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第三十ニ話 修行五日目〜六日目〜本番

このお話は初投稿版の56〜57部分にあたります

 修行五日目。


 前日ハルに指示されていたとおり、滝行のあと封印石に霊力を込める。

 滝行が(みそぎ)になったためか、起きてすぐの霊力がたっぷりある状態だからか、昨日より濃い色に染まった。

 ハルがこれからこの五つの石に陣を刻むのだという。

 どんなものなのか全く予想もつかないが、『(まが)』の封印はこれにかかっている。

 がんばってもらいたい。



 朝食のあと、一階の武道場で二対三に分かれて剣の稽古をしていた。

 今日もハルの幻術訓練の予定だが、そのハルがなかなか来ないためだ。

 朝食のあと「先に下に行っとけ」と指示してから姿が見えない。

 時間がもったいないので、連係の練習を兼ねて二対三で戦っていた。



「おまたせ」

 やっとハルがきた。

 が、その姿を目にした途端、五人が固まる。


「…小鳥?」

「オカメインコ?」


 ハルの肩に、一羽の鳥がちょこんと乗っていた。


 白い身体。

 ぴょこんとはねた頭の毛。

 頬っぺたに赤いまんまる模様。

 オカメインコだ。

 頭の冠羽の先と羽根の先だけが黄色から赤に色づいていて、炎のようだ。


 三十センチほどの可愛らしい鳥がちょこんとハルの肩に止まっているのは、違和感しかない。

 呆然とする五人に、ハルはオカメインコをうやうやしく指し示し、言った。


「こちら、緋炎(ひえん)様。白露様のご同輩だ」


 意味が分からなくてきょとんとした晃に気付いたハルは、もう一度言い直した。


「白露様と同じく、ずっと生きていらっしゃる、白露様のお友達だ」


 今度は晃にもわかった。

 そして驚いた。

 白露に知り合いが多いのは知っていたが、「お友達」という存在に会うのは初めてだからだ。


「はじめまして」とヒロが挨拶するのにつられて、他の四人もぺこりとお辞儀をする。

 ハルが緋炎を肩に乗せたまま、ひとりずつ紹介してくれる。


 最後に晃が紹介されると、オカメインコは「ふーん」と晃を見つめてきた。

 可愛いオカメインコなのに、猛禽の目だった。


「アンタが白露の養い子の、晃」


 その言葉にぴっと背筋が伸びる。

 自分がおかしな行動をとれば、白露の恥になる。

「はじめまして。日村 晃です」

 きちんと挨拶し、頭を下げる。


 緋炎はそんな晃をおもしろそうに見つめ「緋炎よ」と返してくれた。


「白露が迷惑かけて悪いわね。

 あのおっちょこちょい、どうせ全力で走ったところに先回りされて、止まれなくて飲み込まれたんでしょ」


 そのとおりだが、言い方が引っかかる。

 昔馴染みがゆえのおっちょこちょい発言だろうが、晃を守ろうとしてくれた結果を「おっちょこちょい」だなんて。


「白露様はおっちょこちょいじゃありません」

 ムッとして反論すると、オカメインコは面白いものを見るような目を晃に向けてきた。


「えらく信頼されているのね。あのお人好し」


 またもあんまりな言い方だ。

 知らず晃の口がむむむーっとへの字にまがる。

 そんな晃を緋炎は面白そうに見ていた。


「事情は昨夜晴明(せいめい)から聞いたわ」


 どうやら昨日のトモの言葉を受け、ハルが白露の知人に声をかけたようだ。

 白露の同輩というくらいなら霊力も相当強いのだろう。

 可愛らしいオカメインコの姿ではとてもそうは見えないが。

 修行をつけてもらえれば、もう一段階強くなれるかもしれない。


「ホントはアタシ達が人の世のことで関わるのはよくないかもしれないけれど、他ならぬ白露とその養い子のためなら、手助けするくらいはいいかしら」


「そうですね。是非お願いします」

 重ねてハルがお願いする。


 オカメインコはぐるりと五人を見回す。

 何かを見透かされているようで、自然と背筋が伸びる。


「いいわ。この子達の修行、アタシが面倒見るわ」

「ありがとうございます」

 ハルの言葉に遅れ、五人で「お願いします」と頭を下げる。


「アンタ達、運がいいわよ」

 そんな五人に、オカメインコはにっこりと笑って言った。

 インコなのに、何故か妖艶という言葉が浮かんだ。


「戦闘集団赤香(あこう)近衛隊『蘭舞(ランブ)』元隊長のアタシから指導を受けられるなんて」


 ゴッと立ち上がる覇気に、五人共「早まったかも」と思ったが、誰一人として声には出せなかった。




 一瞬で結界を展開し、複数の式神を一気に操り、緋炎が五人を鍛えていく。

 五人の連携、一人一人の剣術と霊力を組み合わせた戦い方、霊力を生かした戦術など。

 緋炎の指導を受ければ受けるほど強くなるのが自分達でもわかる。

 姉御肌とはこんな人のことかと思わせる緋炎は気持ちのいい鳥で、指導の仕方も褒めるのも上手かった。

 どんどんレベルアップしていく修行に、五人共必死でくらいつていく。

 

