第二十九話 修行四日目ー1
このお話は初投稿版の53部分にあたります
修行四日目。
滝行にもすっかり慣れた。
初日にヒロが言ったとおり、霊力を身体に巡らせたら冷たくも痛くもない。
強い霊力をとりこんでいく。
とにかく強くならなくては。
ヒロを死なせないために。
強く。強く。
山駆け修行も、全力のヒロと同じように走れるようになった。
鬼を変えて何度も鬼ごっこをする。
「戦闘訓練も入れよう」とヒロが言い出し、ニ対三で攻め手と逃げ手に分かれた。
先回り、攻撃ありで、逃げ手が山頂まで逃げ切れれば勝ち。途中でつかまったら攻め手の勝ち。
つかまったりつかまえられたり、途中戦いになったらサポートしたり妨害したり、予想以上にいい修行になった。
多対一の戦い方もヒロに教わる。
気をつけること、身体の使い方などを教わるとすぐ実践だ。
最初は一対ニ、慣れたら一対三で戦う。
今までの修行と同じように、お互いに動きをチェックして直せる部分は直し、精度を上げていった。
受け手の一人になるときは多数の敵と対してもさばけるように。
攻め手の三人は連携を考えて攻撃を仕掛けた。
最初は何度も倒れたり、連携がうまくいかなかったりしたが、何度も話し合い、何度も動きを修正して、昼前には何とか形になった。
木刀で打ち合うので、受けそこねて身体にあたるとものすごく痛い。
が、痛いからと動きを止めたらその隙を見逃さず攻め込まれるので、歯を食いしばって戦う。
体力霊力が尽きるまで打ち合ったあとの回復で打撲もすっかり治る。
それもあってお互いに遠慮なく打ち合った。
何度も何度も相手を変えて、力尽きるまで本気で打ち合った。
昼食のあとも山に戻り、今度は霊力コントロールをする。
もう霊力は十分増えたので、今日からはそれぞれの属性を活かした攻撃を習得していく。
木属性の佑輝は、その中でも雷属性特化、金属性のトモは風属性特化なのだと説明してくれる。
晃の火属性は分化する能力はなく火一択なので、珍しく話を聞く。
それぞれにどんなことができるか披露していく。
晃は炎のお手玉や最大火力を披露した。
自分のやったことのない技は真似してやり、お互いに「こんなことできるかな」「こーゆーのはどうだろう」と話しながら、増えた霊力の扱いを身につけていった。
ぴり、と、空気が変わった。
白露が結界を張ったときのようだ。
あれ、と思ったのは晃だけではなかった。
全員が動きを止め、辺りを探る。
ザクザクと落ち葉を踏みしめる音が近づいてくる。
全員が無言で霊力の刀を出し、臨戦態勢をとる。
やがて現れたのは、ハルだった。
なんだ。ハルか。
そう思い、ほっと警戒を解いた。
木刀を持ったハルは無言で五人に近づいてくる。
いつもの意地の悪そうな笑みを口元に浮かべたまま。
「ハル。遅かっ…」
ヒロが声をかけた、その、一瞬。
あっと思う間もなくトモに距離を詰めたハルに、トモも瞬時に防御の姿勢をとる。が、間に合わず剣の一閃で吹き飛ばされる。
「がっ…!」
背中から樹にぶつかり、トモの口から鮮血が吐き出される。
「トモ!!」
次の瞬間にはハルがうつぶせに倒れたトモの横に立っていた。
そのままトモの左足を踏みつける。
ボキリと、嫌な音が響いた。
「――――!」
トモは顔をしかめるだけで叫び声を飲み込む。
脂汗を流しながら刀を握った腕を振り抜き、ハルに斬りかかろうとするが、それより早くハルは飛び退き、驚く四人の前に現れた。
一瞬でヒロに斬りかかるが、ヒロもすぐさまそれを受ける。
何合か打ち合い、バッと離れたかと思ったらすぐさま飛びかかり、その勢いを使ってヒロに後ろ回し蹴りを当てる。
受けたヒロの右腕から、ミシリと嫌な音がする。
止められたその勢いも利用して体を反転させたハルの拳が、ヒロの腹にめり込む。
ガフッ、とヒロが胃の中身を吐きだし膝をつく。
この間、わずか。
三分もたたずハルはトモとヒロを行動不能にした。
――なに?
