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山神様の加護を手に入れた

 言葉そのものに重さがあるような感覚に襲われた僕は、しかし臆せずにっこり笑った。


「どうも白蓮様。頑張りましたので」


「ふむ。さぁ例の物を見せよ!」


 だが山神様の声は最初の一声よりはずっと軽く、まるで期待に胸を膨らませた子供のようだった。


「わかっていますとも」


 僕は頷き、用意していた桐の箱を山神様に差し出した。


 箱を見た山神様は機嫌よさそうに喉をゴロゴロ鳴らして、縛っていた紐を器用に引っ張ると、中の物を大切そうに眺めていた。


 当然、箱の中身は神木さんも知っている。


 それは僕が先ほど作り上げた戦車のプラモデルで、山神様は本当に大切そうに眺めているのだから訳が分からないに違いない。


 だが献上品はそれで間違いはない。白蓮様は手に入れたそれをひとしきり眺め終えると、興奮した様子で歓声を上げた。


「よしよし。素晴らしい出来だぞ!」


「ありがとうございます」


「では早速使ってみるとしよう!」


「ええどうぞ」


 山神様が大きな前足を戦車の模型の上に置いた瞬間、山神様の体はプラモデルに吸い込まれるように消えた。


 しかしその気配は一気に膨れ上がり、山神様が消えた後には、別のものが現れたのだ。


「へ?」


 神木さんは気の抜けた声を出して、それを見上げていた。


 現れたそれの存在感はある意味では、山神様自身よりもすさまじい。


「どうです? 新しい器の感触は?」


 僕が問いかけた先には、実物大のタイガー戦車がグラウンドに駐車してあった。


 戦車はギャラギャラと重い音を立てて、グラウンドを旋回した。


「おお! いいじゃないか! 前より動きがスムーズだぞ!」


 戦車から聞こえてくるのは白蓮様の声である。


 動き回る戦車を僕は真剣な表情でチェックして、良しと頷いた。


「それはよかった。でもむやみやたらとぶっ放したりはしないでくださいよ? それでなくても戦車は目立つんだから、出来るだけ姿は消してくださいね?」


「わかっているとも……基本は山の中を走るだけにしておこう。……基本はな?」


「……なんで二回言いました? 本当にお願いしますよ?」


 グインと回った砲身がたまたま向けられた神木さんは蒼白で震えていた。


「なにこれ……」


「まぁ驚くのも無理はない。僕が作った模型に白蓮様が入ったんだ」


 感覚を研ぎ澄ませば白蓮様の力が比べ物にならないほど上がったことを神木さんなら感じ取れるだろう。


 十分に動きを確認した戦車はどろんと消え、再び白い虎と模型の戦車が現れる。


 そして山神様は虎の顔のまま器用に笑った。


「うん。満足だ! また壊れたら頼む!」


「もちろんです。今後ともごひいきにお願いします。ああそれと、白蓮様にお伝えしておくことがございます」


「ほう。なんだ?」


「この土地に新しく住むことになった新入りです。僕と同じく見える者ですがちょっと厄介な奴に絡まれまして、妖怪を怖がっていますのでご配慮いただけると助かります」


「ほぅ……それは難儀な話よな」


 ごく自然に差し出された僕の手のひらが、自分を指していると気が付いた神木さんはビクリと跳ねる。


 目を細めてそんな様子を眺めていた白蓮様は、楽しげにひげを揺らした。


「これは美しい娘だ。それに中々力もある。先祖の血統が良いのか、世が世ならよい巫女になったであろうな」


「どうぞよろしくお願いします」


 僕は神木さんに代わって頭を下げた。


 山神様は前足の肉球を神木さんの頭に押し付けると、彼女の体をぼんやりとした光が一瞬包んだ。


「よかろう。気にかけておく。白よ、この娘も見ておいてやれ」


「はい、お館様!」


 大きな白い狐形態の白は山神様に深々と頭を垂れていた。


 山神様はがちがちに固まった神木さんの顔を覗き込み、その顔をぺろりと舐めた。


「……!」


「そう怯えるでない娘よ。今日は良き日であった。すべての縁は天からの賜りものだ。力ともども大切にするがよかろう。なにか用事があれば楠家を訪れよ。お前の力となるはずだ」


「ありがとう……ございます」


「……なんかナチュラルに窓口にされましたが?」


「いいではないか。適任だろう? 我もまたそのうち顔を出す」


 山神様は最後に僕の頭に前足を乗せてぐりぐりと撫でまわした。


「よろしい。太平は筋金入りの趣味人だが、娘も愛想をつかさないでやってほしい」


 ただ最後に付け加えられた余計な一言で、僕の顔は赤くなった。


「白蓮様……勘弁してください」


「はっはっはっ! では顔見せも済んだことだし、今宵はお開きにしよう。行くぞ、お前達」


 白蓮様は言いたいことを言って、踵を返すと山に帰っていった。


 妖怪達がいなくなるのはあっという間だった。


 校庭に残されたのは僕と神木さん、そして一匹の狐だけとなる。


 僕は胸を撫で下ろす。


 よかった無事終わった。これで神木さんも少しは安心して出歩けるはずである。


 僕はおおむね予定通りに事が運んだことを喜んでいた。


「よかったね。神木さん。受け入れてもらえたみたいだ」


「……」


 放心していた神木さんは言葉が出てこないらしい。


 ただ、静かになった夜の闇を眺めて神木さんはぽつりと呟いた。


「あれって……ひょっとして」


 そこでなぜかバッと僕の顔を見た。


 何かが頭の中でつながったらしく、神木さんの表情は見る見るうちに驚きから閃きに変わってゆく。


「どうしたの? 神木さん?」


 そして僕の声を聴いた瞬間、神木さんは豪快に叫んだ。


「あの時の! 河川敷のあれも楠君の仕業!?」


「えぇ……あれってどれだろ?」


 まるで心当たりがない事で、大声を出されると本気で怖いなとちょっぴりビビる。


 結局訳が分からずに、僕は首を傾げた。


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