表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/45

第五話 おやつと異界の説明

このお話は初投稿分の12〜13部分にあたります

 食事が終わると、晃はヒロと荷物を置いた部屋に戻った。

 六畳程の広さだが、ベッドが置いてあるので狭く感じる。

 扉を入って正面に窓が一つ。右の壁にクローゼットと机。左の壁際にベッドが置いてあった。


「しばらくここが晃の部屋になるから。クローゼットも机も好きに使ってね」


 ヒロにうながされて着ていた上着を脱ぐと、クローゼットのハンガーにかけてくれる。


「朝から移動でつかれただろ? 夕方からまた移動するから、今のうちにちょっと寝とくといいよ」


「…うん。ありがとう」


 正直、すごく助かる。


 朝から緊張の連続で体も精神もヘトヘトだし、ムズカシイ話を聞いて頭もいっぱいいっぱいだ。

 とどめにおいしいごはんを腹いっぱい食べてしまい、睡魔がすぐ横までせまってきていたのだ。


 ベッドにかけてあった掛け布団をめくり、さあ寝ろとヒロがうながしてくる。


「また三時頃起こしに来るから。それまで寝てて。おやすみ」


 バタンと扉を閉められ。


 ――そこで、記憶がとぎれた。




 ハッと目が覚めた。

 目が覚めたことで、自分が寝ていたことに気付いた。

 いつの間に寝たのか全くわからない。

 多分ベッドに倒れて、そのまま寝ていたのだろう。


 壁にかけてある時計を見ると、三時前だった。

 二時間くらい寝ていたらしい。

 しっかり食べて寝たからか、体力も精神力も回復している。


 うーん。と伸びをしていると、ノックの音が響いた。

 返事を返すと、ひょっこりとヒロが顔をのぞかせた。


「あ、起きてた?」

「うん。今起きたところ」


 よかった。と言いながら、ヒロが扉を大きく開ける。


「顔洗っておいで。そのあとで出かけるから、上着だけ持って出てね」


 言われたとおり上着を持ってトイレと洗面を済ませる。

 顔を洗うとさっぱりして、しゃきっとした。


 さてヒロはどこだろうと歩いていると、丁度ヒロが階段を上がってきた。

 何故か晃の靴を手に持って。


「あ。準備できた? じゃあ、こっち来て」

 手招かれ、ヒロと一緒に食堂に入る。食堂の奥、カウンターキッチンの入口の反対側の扉の前に立つ。


「はい。これ持って」

 自分の靴を渡され、受け取る。

「手、出して」

 言われるがまま靴を持っていない右手を出すと、ヒロが手をつないできた。

 そのままがちゃりと扉を開け、部屋に入る。



 入ったところは、広い部屋だった。

 すぐ目に入ったのは、カウンターキッチンの奥に立っている明子と、その前のテーブルについているハル。

 扉の音に気付いたのか、二人共すぐに顔を向けてくれる。


「あら晃くんおはよう。少しは眠れた?」

「はい。おかげさまでスッキリしました」

 正直に述べると、二人共にこりと笑ってくれた。

「こっち座ってこっち」と、まるで昼食時の再現のように椅子をすすめられる。


 テーブルの上には、これまた所狭しと盛皿が並んでいた。

 いちばん大きく目立つのが、中央の大皿。豆餅がこれでもかと並んでいる。

 つぶれないようにだろう、重ねられていないので一番スペースをとっているようだ。

 豆餅の入った大皿のまわりの皿も、あふれそうなくらいの菓子が盛ってある。

 せんべいとドーナツはわかったが、あとの菓子はよくわからない。

 そこにさっさと晃の靴をどこかに持っていっていたヒロが戻ってきた。


「うわぁ~! 豆餅だ! どこの?!」

 明子が店名を告げると、やったー! とヒロが喜び飛びあがる。

「しかも今買ってきたばかりよ」

「やったー!!」

 見た目は高校生くらいにみえるのに、こうやって豆餅に喜んでいる姿は子供っぽくて、やっと自分と同じ中学一年生だと思えた。あと数日で中学二年生だが。


「晃、晃! フィナンシェもラスクもそばぼうろも明日食べても大丈夫だから!

