第11話 掃除中あるある
「あれ、これは……」
ギルガメシュが本棚を整理していると、一枚の人物画がヒラリと落ちた。
(魔王様と……宰相様?)
真っ赤な髪を腰のあたりまでなびかせ、年のわりにがっちりとした肉体美を惜しげもなくはだけさせた鬼神族の男と、赤子を抱いている緑の髪の青年が描かれた絵だった。
「それは前魔王様だ。私に抱かれている赤子が現魔王様だ」
ギルガメシュは不意に後ろから声をかけられビクリと肩を揺らした。
「へぇ、これが前魔王様……」
現魔王様が赤子ということはいったい、いつの時代の物なのだろう? そう思うと同時に別の疑問が浮かぶ。
魔王様の一族は眠ると若返るということは、前魔王様もまだご存命なのだろうか?
「前魔王様はもういないぞ」
牛魔族はあまり表情がないといわれているのに、なぜか宰相はギルガメシュが心に思ったことにかってに答えてくる。
「そうですか……」
まぁ、死因は老死だけではない。
「これも秘密事項なのだが、魔王様や私のような特殊な一族は、その性質を子供に譲与することによって、その性質を失ってしまうのだ」
「へぇ……」
そしてこの宰相様は秘密だ秘密だといいながら、平気で秘密事項を自分に話す。
ギルガメシュは思った。まぁ自分は誰にも話さないが。それをわかっているからなのか。信用されていると思っていいのだろうか。
そんなことを考えていたから、その重要性に一瞬気が付くのが遅れた。
「それでは、魔王様や宰相様は子供ができると、歳をとって死んじまうってことですか?」
「そうだな、魔王様の一族は子供に能力が授与されたら、もう寝ても若返ることがなくなるから普通の魔族のように歳をとる。そして、私は、1年に1歳ほどの速さで急激に老化が始まる」
さらりと言い放つ宰相に
「1年に1歳……っ」
種族にして違いはあるが平均して魔族は10年に1歳老けていくのが普通だそれが1年に1歳。
それは今宰相が子供を作ったら後70年、いやもっと短い時間しか一緒にいられないということだ。
魔王様の世話係を初代から引き継いで約40年、そして宰相とこんな風に話せるようになったのは本当にごく最近だ、それなのに下手をしたら数十年後にはこうして一緒には働けてないかもしれない。
「嫌です! 宰相様逝かないでください!」
ワーンとおもわず宰相にしがみつく。
「誰が逝くか、まだ結婚もしていないのに」
宰相は迷惑そうにそれを押しのける。
「本当ですか? ダメですよ。あっしの許可なくどこかで子供なんてこしらえたら、承知しませんよ」
なんで、お前の許可が必要なんだというあきれ顔をうかべながら、面倒くさくなりそうなので「はいはい」と適当に返事をする。
長命な種族は長命であるがゆえかあまり子孫を残さなければという意識が薄い、それに加え、自分たちはその行為が自分の人生を終わりに向かわせることになるのだ。しかしそうしてでも良いと思えるような愛を誰かに向けれる日が来るのだろうか。
前魔王は女好きだった。だからいつかこんな事故が起きると思っていた。しかし前魔王はもう若返らないとわかると。「とうとう俺にも子供ができたか」といってうれしそうに笑った。そして手を出した魔族を調べ赤ん坊だった現魔王を見つけたのだ。
これも一つの愛の形なのか。
ひょいとギルガメシュから写真を取り上げると。まだ抱きついているギルガメシュを吹き飛ばす。そして早く掃除をしろとしかりつける。
でも今は──
「早く、目を覚ましてください魔王様」
大きくなった赤子を愛しむようにやさしく髪を撫ぜた。