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第八話 共鳴

このお話は初投稿版の19部分にあたります

「まとまった!」

 多分これでいける! とヒロが車を飛び出した。

 あわてて晃も車を降りる。

 

 車をまわりこんできたヒロが、晃の前に立ち息を整える。


「共鳴… 響かせる…。円を…。振動… ゆれる…」

 目を閉じぶつぶつとつぶやいていたヒロが、ゆっくりと目を開ける。

 そこには動揺も不安もなく、波ひとつない水面のような静かなまなざしだけがあった。


「晃。手を」

 両手を差し出され、つられて手を出す。

 二人で手をつなぎ、大きな輪をつくる。


「イメージしやすくなるから、目を閉じて」

 言われ、目を閉じる。


「霊力の流れを感じる?」

 問われ、うなずく。


 晃の祖父は修験者だ。

 晃も幼い頃から修験道の修行をしている。

 これは、それと同じだ。

 心を静かに保ち、霊力を感じる。

 自分の中の霊力、自分の外の霊力。


 息を吸って、吐いて。


 いつもの修行と同じだと意識したら、自然と呼吸も修行モードになる。


 この場所は霊力の濃い場所のようだ。

 密度が違う。取り込む霊力も多い。

 そんな中でも手をつないでいるヒロの霊力を感じる。

 属性は違うけれど、自分の内にあるものと同じ霊力(もの)を感じる。


「――霊玉を、思い浮かべて」

 穏やかなヒロの声に導かれるように、頭の中にいつも見ている霊玉が浮かぶ。


「いつもは左手に現れる霊玉が、身体の中心にある」


 身体の中心。

 いつもじいちゃんに「ここが中心」と押されていた、へその少し下。丹田(たんでん)

 祖父に押されていた感覚を思い出すと、そこに霊玉があるのを感じた。


「身体の霊力を巡らせて。右手から頭をとおって、左手。胴をとおって、左足、右足」


 ヒロの声に霊力が流れている感覚が鋭くなる。ぐるぐると、身体中を霊力が巡る。


「ぐるぐる、ぐるぐる。渦になる。渦になって、霊玉に集まる」


 ヒロの言葉に、霊玉に霊力が集まる感じがする。

 霊力が、圧縮されていく。

 それと同時にヒロの霊力も感じる。初めて会ったときのような、引っぱられるような、響き合うような。

 自分の中の霊力が霊玉に込められるにつれて、その感覚は大きくなる。


 リィン… リィン… と、響きあう霊力に呼応するような音がする。

 初めて会ったときは一度その音が聞こえたらすぐにおさまったのに、霊力を込め続けているためか、何度も何度も響き合う。


 まるで鈴の音のようだ。ゆっくりと響くその音に身をゆだねていると、穏やかな気持ちになる。


 感じるヒロの霊力も、自分と同じ大きさ、強さになっている。

 つないだ手からヒロが晃の状態を察知し、合わせてくれているのだとわかった。

 そうしてヒロの霊力に意識がむくと、ふと他の気配を感じた。


 ああ、あそこにも自分と同じ存在がいる。


 どこにいるのかはわからない。

 誰かもわからない。

 でも、確かに、いる。


 それは不思議な感覚だった。

 うれしいような、懐かしいような、慕わしいような、頼もしいような。

 形容しがたいあたたかい感覚が、霊力と一緒に霊玉に集まっていく。


 目の前のヒロ以外の気配も静かに感じてみる。

 力強い気配がひとつ。涼やかな気配がひとつ。弱々しい気配がひとつ。そして、もうひとつ。


 ――もうひとつ?


 そう感じたとき、リィン、と響いている音が鈴のイメージから錫杖(しゃくじょう)のイメージに変わった。


 自分達修験者が山の中で持ち歩く錫杖。

 だから、錫杖をイメージして連想されるのは修験者のはずなのに、何故か思い浮かんできたのは、錫杖を持った僧侶だった。


 そう思い浮かんだ途端、晃は真っ白な世界にいた。

 そこには一人の僧侶がいた。


 編み笠をかぶっていて表情は分からない。しかし、晃の霊力が他の霊力と呼応してリィン、リィン、と鳴るのに合わせ、錫杖をついている。

 錫杖の先が向いているそこには、黒くて大きなモノがあった。


 何なのかはわからない。

 大きくてまるくてもやもやした、何か。

 それこそが自分達の霊力と共鳴しているのだ。


 ――どうか…


 何故か、意識を感じた。

 声が聞こえたのではなく、想いが伝わってきた。


 ――どうか、助けて…


 それは多分、僧侶の意識だった。

 誰に向けられたものかはわからないが、僧侶がずっとそう願っていることが伝わってきた。

 黒くて大きなモノからは、意識は伝わってこない。

 直感で、何かを飲み込もうとして、もやもやもごもごしているのではと感じた。


 ――のみこむ?