 火属性の緋炎に、同じ火属性の晃は特に指導された。

 炎の扱い方、戦い方。

「金属性の白露じゃ教えきれてなかったでしょ」と、あれもこれもと教えてもらう。


 この日は、緋炎との修行で一日が終わった。


 ハルは封印石に陣を組み込んでいるという。

 大変なことなのか、昼食にも夕食にも会うことはなかった。




 修行六日目。


 この日も滝行のあと、緋炎の指導のもと修行に励む。

 ハルが数日前侵入した異界の様子の情報を基に、こう戦ってはどうかと緋炎が戦略を立ててくれ、式神相手に何度も戦った。



 昼食の席に、やっとハルが現れた。


「封印石が完成した」

 手渡された石は昨日の朝よりもまた一段濃い色になっている。

 透明な石の中には、何かキラキラした粉のようなものが揺らめいてみえる。不思議だ。


「予備はない。壊れたら終わりだ。頼むぞ」


 思わず封印石をぎゅっと握り込む。

 緊張で手が震える。


「それで、いつ封印に行くの?」


 ヒロの言葉に、全員の耳がハルに向く。

 注目を浴びたハルはぐるりと全員を見回して、一言告げた。



「今夜だ」





 あれよあれよと事態が動いていく。

 今朝起きた時にはまだしばらく修行すると思っていたので、頭がついていかない。

「ギリギリ間に合ってよかったわ」と笑う緋炎(ひえん)の言葉を信じるしかない。


 成すべきは、『(まが)』の封印。


 それだけを考えて、晃達五人も最終調整に入った。




「日付が変わったら突入する」とハルに説明される。

 体力霊力を貯めるために、しっかり昼寝をしてしっかり夕食をいただく。


 いつものジャージに着替えようと手に取る。

「今日のジャージは防御力上げる術かけたよ」とヒロに言われ驚く。

「考えられるだけの付与をつけた」とにっこり笑うヒロに、四人それぞれが礼を言う。


 さらに胸当てなどのサポーターも用意された。

「安倍家で使ってる防具。

 物理だけでなく、術も少しははじく」


 足は膝から脛までをおおうもの、腕は手の甲から肘までをおおうものだ。

 これなら多少の打撃を受けても何とかなりそうだ。

 軽く動いて動きを確認する。

 胸ポケットの封印石が取り出せるのも確認して、五人は玄関を出た。



「晃」

 呼び止められ振り向くと、玄関すぐの木に緋炎が止まっていた。

 駆け寄ると、もぞもぞと羽根をつついて、くちばしでぬいたその羽根を差し出してきた。


「おまもり」

 受け取った晃に告げる。


「アタシの『火』の霊力がこもってるから。霊力や火力が不足したら使いなさい」

 アンタなら使えるでしょ。と軽く言う。


 礼を言い、封印石と一緒に胸のポケットに入れる。

 落とさないようにチャックをすぐ閉める。


「白露を頼んだわよ」

「はい」


 行ってきます。と手を振って、車に乗り込んだ。




 車を降りて隆弘の先導で向かったのは、ちいさな公園だった。

 街灯のおかげで足元もまわりもよく見える。

 周囲を自分達と同じような防具をつけた大人がうろうろしている。

 安倍家の人だとヒロが説明してくれる。


 公園のすみの、大きな穴のそばにハルがいた。

 穴のそばに祭壇が作られ、そこで何かをしているようだった。


 ハルは白い束帯姿だった。きっと陰明師の正装なのだろう。手には榊を持っている。

 ハルのそばには三人の大人がいた。

 みんな晃の祖父と同年代、六十代から七十代にみえる。

 その人達もハルと同じ格好をしていた。

 そのうちの一人がハルにどこか似ていた。おそらく現当主というハルの祖父だろう。


 何かしていたのが終わったらしいハルが、控えていた晃達に向き直った。


「来たか」

 ハルはそれだけ言うと、あごをちょいと動かした。

 穴を見てみろということだと判断し、全員で穴のそばに寄ってみる。


 先程車を降りた時から続いている共鳴。

 目の前の穴の中から、気配がする。

 自分達と同じ存在がそこにいると、わかる。

 リンリンと身体の中の霊玉が喜び()いている。


 以前トモの家でこの共鳴感にうながされるままに霊玉を出し、大きなゆらぎをおこした。

 あとでハルにこっぴどく怒られた。

 あれは本当にこわかった。

 それを覚えているので、うかつに霊玉を出すことはしない。

 出しそうになったけど、踏みとどまれたのでセーフだ。


「それが『(まが)』を封印していた封印石。わかるか?」


 ハルにうながされ穴をのぞくと、丸い玉が真っ二つに割れていた。


 あ。ここだ。


 言われなくてもわかった。

 ここに、あの黒くてもやもやしたのがいる。


「わかる」

 トモが答える。

 トモの特殊能力『境界無効』で、トモには入口が視えているようだ。


「道はわかるけど、中の様子はここからじゃわからない」

「まぁそうだろうな」

 ハルも軽く答える。


「すぐ行けるか?」

 ハルの問いにヒロがうなずこうとしたが、それをトモが手を上げさえぎった。


