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第十一話 友達

このお話は初投稿版の23部分にあたります

 舞の余韻に浸っていると、突然場所が変わった。


 先程まで神々の集う舞台にいたのに、ぱっと明るくなって目がちかちかする。

 見上げると、青い空が広がる。近くに大きな社殿が見える。先程の神様の世界の外だろうかと考えていると、突然男の子が二人現れた。


「はじめまして」と声をかけてきたのは、可愛らしい男の子だった。

 四歳くらいだろうか。手足は幼児のふくふくしさが抜け、すらりと伸びている。

 くりくりと大きな二重の目は垂れていて、ふわふわした茶色の髪は幼子らしくやわらかい。

 すぐそばに同じ位の年齢の男の子がもう一人。こちらは上品そうな顔立ちの、黒髪の男の子だ。


 ヒロとハルだと、すぐにわかった。


「ぼく、ひろ。きみは?」

「…なっちゃん」

 どこからか、答える声がした。それで晃は確信した。


 これは、ナツの記憶だ。

 どういう仕組みかわからないが、ナツが見たもの、体験したことが、目の前で再現されているのだ。

 だから、ナツの姿は鏡ごしでしか見られない。

 そして、何故かナツの感情が伝わってくるのだ。

 母といる時はうれしい気持ち、幸せいっぱいの感情が。 

 今は初めて会う同年代の少年に、戸惑う気持ちが伝わってくる。


 逆に幼いヒロは、ナツに会えてうれしくてたまらないといういようににこにこしている。


「なっちゃん。ぼく、きみとおなじなんだ。たまもりなんだ」

「たまもり?」


 うん。と頷いて霊玉を見せるヒロ。ちいさなてのひらに、ちょこんと、まだ小さな霊玉がある。

 が、ハルにつつかれてすぐに消す。


「ヒロ。約束」

「ごめん」


 しかしナツは驚いた。こちらもちいさな手を差し出し、ちいさな霊玉を見せる。


「たま。なっちゃんとおなじ?」

「うん! おんなじ!」


 はしゃぐヒロを再びたしなめたハルが、ナツの霊玉が乗った手をそっと握らせる。どうやら霊力を散らして霊玉を消したようだ。


「僕はハルだよ。ナツって呼んでいい?」



 そうして三人で遊ぶ。おいかけっこ、おままごと、木登り。神社の境内をいっぱいに使って走り、座り、笑う。

 時折ナツの母やハルの両親の姿も加わる。

 皆が楽しそうで、ナツも心から楽しんでいることが伝わってきた。




 そんな微笑ましい光景を目の前にして、ヒロはまたぽろりと一粒涙をこぼした。

 気付いた晃に目を向けることなく、目の前で楽しそうに笑う幼い自分を見つめたまま、ヒロはぽつりとこぼした。


「ぼくが頼んだんだ。ハルに」

 その声はとても苦しそうで。

 しぼり出すように、ヒロは続けた。


「『他の霊玉守護者(たまもり)に会いたい』って」


 つないだヒロの手は氷のように冷たくなっていった。

 拳を握ろうとする手を無理矢理広げさせ、両手で挟み込んでやる。

 少しでも温まるようにこすってやると、ヒロのこわばりが少しだけゆるんだ。

 晃の手に包まれている自分の手を見つめ、ヒロは静かに話をしてくれた。



「その頃ぼくは大きな霊力にしょっちゅう熱を出して、強すぎる水属性のせいで引き込まれたりして。

 霊力コントロールの修行もはじめて、体力づくりもして、って、結構大変だったんだ」


 晃にも覚えがある。

 今でこそ丈夫になったが、幼い頃はしょっちゅう熱を出した。勝手に身体から炎が吹き上がることもあったし、身体の中で霊力が暴れ出して苦しくなることもあった。

 白露が側にいて抑えてくれていたとはいえ、幼い晃にはかなりの負担だった。

 霊力コントロールも、はじめは理解できず暴走させることがしょっちゅうで、とにかく大変だった。


 だからヒロの気持ちはわかった。

 痛いほどわかった。


 ただ頷いただけだったが、その気持ちは伝わったのだろう。ヒロのこわばりがまた少しだけゆるんだ。



「ぼくがあまりにもまいってしまったから、励まそうとしたんだろうね。

