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第二十四.五話 ハルー異界潜入調査

このお話は初投稿版の45部分にあたります

 (みそぎ)をし、白い着物をまとう。

 仕度を済ませた祭壇の前に座り、精神を集中させる。


 これから侵入するのは『(まが)』の異界。

 昨夜、上位の退魔師も自分もヒビひとつ入れられなかった場所。

 中がどうなっているのか、そもそも侵入できるのかもわからない場所だ。


 (しゅ)を唱え、印を切る。

 集中して、集中して。

 細く、細く。針の穴も通るように。


 持ち上げた札にふうっと息を吹きかける。

 ふわりと舞い上がった札はくるりとまわり、一匹の蝶に変化(へんげ)した。

 ひらひらと舞う黒揚羽に自分の意識をのせる。


 ひらりと、『(まが)』の異界へと飛ぶ。

 蝶のからだを細く細く糸のようにして、なんとか『(まが)』の異界に侵入することに成功した。



 しかし、中は予想もしていなかった状態になっていた。



 地獄とはこのような世界かと思う。

 様々な『悪しきモノ』が、相手を喰らおうと争っていた。

 異形のモノたちが上げる叫び声だけでも、並の能力者ならば死んでしまうかもしれない。

 瘴気が濃い。その中で『悪しきモノ』が喰い合っているものだから、ますます瘴気が立ち上がる。


 さながら蟲毒(こどく)の中だ。


 壺の中に様々な毒虫を入れ、喰い合いをさせ、最後に生き残った一匹を呪具として使う蟲毒(こどく)


(まが)』が意図してこのような状況をつくっているのか、それとも別の理由があるのか。

 情報を求めて『(まが)』の異界に侵入したのに、謎が増えてしまった。


 それでも少しでも何か情報はないかと気配を消してあちこち飛び回る。

 すると、ある一点だけ瘴気のない場所があった。




 もしやと思い近づくと、そこには思った通りの四人がいた。


「あれ? 陰明師か?」

 相手も自分に気付いた。

 結界をほんの少しゆるめて招き入れてくれる。


「おー。陰明師」

「なんだ。俺達を探しに来てくれたのか?」


 やいのやいのと言ってくる四人は、四百年前、この『(まが)』に喰われた霊玉守護者(たまもり)達だ。

 相変わらず気のいい連中だ。


 あれだけ強かった霊力は失われ、肉体もなく魂だけになっている。

 それでも自我と姿が保てているのは、持っていた霊力が大きかったからだろう。

 並のモノならば、喰われた時点で霊力も魂も取り込まれて消えてしまうに違いない。

 これまで喰われた数多(あまた)のモノのように。


 今は一人の特殊能力である『絶対結界』でこの空間を維持しているようだ。

 能力は魂に刻まれた力なので、霊力がなくても発動できる。


 そういえば四百年前もこいつの『絶対結界』で『(まが)』の行動範囲を制限して封印したんだったなと思い出す。


 今回は『(まが)』自身が作った異界に入ったままでいてくれるので、こちらの対応としてはずいぶん助かっている。

 そうでなければ、今頃京都はとんでもない数の死者を出していた。



 彼の結界の中ならば大丈夫だろうと判断し、蝶の姿から現在の姿に変化(へんげ)する。


「あれ? 何かちっこくなってないか?」

「あれから何百年経ってると思ってるんだ。転生して、今は十三歳だよ」

「転生!」

「若っ!」


 わあわあとのん気にさわぐ四人に脱力する。

 そういえばこういう連中だった。

 これで実力は国でもトップクラスなのだ。



 経験も豊富だった。

 霊力も強かった。

 肉体も鍛え上げられていた。

 二十代後半から三十代という、戦う上で最も成熟した年齢だった。

 そんな最盛期の彼らをもってしても、『(まが)』を封印するためには自分を犠牲にするしかなかった。


 ひきかえ、今代(こんだい)の五人はどうだ。

 年齢も若すぎる。

 経験だってない。

 実戦に出ているというトモと佑輝だって、一人での討伐経験はない。

 保護者が見守る中での、いわば安全な戦闘訓練でしかない。

 体力も、霊力も、経験も劣る彼らが、無事生きて帰られるとは到底考えられない。

 