 これ!この豆餅食べて!!

 ここの豆餅チョー有名なんだよ!! 甘さひかえめのあんことお豆のしょっぱさが絶妙で、何個でもイケるんだよ! おまけにこれ! わかる?! このやわらかさ! 買ってスグのやわらかさ!! 今食べなきゃダメでしょ?! 食べて! とにかく食べて!!」


「落ち着けヒロ。晃がドン引いてる」

「何言ってんだよハル! 豆餅だよ?! 出来立てだよ?!

 明さん! 明さんありがとう!! ぼく、めっちゃうれしい!!」

 ハルの制止も聞かず、興奮おさまらないヒロはそのまま明子に感謝のハグをする。

 明子もいつものことだと抱き返している。


「さあさ。いくつでも召し上がれ。

 晃くん何が好きかわからなかったから、色々用意してみたの。

 何でも好きなモノをつまんでね」


 荒ぶるヒロを椅子に座らせ、お茶を煎れてくると明子がカウンターのむこうに移動する。

 少しすると緑茶のいい香りがしてきた。


 その間にヒロは幸せそうな顔で豆餅を食べている。

 もりもり食べているはずなのに、食べ方に品がある。育ちの良さがにじみ出ていて、都会の人はちがうなぁと感心する晃だった。



 どうぞ。と出されたのは、触るのもこわいような薄い飲み口の湯呑み。

 真っ白な湯呑みの中に、鮮やかな緑の液体が良い香りをたてている。

 強く持ったら割れそうな湯呑みをそっと手に取り、いただきますと口をつける。

 緑茶のはずなのに甘く感じた。


「おいしいです」

「よかった」


 明子に礼を言い、豆餅に手をのばす。

 先程までパンパンだったはずの腹は、昼寝したことで落ち着いたらしい。

 ヒロの熱弁と目の前での食べっぷりに興味をひかれ、豆餅にひと口かじりつく。


 口にした瞬間、そのやわらかさに驚いた。歯がいらないんじゃないかと思うほどやわらかい。噛みしめると豆の食感がくる。おもしろい。二口目であんこに到達した。なるほど、あんこの甘さが豆をひきたて、豆がまたあんこをひきたてている。これはおいしい。気がつけばぺろりと一個食べていた。


