第13話 ランランの愛読書
「まじヤバいからこれ読んで」
昼休みに興奮気味に、ランランはそう言うと、エイザベスの目の前に一冊の少女漫画を置いた。
エリザベスは兄のギルガメシュの影響で少年漫画はよく読んできたが、少女漫画はほとんど読んだことがない。
「いいから、まじヤバいの、恋愛の革命だから」
ランランの語学力が低すぎて何をいっているのかわからないが、とりあえず読まないことには話題を変えてくれそうにない。エリザベスは仕方なくランランの持ってきた少女漫画のページをめくった。
「ねぇマジやばくない?」
「確かに──」
そう返しつつ額を押さえる。
少女漫画と言えば種族同士の恋愛が王道。たまに異種族の恋愛もあったが、それでも毛色違いでの恋愛程度だった、しかし今回の漫画は毛皮を持つ種族と毛皮を持たない種族の全くの異種族同士の恋愛。それだけでも少女漫画としてだいぶ攻めの戦法だといえるのに、さらに異性でなく同性同士の恋愛話だったのだ。
「BLっていうジャンルらしいよ」
ランランが興奮気味にエリザベスに顔を近づける。恋に恋する乙女ランランは初めて開いた扉に、どうやら親友であるエリザベスも一緒にハマってくれることを望んでいるようだった。しかし
「トカゲ魔族は途中で性転換できるらしいから、するのかな」
エリザベスの指摘に、ランランが呆れたように肩をすくめる。
「そういう話をしたいんじゃないの。私は種族も性別も越えた愛。そう禁断の愛の話がしたいのよ」
「禁断の愛って……」
漫画の中では白黒の毛皮の美しい犬魔族と固い皮膚が取り柄のトカゲ魔族の兵士の種族も身分も違う、そして同性という偏見と闘いながら愛を勝ち取るまでのストーリーが描かれている。
もともと他種族同士の恋愛すら興味がない牛魔族のエリザベスにとって、毛もない種族で、さらに同性が相手など全く持って理解できないし、ランランが何にそんなに興奮しているのか少しもわからなかった。
「種族が違うだけでも面倒なのに、なんでわざわざ」
「まったくエリザベスはお子様ね。沢山の障害があっても抑えられない、それが究極の愛なのよ」
エリザベスの言葉を途中で遮るとランランが、愛について自論を語り始める。
(ついこないだまで、一色はつまらないとか、毛皮を持たない種族など問題外だといっていたのに……)
そんな姿にエリザベスが小さく鼻で笑った。馬鹿にしているわけではない。新しいものを取り入れ好きなものは好きと素直に言えるランランが可愛らしく、そして少しうらやましかった。
きっとランランみたいな妹だったら、あの牛魔族らしからぬ兄の恋愛も素直に応援できるんだろうな。そんなことを思い小さくため息を付く。
(まあ、私には無縁の話だわ)
しかしその数日後、思わぬ形でこの漫画の作者と関わる羽目になるのだった。