 本人達には黙っているが、彼らの保護者にはそのことは伝えてある。

 そのうえで、大事な子供達を送り出してくれた。




「それにしても」

 改めて目の前の四人を見る。

 あの日別れた姿そのままだ。

 感慨深く、こみあげてくるものがあるが、それをごまかすためにわざと悪態をつく。


「こんなところで何をしているんだお前達」

「いやそれがな」


 結界の外は阿鼻(あび)叫喚(きょうかん)の地獄絵図が広がっているが、それを気にもとめず話をする態勢になる。


「封印石を起動したところまでは覚えてるんだけど」

 うんうんと他の三人も同意する。


「次の瞬間には、何かから吐き出される感覚がした。

 多分封印したときに意識を失って、吐き出されたときに意識が戻ったんだろうな。

 それからずっとここにいるんだけど」


 そして彼らはそれから見たもの、感じてわかったことについて話しはじめた。




(まが)』の封印が解けたことはすぐにわかった。


 まず思ったのは、自分達の封印が不完全で、すぐに破られたのかということ。

 すぐに四人が合流し、現状把握すべく様子をうかがった。



 『(まが)』は(おのれ)を五つに分け、どこかにむかった。

 しかし結界に(はば)まれ、誰かに散らされ、このままではまずいと判断したのだろう。再びひとつに戻った。


 それまでは『(まが)』にとらわれていたのは自分達四人だけだった。

 それが、次から次へと『悪しきモノ』を取り込み、自分の霊力へと変えていった。


 自分達は逆にここから抜け出せないかと色々と試みたが、出ることはできなかった。

 次々増える『悪しきモノ』から自分達を守るべく、発動できた『絶対結界』を展開し、中から様子をうかがうしかできなかった。


(まが)』は取り込んだモノから得た霊力で、強い結界をいくつも破り、大きな力を飲み込んだ。

 他の『悪しきモノ』と同じように、大きな力も取り込もうとしたが、大きすぎるのか、なかなか飲み込めない。

 そこで異界をつくり、大きなモノを取り込むことに集中し始めた。

 その際、先に取り込んでいたがまだ吸収していなかったモノが邪魔だったのだろう。

 取り込んでいた『悪しきモノ』達を吐き出した。


(まが)』からは逃れたものの、その異界から抜け出すことのできないモノ達は、本能的に自分以外を襲いはじめ、現在に至る。




 話を全て聞き終えたハルは、ふむ、とひとつうなずき、頭の中で話を整理する。


 どうやらこの蟲毒(こどく)状態は偶然のようだ。

 だが、互いをつぶし合い、残ったモノは当然強いモノとなる。

 今代の未熟な五人でどこまでたちうちできるだろうか。

 『悪しきモノ』が数を減らす前に――とんでもなく強いモノしか残っていないという状況になる前に、討伐にこなければ、『(まが)』にたどりつく前にやられてしまうかもしれない。


 修行にかけられる時間は、思っていた以上に短くなりそうだ。




「で、あれからどうなったんだよ。おれら、ちゃんと『(まが)』封印できたのか?」


 一人が聞いてくる。

 確かに、自分達の仕事がきちんと為されたか彼らにはわからないだろう。

 にっこり微笑んで教えてやる。


「あぁ。見事に封印に成功したよ。よくやってくれたな」


 その言葉にわあっと四人が喜ぶ。

「やったな」「よかったな」と口々に健闘を讃え合う。


 そのために自分達は死んだのに。

 本当に気のいい連中だ。

 だからこそ霊玉守護者(たまもり)に選ばれたのだろうが。



 ちなみに、四百年前の霊玉守護者(たまもり)達が持っていた霊玉は『(まが)』に取り込まれることはなかった。


 封印石が起動し、陣を展開していく中で、あらがうように霊玉守護者(たまもり)達を取り込んだ『(まが)』とひとつになろうとしたとき、反発するように自分達の身体の中から飛び出していったという。


 おそらく、最初に霊力を五つに分けた術の効果だろう。


 そうして現代まで霊玉は受け継がれていったのだ。


 喰われた四人の霊玉守護者(たまもり)達は、完全に取り込まれる寸前で一緒に封印され、休眠状態になった。

 そして今回、封印が解けたことによって、休眠から覚めた。

 そのままではきっと残っていた魂までも取り込まれ消えていただろうが、たまたま一人が『絶対結界』を持っていたため、魂の状態を保てているようだ。




「ところで、一人足りないのだが」

 あいつどうした? と問われ、答える。


「あいつだけ帰ってきたよ。右腕一本失くしたけど」

 あいつから色々といきさつを聞いたんだと説明すると、またも「そうか!」「よかったな」と喜ぶ四人。


「天寿を全うして、生まれ変わって、今代(いま)霊玉守護者(たまもり)になってるよ」



 前世の記憶を持って転生していないので『転生者』ではない。

 ただ、自分や白露(はくろ)のような長命なものにはわかる。

 髪型や服装が変わっても、親しい人にはその人がわかるように。

 生まれ変わっても「あの人だ」とわかるのだ。



 今代(いま)の五人の霊玉守護者(たまもり)は、生まれたときから霊玉を持っていた。

 過去にそんな例はなかった。

 修行の末、強い霊力を身につけたものが霊玉を得ていたのだ。

 なのに何故今代(いま)の五人は、とハルも白露達も疑問に思っていた。


 簡単な話だった。

 五人とも、前世で霊玉守護者(たまもり)だった。


 自分が知っていたのは二人だけだったが、白露達が他の三人を知っていた。

 つい数年前、何かの世間話のついででわかったのだ。


 だからといって、本人達に教えるつもりはない。

 前世の記憶がない以上、彼らに前世は関係ない。

 今世のこの人生を、しっかりと生きてほしい。


 それも、この状況ではどうなるかわからないが。




 あれから四百年経っていること。

 封印石が割れて封印が解けたこと。

 今代(いま)霊玉守護者(たまもり)が五人そろっていて、再び封印すべく対策中であることを四人に伝える。

 

 今代の五人がまだ十三歳の少年であることは伝えない。

 知ってしまったらこの気のいい連中は「子供を戦わせるわけにはいかない」とか言って魂だけの状態でも戦おうとするだろう。



「まあそういう状況だから。もうしばらく結界の中で大人しくしてろよ」

 それだけ告げて、四人と別れる。




 その後何とか『(まが)』本体を見つけ様子をうかがっていると、突然とんでもなく大きな霊力のゆらぎを感じた。

 それに呼応するように『(まが)』の動きが変わる。

 これ以上は危険だと判断し、『(まが)』の異界から自分の身体に戻った。




 自分の身体に戻り、一人頭の中で情報を整理しながら、『(まが)』の異界で出会った四人のことを考える。



(まが)』から吐き出された状態の彼らならば、再び『(まが)』が封印されたら、輪廻の輪に乗ることができるだろう。



(まが)』が封印されたら。



 その可能性がとんでもなく低いことを誰よりも知っているハルは、知らず唇を噛んでいた。

次話は明日19時に投稿します

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