 あるとき、ハルが教えてくれたんだ」



 もっと大きくなってから言うつもりだったんだけど。と前置きして、ハルが教えたこと。


 ヒロと同じ霊玉守護者(たまもり)が、あと四人いること。

 他の四人も、同い年の男の子だということ。



「うれしかったんだ」


 ぽつりとこぼすヒロに、晃はただ頷いた。


 自分も同じだったからだ。

 自分も白露から他にも霊玉守護者(たまもり)が――同じ存在がいると聞いた時、胸に沸き上がったのは喜びだった。


 自分は一人じゃないと思ったあの時のあの喜びを、ヒロも感じていたのだ。



「おれも。おれも、うれしかったよ」


 励ますように伝えた言葉は、正しくヒロに伝わったらしい。やっと顔を上げ、微笑んだ。

 しかしすぐに目線が落ちてしまう。


 晃が再び手をさすってやると、ヒロが続きを話し出した。



「他のみんなもがんばってるぞって聞いたら、ぼくもがんばれた」


 うん、おれも。心の中だけで返事をし、頷くだけにとどめることで晃は話の先を促す。



「でも、思ったんだ」

 ヒロは、まるで罪を告白するかのように、その願いをつぶやいた。


「会いたい。って」


 口にしたことで、堰が切れたのだろう。ヒロは次から次へと言葉をつむいでいった。



「ハルには止められた。『何がおこるかわからない』って。『やめたほうがいい』って。

 ぼくらはまだ小さくて、霊力をコントロールすることができない。

 そんな状態で会って、どこにどんな風に影響があるかわからない、って。


 でも、会ってみたかったんだ。


 一人でがんばるのは、あの頃のぼくにはつらかったから。


 もちろんハルは側にいてくれた。家族もいてくれた。

 でも、違うんだ。

 ぼくと同じ存在が、ぼくと同じように苦しんで、ぼくと同じようにがんばってるって聞いて。


 会いたかったんだ。


 会って話をして、じゃあお互いまたがんばろうって。

 そうやって、励ましあいたかったんだ」



 さすっていた手を、思わずぎゅっと握った。

 晃にはその時のヒロの気持ちがよくわかった。


 自分も同じだ。同じだった。つらかった。苦しかった。大変だった。

 白露はずっと側にいてくれた。うれしかった。頼もしかった。


 でも。


 でも、自分も思っていた。


 会いたい、って。

 自分と同じ存在に会って話をしてみたい、って。


 握られた手の強さに励まされるように、息をひとつつくと、ヒロが再び話しはじめた。



「ぼくらが四歳の頃、ハルが折れてくれた。

 最初は、強い結界が張ってあるトモの家で、トモと会った。

 次に、やっぱり結界に守られてる佑輝(ゆうき)ん家の鍛冶場で会った。

 それで大丈夫そうだってなったから、神社でナツに会った。


 神社は神域だから結界が張ってあるし、ナツは『(いと)()』だから、何かあっても神様が守ってくださるだろうって。


 トモや佑輝とも時々会ったけど、会うのは家や鍛冶場の中だけだし、大人も一緒だったから、そんなに遊べなかった。

 ちょっと話して別れるだけ。


 でも、ナツとは、神社の境内で会ってたから、ハルと三人でよく遊んだ。

 大人も、神様も、少し離れて見てくれてたから。普通の子供みたいに遊んだんだ。


 三人で遊ぶのはすごく楽しかった。

 だから、何度も何度も会って、遊んだ」



 ヒロがぎゅっと晃の手を握る。

 何かに耐えるような表情は、とても楽しかった話をしているものではない。



「ナツは、ぼくらの友達なんだ」



 晃が初めて会った時から、二人はナツの心配をしていた。

 幼い頃からの友達だったら、行方不明になっているこの状況は心配に違いない。

 うん。と頷き、ヒロの手をまたさすってやる。




 助けたい。ヒロも。ナツも。


 そのナツはどういう状況なんだろうと顔を上げると、急に辺りが暗くなった。

次話は明日19時に投稿します

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