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第十八話 迷いの術

このお話は初投稿版の34〜35部分にあたります

 朝が来た。

 昨夜たらふくごちそうになり、霊力の濃い春日家でしっかり眠ったおかげか、体力も霊力も完全に戻っていた。

 むしろいつもより調子がいいくらいだ。



 ナツは目を覚ましたものの、ずっとぼーっとしている。

「霊力がからっぽになったあとだからね。しばらくはこんな状態かも」とヒロが言う。


 それでも霊力を取り込めない異界から抜け出し、霊力の濃い春日家で休んだことで、かなり回復しているようだ。

 ぼーっとしながらも、もそもそと朝食を口にしていた。

 


「迎えが来た」と呼ばれ玄関に行くと、見知らぬ男性が佑輝の父と話をしていた。

 てっきり晴臣が来ると思っていたのにと首をかしげる晃の横で、ヒロが顔をしかめた。


「…なんでタカさんがお迎えなんだよ…」

「知り合い?」

「…ぼくの父」


 そういえば。と晃も思い出す。

 ハルが言っていた。

 霊玉守護者(たまもり)の情報を制限するために、霊玉守護者(たまもり)に関わるのはハルの両親とヒロの両親だけにする、と。

 ハルの父である晴臣でない男性となると、自然ヒロの父ということになる。


 だが。

 あらためてヒロの父を見る。

 あまりヒロに似ていない。

 ヒロは母親似だと言っていたから当然かもしれないが、外見も雰囲気も全く違う。


 背は高く、がっしりとした身体つき。少しつり目がちの目は自信にあふれ堂々としている。

 茶髪を右目の上でツーブロックに分け、爽やかな印象だ。

 ベージュのパンツにグレイのジャケット、中には丸首のネイビーのカットソーを合わせ、ちゃんとした服装に見える。


 なのに、何故だろう。

 どこか『軽い』感じがする。

 晴臣がきっちり硬い『仕事のデキる男』という感じなのに対し、この人は『年齢の離れた近所のお兄さん』という雰囲気だ。


 それにしても、ヒロのこの嫌そうな顔。


 いつも穏やかに微笑んでいるイメージのヒロに似つかわしくない顔だ。

 一緒に暮らしていないと言っていたし、父子仲が良くないのだろうか。



「おー。子供達。おはよう。迎えに来たぞー」

 へらりと笑って手を振ってくる。


「ヒロの父の目黒(めぐろ) 隆弘(たかひろ)だ。タカさんて呼んでくれ。おじさんはダメだぞー」


 まだ『お兄さん』だからな。と笑いながら晃の、佑輝の頭をがしがしとなでていく。いたい。


「なっちゃんも無事でよかったなー。心配したぞー?」

 頬を両手で挟まれてぐりぐりとなでられるナツ。

 顔が変形していくが、ナツはぼーっとしたままだ。


「ん? どしたなっちゃん? 元気ないか?」

「霊力切れて回復中なんだよ。触んな。構うな」


 ペタペタとナツの額や頬をさわって様子をうかがっていた隆弘から、ヒロがベリッとナツを奪う。


「ヒロおおぉぉぉ!」

「抱きつくなーーーーー!!」


 あっと思う間もなく隆弘の腕に抱きこまれたヒロが暴れるが、びくともしない。

 ヒロより頭半分大きい隆弘はがっしりとヒロを抑え込み、かいぐりかいぐりと頭をなでまわす。


「おはようヒロ! 今日もかわいいな!」

「誰がかわいいか?!」

「昨日は大変だったな。オミに聞いたぞ。がんばってえらかったな!」

「だ・か・ら! はなせーーー!」


 かわいいえらいとヒロを構いたおし嫌がられている隆弘に、その場の全員が呆然としている。


「…あれだ。好きだからと構いすぎて嫌われるやつ」

「なるほど」

「思春期男子にあの扱いは酷ねぇ…」


 佑輝の家族が話している間も、隆弘はヒロを構いたおす。

 ヒロも本気で反撃すると怪我をさせるとわかっているので、思うように力を出せず抜け出せない。

 それでも腹に一撃食らわせると、それを合図にするかのように隆弘がヒロを開放した。

 いてててて、とわざとらしく腹をさすりながらも、顔には笑みが浮かんでいる。

 ヒロは髪もボサボサになり、ぐったりだ。


 大騒ぎが落ち着いたところで車に乗り込み、春日家を出発した。



 仁和寺の大きな山門を一瞬で通り過ぎ、車はさらに山へ山へと進んでいく。

 家がまばらになったところで角を入る。車一台がやっと通れる道をのぼっていくと、突然広い場所に出た。


「さ、着いたよ」

 うながされ車を降り、辺りを見渡す。

 山に囲まれた場所だった。

 母屋と思われる二階建ての家はどっしりと大きく、田舎の大きな家を見慣れている(こう)でも目を見張るほどだった。

 