なんで、ハルが?
何が起こっている?
「ボーッとするな! 動け!」
トモの叫び声に晃の意識が切り替わる。
尚もヒロに斬りかかろうとするハルを、トモの風刃が妨害する。
トトッとバックステップで距離をとったハルに佑輝が斬りかかる。晃もナツもそれに続く。
三人の猛攻をハルはあっさりとしのぐ。
「ハル! どうしたんだよ?! 何でこんなことするんだよ!」
「ハル! ハル! しっかりしろよ!」
ナツと晃の呼びかけに、ハルはニヤリと笑うだけで答えない。
佑輝の左肩にハルの一撃が入った。
佑輝が顔をしかめる。おそらく、鎖骨が折れた。それでも佑輝は刀を振るう。
左腕に力が入らないのか、右腕一本で刀を操り、歯を食いしばってハルに向かっていく。
晃もナツも必死に刀を振った。
午前中の連携訓練の成果は出ていると思う。
それでもハルに決定打をあたえられない。
ヒロが回復をかけた。
佑輝の左腕に力が戻り、より激しくハルに向かっていく。
左足に添え木をジャージで巻きつけたトモも、ヒロと駆け出してきた。
三人の攻撃にヒロとトモが加わろうとしているのを見たハルは、ぱっと下がり、木刀を横一文字に構えた。
何か嫌な感じがする。
追撃しようと駆け出したその時。
ハルの持った木刀から、何かが飛び出した!
ブワワッ!!と勢いよく飛び出した、無数のモノ。
自分達よりもはるかに巨大なムカデ。
口の裂けた狼のようなナニカ。
ヒトのようで異形な姿のナニカ。
触手のたくさんあるナニカ。
でかくて、気持ち悪くて、恐ろしいモノが、一気に襲いかかってきた!
本能的に、恐怖がわきあがる。
「うぎゃあああぁぁ!!」
イヤだ。イヤだ。
コワイ。逃げたい!
足がすくむ。身体がこわばる。
あっという間に無数のゾワゾワしたナニカに取り囲まれてしまう。
こわくてこわくて、闇雲に刀を振り回すしかできない。
修行した剣術も、『火』の霊力も、頭からすっぽり抜けてしまった。
「その程度か。『火』の霊玉守護者」
ハルの声がした。
と思ったら。
突然右足の脛に激しい痛みが襲った。
「ぐわああぁぁ!!」
痛い! 痛い!!
折られた!?
何で?!
何が起きているのかわからない。
ただ、ズキンズキンと痛む足がこれは現実だと突きつけてくる。
足の痛みに倒れる。
痛くて熱くて動けない。
涙も汗も止まらない。こわい。こわい! こわい!!
痛む足を押さえて倒れていたのはそう長い時間ではなかったはず。
それでも、そんな隙を相手が見逃してくれるはずもなく。
あっと思ったときには、目の前に大きな口があった。
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
真っ黒な狼のようなモノに、右肩を噛まれた。
肩をえぐり取られた。
痛い! 痛い! 痛い! こわい!
おれはこのまま喰われて死ぬのか。
このまま、何もできずに死ぬのか。
涙と鼻水でぐちょぐちょになった顔を上げると、目の前は黒い壁のごとくうごめくナニカ。
あぁ、おれ、死ぬんだ。
今更になって、このうごめくモノ達こそが話に聞いていた『悪しきモノ』だと気付いた。
次話は明日19時に投稿します




