さよなら、あなたのためのフレグランス
あの頃の私はあなたがとっても大人に見えてかっこよくて、近寄りたくて仕方がなかった。あなたに近寄る女の子たちを見てはもどかしい気持ちを携えて、”あなたのことを知っているのは私だけ”と心の中でおまじないをかけるかのように唱えた。
会話の糸口を探しては自分の外見を変えてみたり、苦手な科目の成績をあげてみたり、ちょっといいフレグランスを買ってみたりした。あなたは私を見かけては優しく褒めてくれたり、助言をしてくれた。それにどれだけ救われたかあなたはきっと知らないでしょう。
今思えばあなたが私を物分かりのいいお子ちゃまくらいにしか思っていなくて、相手にするはずがなかったことくらい容易に想像できる。それでもあなたのために純粋なまでに投資して溺れることができた私は本当に馬鹿でお子ちゃまだったのかもしれない。
だからあの時、驚いたでしょう。さなぎが蝶になって舞ったように、私があなたのもとから自由に飛べた瞬間を目の当たりにして。あなたがどんなに手を伸ばしても、もう2度とあなたのもとへは帰らない。あなたの振りまく甘夏の香りに魅せられて吸い付くことは決してない。あなたは私の反面教師になっただけで交わることはないのだ。
だからもう私はあなたが好きと言ったあの香りをつけていない。さよなら、あなたのためのフレグランス。