「川の音がする」

「あぁ、すぐそばに川が流れてるよ」


 晃のつぶやきに、ヒロが答えてくれる。

 深い山。川のせせらぎ。

 自分の育った環境に近いためか、身体がほぐれるのを感じた。



「京都にもこんなところがあるんだな」

 吉野の山奥で育った自分にとって、京都といえばビルが立ち並ぶ大都会のイメージだ。

 だがここは、自然が近く、のんびりした雰囲気だ。


「京都といっても広いから」

 クスクス笑うヒロに、佑輝(ゆうき)もおもしろそうな顔で続く。


「ウチだって京都市だぞ」

「北山のあの離れも京都市だよ」


 うそォ?! という言葉はかろうじて飲み込んだが、顔に思い切り出ていたのだろう。

 自嘲気味に「あるあるだよなー」と笑う二人に、申し訳なくなった。



 ナツは寝起きだからかまだ調子が戻らないのか、ボーッと立っている。

「さ、行こう」

 こっちだよ。と先導する隆弘(たかひろ)に、ナツをうながし四人でついていく。




 門をぬけ、敷地に入った。

 そのはずだった。

 なのに、周囲の風景は一変している。

 見回すかぎり木、木、木。

 明らかに山の中。それも、かなり奥深い。


「…え? え? 何? どゆこと?」

「あー、こりゃ『飛ばされた』ねー」


 動揺する晃をよそに、ヒロはのんきなものだ。

 佑輝は辺りを警戒しているものの、この事態には動じていない。

 ナツも変わらずぼんやりしている。


 ヒロが説明してくれたところによると、トモの家には強力な結界が張ってあり、それに『引っかかる』と、家から遠く離れた場所に『飛ばされる』のだそうだ。

 説明しながらヒロが札を飛ばして様子を探っていたが、ここがどこか、はっきりとわからない。

 どうも迷いの術がほどこしてあるようだ。

 ヒロはスマホを持っているが、山中なので、当然使い物にならない。


「差し当たり、どうする?」

 周囲に危険はないと判断した佑輝が声をかけてくる。


「多分、お迎えがくるだろう。それまでちょっと修行でもしようか」

 にっこり笑って、ヒロは晃と佑輝に聞いた。


「二人は『縮地(しゅくち)』はどのくらいできる?」


 能力者の間で言う『縮地』は、神速といえる速さで駆ける基本技だ。

 晃は「白露(はくろ)様について走れるくらい」と告げ、佑輝は「あまり得意でない」と正直に申告する。


 「またトモと合流してから個々のレベルをチェックするけど、体力と持久力をつけるのに山を上り下りさせるつもりだから。縮地はできてないと、このあと大変かもしれない。

 晃。佑輝に走るコツとか足運びとか教えてやって。

 佑輝。晃の動きをよく見て、走れるようになってきて」


 とりあえず、とヒロは目についた枝を拾い、地面に立てた。

 手を離すと枝がぱたりと倒れる。


「あっちに向かって走っておいで。

 最初はゆっくりめでいいから。佑輝、動きを覚えてね」

 行ってらっしゃい。と手を振られ、晃と佑輝は戸惑う。


「行ってらっしゃいって…。どこまで行けばいいんだ?」

「二手に分かれたらはぐれないか?」

「大丈夫大丈夫。ぼくはここでナツに霊力の練り方教えるから」

 ほら行った行った。と言われ、晃と佑輝は顔を見合わせる。

 ヒロがひかないことがわかったので、二人共仕方なく走り出した。




 佑輝は自信がなさそうだったが、走ってみると縮地の基本はできていた。

