第3話 エリザベスと親友ランラン
「で、どうだったのよ、エリザベス」
牛女ことエリザベスは魔王城の食堂で飲み物をズズズと飲みながら、目の前に座っているパンダ魔族の親友ランランに向けて首を傾げた。
二人は魔大学で出会い、意気投合し数日前から魔王城にインターシップに来ているのだ。
「なにが?」
「なにがじゃないわよ、見たんでしょ」
「だから、何を?」
「魔王様よ」
なぜか口元を片手で隠しながら、ひそひそ話でもするように尋ねる。
「あぁ、見てないわ」
「なんでよ」
おもわず立ち上がったランランがハッとあたりを気にして席に着く。
「だって、この間、魔王様の寝室に行ったって」
「いったけど、なんか女魔禁制って、すぐに追い出されたわよ」
「そうなの」
ランランはつまらなそうに呟いた。
「なにランラン、魔王様に興味あったの。あんなに白黒柄じゃない奴に興味ないって、こないだ白熊魔族の彼振っていたくせに」
「そうよ、白一色なんてつまらない雄に興味なんてないわよ。でも魔王様は別よ。だって、魔王様を射止めたら皇后よ」
夢見るお姫様のようなまなざしでどこか遠くを眺めるとフッと吐息を漏らす。
「えー私はやだな、皇后だって、なんか面倒くさそうだし、だいたい白黒のまえに毛が生えてないのよ、私は無理」
エリザベスが鼻で笑う。
魔族は見た目で大きく分けると獣系・爬虫類系・人型がいる。
獣系は全身に毛があり、爬虫類系は毛がない。そしてそのほとんどが魔力の少ない下位魔族と呼ばれる魔族だ。
そして人型はもとは獣や爬虫類系だった魔族が、戦いや修業の末進化して生まれた魔族だ、なので、魔力量も多いものが多く中位~上位魔族と呼ばれている。
それとは別に、もともと魔族とは少し別格の悪魔族と言われる種族は元から人間と同じような姿をしているという。
「まぁそうよね。魔王様って上位魔族に進化したとはいえ所詮鬼族だもんね」
そういうと、遠くの方で騒いで大声で騒いでいる鬼族の一団とちらりと目で見てため息をつく。
オーク・トロール・オーガ。鬼族から進化した魔族は多々いるが、そのどれもが頭の上からつま先までほぼ毛が無いツンツルテンだった。逆に頭部にだけ毛を残したままの進化した鬼族は鬼族系魔族では下に見られるという。
「やっぱ、私も無理。いくら贅沢できても毛が全然ないなんてありえないわ」
獣系と人型では美的感覚が全く違う。獣系魔族の美の優劣は毛の色、艶だけと言っても過言でないほど重要要素である。
「でしょ」
「ちなみに宰相様はどんな方だったの?」
「宰相様は……」
魔王が眠りについて500年。
「魔王城は大丈夫だから、魔王城まで人間が近づけないよう、地方の守りを固めろ」という名目で、上位魔族、特に悪魔族は全て魔王都市から地方に追いやった人物だ。
今は平和な魔界だが、魔族は元はより強いものを倒してのし上がるのが好きな弱肉強食。
眠っていて無防備な魔王の王座を狙う輩を追い出したかったのだろうが、自分より下位と中位の魔族ばかりを魔王都市に残したことから、本当は自分が魔王都市を支配するのが狙いではないかという噂もあった。実際上位魔族である宰相一人にかなうものは、いまこの魔王都市にはいない。
エリザベスは昨日初めて見た宰相を思い浮かべる。
兄の名前を憶えていないなど、ちょっと上司としてどうなのと思うところはあったが、兄の病気を気遣ってくれている言葉や、つっけんどんではあるが横柄ではない態度。噂に聞くような悪い人物とは思えなかった。
「上司としては悪くはないけど、恋人としてはないわね。やっぱ顔に毛がない時点でいくら上位魔族でも無理」
しかしランランが聞きたいのは噂のほうではないだろうと、ちょっと笑いながら答えた。
エリザベスのその様子にランランもすっかり興をそがれたようで、カバンから雑誌を取り出すと、次の話題を探すのだった。