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第12話 秘書官は見た

「宰相様、この書類に……」 


 宰相の秘書である犬魔族のショコラは、目に飛び込んできた光景に反射的に扉を閉めた。


「えっ? えっ? なに? どういうこと?」


 今しがた見た光景とセリフを、頭の中で反復はんぷくする。


『宰相様行かないで!』

『許可なく子供なんて──承知しませんよ』


 宰相がなんといっていたのかは聞き取れなかったが、だが牛魔族のほうは間違いなくそう言いながら、宰相にすがっているように見えた。


「……これは……」


 なぜだろう胸がドキドキして何か熱いものがこみあげてくる。

 いままで感じたことのない感情にショコラは戸惑いながら、もう一度部屋の中をそっと覗き込む。


(だから何が起こっているのよ!?)


 その目に、今度は後ろから牛魔族に抱きしめられている宰相の姿が飛び込む。

 衝撃のあまり悲鳴を上げかけたが、それをぐっと飲み込むと、再び音を殺して扉を閉める。


 ショコラは呆然と閉めた扉を見詰める。

 仕事は真面目にこなすが、自分たち獣系魔族とはどこか一線を引いている宰相。

 表情も人型のため獣魔族であるショコラたちには読み取りにくいとはいっても、それでも喜怒哀楽ぐらいはわかる。でももう数十年一緒に仕事をしているが、思い出せるのは無表情で言葉も最低限の仕事の話しかしない宰相の姿だけであった。

 「何を考えているかわからない」それがショコラたち秘書課の悩みでもあるほどだ。


 しかし、今しがたショコラが目にした宰相は、いつもの無表情な感じではなく、どこか柔らかい楽し気な印象を受けた。


「それに、あの牛魔族、確かギルガメシュ様も」


 牛魔族は基本温和な性格だと言われてはいるが、小型の犬魔族のショコラにとっては、その大きな体格は少し怖い、近寄りがたい存在だった。だから魔王の寝室にいるのは知っていたが、挨拶程度でほとんど話したことはなかったのだが。


「あれ、あれあれ」


 宰相に縋りつく姿や、泣きそうな顔で後ろから抱きしめる姿が頭から離れない。

 いままで怖い近寄りがたいと思っていたのに、今はその姿がなんだか微笑ましく、可愛らしく思えてもう一度見てみたいとさえ思う。


「あの、二人……」


 そう時ショコラは雷に打たれたような衝撃を覚えた。

 それはまさに天啓だった。そしてそのまま秘書課に踵を返すと、珍しく早退をしたのだった。

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