添えなんてできるの?」


 あの日、あっさりと楠君に無力化されたストーカーの姿をこの目で見たのだから当然だ。


 だがそう言うとつまらなそうな口調でストーカーは言った。


「ふん。そうさ。だが、ここにこうしていることが何よりの証拠だよ」


 ストーカーの体がいきなり液体のように溶けだし、あっさりと白の前足から逃れ出る。


 そしてその体から水があふれて、白に襲い掛かった。


「白!」


 すぐさま膨れ上がった動く水は完全に白の体を包み込み、その体を水球の中に閉じ込めたのだ。


「クソ! やられた! 残念だが……ただのハッタリというわけでもなさそうだ」


「……」


 白の言葉で、杏樹は認識を改めた。


 白を無力化したストーカーは杏樹の足元に歩み寄っていやらしい笑みを浮かべた。


「ヒッヒッヒ! さぁどうする?」


「……」


 杏樹はどうすればこの状況を打破できるのか考えた。


 だが、白が手も足も出ない事実は衝撃が大きい。


 自分の力の無さに歯噛みして、杏樹はごくりと喉を鳴らした。


 今の杏樹ではこの状況を好転させる方法はない。


 もし逆転の目があるとするならその黒幕がどういうつもりで楠君に手を出すのか、そのあたりを問いただすしかない。


 少なくても会話をすることは杏樹にだってできる。そして会話ができれば交渉する余地はあるはずだ。


 このストーカーも自分に執着しているから、すぐに殺されたりはしないはずだった。


「わかった……一緒に行くよ」


「そう来なくっちゃなぁ……。杏樹。さすがは俺の女だぁ」


 杏樹は舌なめずりをするストーカーを前に思わず鳥肌が立つが、ぐっと堪える。


 苦し気な白に申し訳なくって視線を向けると白の大きな瞳がくるりと動き、何かを自分に伝えようとしていることに気が付いた。


 杏樹は白の視線を目で追うと、その箱はあった。


「……」


 杏樹は自分の荷物と一緒に、例の箱もカバンに入れて振り返る。


 目論見がうまくいって上機嫌のストーカーは杏樹に怪しく手招きをした。


「さて行くぞ? 無駄に暴れなきゃ一瞬さ。そうじゃなけりゃ生身の人間がどうなるかは知らないが」


 ストーカーは足元に沈み込み、杏樹もまた地面の感触が突然なくなった。


「わ!」


 杏樹の身体は地面にずぶずぶ沈み、暗闇に落ちてゆく。


 それはまるで水の中に沈んでいくようで、ひやりと冷たい感覚は生きた心地がしない。


 沈んでゆくにつれ目に映っていた光はどんどん上に遠ざかってゆく。


「……!」


 ゴボリと吐いた息が泡になって上へ上へと昇っていくのが見えて、杏樹はせめて手にした荷物だけは手放さないように、ぎゅっと握りしめた。


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