 何かが、ひっかかった。

 しかしそれが形になる前に意識が白い場所から離れた。

 ヒロにぐっと手を握られた感触で、戻ってきたのだ。


 どうやら意識がどこかに飛んでいたらしい。

 こんなことは初めてだった。

 やはり同じ一人の男から分けた霊力を持つ霊力守護者(たまもり)同士が共鳴しあっているからだろうか。

 だとしたら、あれは誰だったのだろうか。


 また意識がそれそうになったのに気付いたのだろう。ヒロが再び強く手を握ってくる。

 無意識でも自分の霊力は問題なく巡っていたらしい。

 自分の霊力を確認し、大丈夫だと示すためにヒロの手を握り返す。

 ヒロからホッとした気配を感じた。




 練り続けている霊力はどんどん強くなっていく。

 丹田の霊玉がいっぱいになった感覚がする。

 ここまで霊力を込めたのは初めてで、少しこわくなる。

 そのタイミングを見計らっていたのだろう。ヒロが声をかけてきた。


「霊玉を、広げる。大きくする。さっきの風船みたいに。ゆっくりと」


 ぷうー。と、ハルが風船をふくらませる様子が浮かぶ。

 あの風船みたいに。

 イメージと連動して、霊玉が大きくなっていくのがわかる。


 ぷうー。と、霊玉が少し広がる。

 少し広がって動きやすくなったのか、霊玉の中の炎がふわりとゆらめく。


 ぷうー。と、また少し広がる。

 霊玉の炎がくるりとまわる。


 吸って、吐いて。呼吸にあわせてイメージの風船と身体の中心の霊玉が少しずつ大きくなる。

 ヒロの霊玉も同じように大きくなっているのがわかる。


 ゆっくりだった共鳴の音は、霊玉が大きくなるにつれて、リンリンリンリンと間隔が狭くなり、ついにはリリリリリリ…と、絶え間なく鳴り響いている。


「大きく、大きく。身体の外にはみ出して、二つの霊玉がぶつかるように」


 霊玉が大きくなるにつれて、その中の炎のゆらめきが大きくなる。ゆらゆら、くるくると踊っていた炎はやがて龍と見紛うばかりに激しく強く燃え上がっている。

 手をつないでいるヒロの霊玉も感じる。先程目にした霊玉が、大きく大きくなるその中で、水がざぶざぶと渦を巻き、こちらも龍が踊っているようだ。

 他の気配も、強く響き合っているのを感じる。



「ナツ…。どこだ、ナツ…」


 ヒロが目を閉じたまま呼びかける。

 晃はナツにあったことがないので、どの気配がナツかはわからない。

 ヒロも、気配は感じているようだ。

 ヒロは全員に会ったことがあるから、どれが誰の気配か、きっとわかっている。

 それでも「どこだ」とあせった声がもれてしまったのは、ナツだけ異界にいるため場所が特定できないためだろう。


 そう考えて、晃は気付いた。

 場所が特定できない気配。それがナツだ。


 場所が特定できない気配は二つある。ひとつは先程の黒くて大きなもやもや。

 もうひとつの、弱々しい気配。

 これがナツだ。

 そう思い、さらに意識を集中させる。


 場所はわからない。でも、いる。

 もっと意識を集中させる。

 霊玉は身体をはみ出し、二つのそれがまさに今重なろうとしている。


 もっと、もっと。ナツの気配を、つかまえるんだ。

 集中して、集中して、霊力の共鳴している場所を感じて――。


 その時。ふっと、誰かの姿がみえた。誰かが地面にうずくまっている。

 ――見つけた!


「「ナツ!」」



 期せずして、ヒロと同時に叫んだ。その瞬間。


 パン!と、ぶつかった二つの霊玉がはじけた。

次話は明日19時に投稿します

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