 ちなみに晃が一個食べ終わった時、ヒロは五個目に突入したところだった。

 昼食もしっかり食べていたのに、あの細い体のどこに入るのか不思議だ。



 餅をもぐもぐ食べながらぐるりとあたりを見回す。

 何気なく窓の外を見ていて、そこでふと違和感を感じた。


 先程まで感じていた、濃厚な山の気配を感じない。

 部屋一つ移動しただけでこんなに違うものだろうか。

 窓を閉め切っているからわからないのだろうか。

 疑問に首をひねっていると、ハルから声がかかった。


「ヒロも落ち着いたことだし、これからの説明をするぞ」


 八個目の豆餅を持ったヒロが真面目な顔でうなずいた。




「まず早急に行ってもらいたいのは、霊玉守護者(たまもり)の合流だ」


 ハルの言葉に、晃は首をかしげた。


霊玉守護者(たまもり)が五人一緒にいたら何が起こるかわからないから、他の霊玉守護者(たまもり)と会わせられないって、おれ、白露様に言われてたんだけど」


 昔から白露はそう言っていた。

 五人が一堂に会すると何がおこるかわからない、と。

 もっと霊力コントロールができるようになったら、別々になら会えるかも、と。


 晃の言葉にハルもうなずいた。

「その『何が起こるかわからない』は、『「(まが)」の結界が破れるかもしれない』てことだよ。

 もう破れてるんだから今さらだ」


 むしろ、とハルが続ける。

「最終的には霊玉守護者(たまもり)五人で『(まが)』を封じてもらいたいから、早急に五人集まって修行に入ってもらいたいんだよ」


 なるほど。と晃は納得した。



「さっきも話したけれど、晃とヒロ以外の霊玉守護者(たまもり)はあと三人。

 『(もく)』の佑輝(ゆうき)、『(ごん)』のトモ、『()』のナツだ」

 指を一本ずつ広げてみせながら、ハルが説明を続ける。


「そのうちの一人。ナツの行方が未だにわかっていない」


 頭に浮かんだのは、昨日の光景。

 大きくなった面の(くら)い口に喰われた、白露の姿。


「僕を含めた占術の得意な者で占った結果、ナツはまだ『(まが)』にとりこまれてはいないと思う」


 どうやら最悪の事態ではないようだ。そのことにほっと息をつく。

 ということは、白露と同じく、とりこまれようとしている最中ということだろうか。


「多分だけど」と前置きして、ハルが続ける。

「ナツは白露様とは違う状況にあると思う」

 どういうことかと話の続きをうながすと、ハルは続ける。


「ナツは多分、異界にいるんだと思う」

 異界。またわからない言葉がでてきた。


「さっき教えてくれた異世界とは違うのか?」


「いや、あれとは違う」

 どう説明するか、と少し考えて、ハルは口を開いた。


「異界は、僕らのいるこの世界にできる、違う時空の世界だ」

 並行世界とも異世界とも違う、とハルは続ける。


「異世界は、次元の違う全く別の世界。

 並行世界は、同じ次元の、別の世界。

 でも異界は、同じ次元の同じ世界の中に、新しく自分だけの空間を作ったものなんだ」


 理解しようとして頭がぐるぐるしている晃の様子に、ハルは少し考え、ポンと手を打った。そしてどこからか風船を取り出してふくらませはじめた。大きくふくらんだところで空気が抜けないよう吹き口を指でつまみ、晃に見せる。


「たとえば、風船をふくらませるだろう。

 風船自体はこの世界にあって、見ることも触ることもできる。

 でも、この風船の中には触れない。

 この、風船の中の世界が『異界』だ。


 風船の、触れる表面が境界。息を吹き込む吹き口が異界の入口と考えたら、わかりやすいかな?」



 風船をじっと見つめる。

 なるほど、外からでは風船の中は見えない。

 この中に違う世界があるとイメージすると、少しわかるような気がした。


「霊力の高い人間や霊獣が作ってて、時々迷い込む人間もいるよ。神様達の世界も異界だし、桃源郷とか、竜宮城とかも異界」


 例を出されると、なるほど、と思う。たしか色々な昔話でも、迷い込んだ人間が「まるで別の世界」へと行き、帰ってくるのだ。


「異界は、結界の上位版なんだ」

 そしてハルは結界について説明してくれる。



「そもそも結界は大きく二パターンある。


 イノシシ除けの電気柵みたいに、対象を入れないようにするものがひとつ。


 もう一つは、全く別の空間を作ってしまうもの。

 その中でも、時間を完全に停めてしまうものと、時間は外の世界と同じように経過するものがある。

 白露様と霊力コントロールするときに結界張ってなかったか? それがこっちのパターンだ」


 ハルは、そうだなぁ、と考え、再び風船を見せてくる。


「言ってみれば、この辺りの空間をコピーして、この風船の中にもう一つ同じ空間を作る。

 これが、別の空間を作るパターンの結界」


 そういえば、と思い返す。

 霊力コントロールに失敗して辺りを燃やし尽くしてしまった時でも、白露が結界を解くと何事もなかったように元に戻っていた。あれは修復していたのではなく「別の空間」を白露が作っていたということか。


 ここまでの話を晃が理解したと判断したハルが、さらに説明を続ける。

次話は明日19時に投稿します。

ちょっと時間変えてみます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