 ただ、山を駆けることは滅多にないとのことで、木の利用の仕方やさばき方などを教えた。

 しばらく走ると、佑輝も少し慣れたようだ。


「すごいな佑輝! もうこのスピードなら問題なさそうじゃないか?!」

「このスピードならな。もう少し上げられるとつらいかもしれない」


 二人で色々と話しながら走った。気分はジョギングだ。

 今までどんな修行をしてきたのか。どんな困ったことがあったのか。

 霊玉守護者(たまもり)だからこその大変だったことにはお互い共感し、属性の違いに驚き、意外にも楽しい時間を過ごした。




 どこまで走るのかな、と思いはじめた頃。

 目の前から不思議な感覚がした。

 ナツの霊力が一瞬大きくなったのだ。

 霊力練る修行するって言ってたなー、と思い出し。


「…何で()からナツの気配がするんだ?」


 佑輝のつぶやきは同じく晃の疑問だった。

 晃と佑輝はヒロとナツを背にまっすぐ走っていたのに。

 気配を感じるなら後ろからでないといけないはずなのに。


 はたして。


 ザっと木から飛び降りると、そこにはヒロとナツがいた。


「おかえりー」

「――何で? 何で?!」


 自分達は確かにヒロとナツを背に走り出したのに。

 困惑する二人に、ヒロがあっさりと種明かしをしてくれる。


「迷いの術がかかってるみたいだよ。

 どれだけ走っても元の位置に戻ってしまう」


 迷いの術。たしかに最初にヒロが言っていた。

 こういうことかと二人は納得する。


 ヒロは再び木の枝を立て、手を離した。ぱたりと枝が倒れる。

「今度はあっちね。行ってらっしゃい。

 今度はもーちょっとスピード上げてみてね」


 送り出され、晃と佑輝は再び走り出した。



 不思議なことに、スピードを上げても元の位置に戻る時間は同じだった。

 四回走ったが、だいたい一回十五分で戻ってくる。

 スピードを上げた分、距離は走れているはずだ。




「不思議だなぁ」


 再び四人になり、晃と佑輝は座って休憩中だ。

 晃は、今まで霊力コントロールと身体を鍛える修行ばかりで、こういった術に触れたことはない。

 だから、どこまでいっても戻ってくる術は、純粋に不思議だった。


 一時間の霊力コントロールの訓練のおかげか、ナツの霊力はほぼ元に戻っていた。

 ただ、霊力コントロールは慣れないとひどく疲れる。

 ナツも今休憩中だ。

 結果、四人で丸くなって座り、話に花を咲かせている。



 白露のことは全員が知っていた。

 晃のところにいないときには、あちこちに顔を出していたようだ。

 子供好きで世話焼きな白露らしい。

 ナツも母が一緒のときに何度か会ったと懐かしそうに話した。


「昨日からずっと、思い出せなかったことが浮かんでくるんだ。

あんなことあったなー。とか、何で忘れてたんだろー。ってことまで。

 きっと、晃の能力のおかげだ」


 ありがとう。と嬉しそうに笑うナツは、昨日の昏さを感じさせない。

 さっきまでぼーっとしていたのは、過去を思い出していたのもあるのだろう。


『能力』と言われても何のことかわからない晃は首を傾げることしかできない。

 それでも、ナツが嬉しそうならまあいいやと晃も笑うのだった。

次話は明日19時に投稿します

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