「その前にハルに確認したいことがある」

「なんだ?」


 トモはちらりとハルの後ろに控える三人を見る。

 言いたいことを察したハルが「下がれ」と指示するとやいやい文句を言ってきたが、一睨みで黙らせ人払いをした。



「――で?」

 ハルの声に、トモはハルを見つめ、ヒロを見つめ、晃達三人に目を向けたあと、少しの間目を閉じた。

 言おうか言うまいか考えている様子に、晃も不安になる。


 意を決したらしいトモが、やっと口を開いた。

「万が一。万が一俺達が『(まが)』の封印に失敗したら。お前はどうなる?」


 その問いに息をのんだのはヒロだった。

 晃には質問の意味がわからない。


「ハル…」

 ヒロが震える声で続ける。

「南の結界。『万が一のときの策はある』って言ってた、あれって、もしかして…」


 ヒロの先見(さきみ)の話を聞いた日。

 トモと佑輝は晃達よりも先に話を聞いていた。

 その時に出た話題だろう。


「『(かなめ)』となるのは、お前か?」


 やっぱり意味がわからない。

 ハルはただニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるだけだ。


「これは、そのための人員か?」


 続くトモの問いにもハルは答えない。

 否定しないということは肯定の意味だと知っているトモは、ちいさく舌打ちする。


「頭が良すぎるのも困りものだな」


 そう言って笑うハルに、トモははあーっと大げさなため息を落とす。


「俺達が『(まが)』を封印すればいいだけだろう?」

「そうそう。頼んだぞ」

「――だとよ。ヒロ」


 ヒロは拳を握って震えている。

 未だに意味のわからない三人に「つまりな」とトモが教えてくれる。


「京都を囲む結界の中で、南の結界が弱いのは『要』がないからだろう?」


 『要』となるものがまだ見つかっていないとハルが話していた。

 佑輝もナツもそのことは知っていたようで、三人共うなずく。


「俺達が『(まが)』の封印に失敗して『(まが)』がこの異界から出てきたら、最低でも京都に封じておかないといけない。

 そのための南の結界の『要』に、ハルがなるって話」


「――『要』になるって、どういうこと?」


「ハルが死ぬってこと」


 そこまで言われて、やっと理解した。

 理解して、カッとした。


「なんだよそれ!」

 晃の叫びを受けてもハルは涼しい顔だ。


「十回も転生している高霊力保持者だ。

 十分『要』に使えるだろう」

「そうじゃなくて!」


 言いたいことが伝わらないもどかしさにハルにつかみかかろうとしたが、それはできなかった。

 ヒロがハルに抱きついたからだ。


「――ぼくらが『(まが)』を封印すれば、ハルは『要』にならなくていいんだね?」

「そうそう。頼んだぞ。ヒロ」


 抱きつくヒロの背をポンポンと軽くたたいたあと、ぎゅっと抱きしめる。

 ふわり。

 ハルの霊力が一瞬ヒロを包んだ。


「おまもり。――必ず、帰ってこい」


 ハルの声に、ヒロもちいさくうなずく。


 公園の入り口に晴臣と隆弘が立っているのを見つけたハルが手招きで呼び寄せる。

 黙ってやってきた二人は、そのまま交互にヒロを抱きしめた。


 その間にハルはトモを、佑輝を、ナツを抱きしめ、自分の霊力をまとわせる。

 一言ずつ、言葉を添えて。

 晃もハルにぎゅっと抱きしめられる。

 ハルの霊力に包まれると、防御力が上がったのがわかった。


「白露様とヒロを、頼んだぞ」

 意地の悪い狐の笑顔でそんなことを言うものだから、晃もハルをぎゅーっと抱きしめる。


「ハルも死なせないからな!」

 そんな晃にハルが笑う。

「そうだな。僕のことも頼むよ」


 父達に抱きしめられていたヒロも戻ってきた。

 五人で円陣を組む。



「確認するぞ」

 トモが全員を見回して、口を開く。


「俺が先頭で、異界に入る。

 入ったらおそらくすぐに『悪しきモノ』が寄ってくるだろう。

 それを散らし、まずは『(まが)』の本体を探す」


 四人がうなずく。

 何度も何度も話し合った。

 緋炎にアドバイスをもらいながら何度も作戦を練った。


「『(まが)』の本体を見つけたら、封印石を持っておくこと。

 どんな状況になっても、五行の配置をとって、封印石を起動する。

 タイミングは俺かヒロが指示。いいな」


 こくり。四人がうなずく。


「よし。じゃあ――」

 

 トモが手を出してきたので、同じように手を出し重ねる。

 全員で円陣の中心で手を重ね、お互いの顔を見合わせる。


 弱気はない。迷いもない。

 自分達は十分修行した。

 きっと大丈夫。

 あとは、やるだけ。


「行くぞ!」

「「「「おおっ!!」」」」


 掛け声に気合を入れて、『(まが)』の異界へと踏み出した。

次話は明日19時に投稿します

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