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未必の世界  作者: 朝川景
1/3

 

 俺の知っている未来とは、わずかな強者と少数の戦う子供と多数の犠牲によって成り立つものだった。しかしそれも今となっては影も形もない幻で、俺の知る未来なんぞは最早やってくる気配など欠片もない。

 街を襲う化け物も、変身して戦う子供やその統率を行う組織もない。

 ただ俺に未来を見る能力だけを残してどこかに消えた。


 *


 平和だ。

 今の世の中はその一言に尽きる。

 節足動物にも似た化け物が街を襲って家を破壊したり人を食ったりすることもなく、それを対峙するために思春期から青年期の子供が戦う必要もない。ましてやそれを統率する大人たちが「子供を道具にしている」とメディアに叩かれることもない。親兄弟を亡くして悲嘆に暮れたり復讐に燃えたりなんてしない。一生残る傷を背負って生きることもない。仲間の裏切りに心を痛めることもない。

 いいことなのだ。平和なことは。

 しかし、何もないからこそ救われない人間の存在に目を瞑っていられるほど、俺も非情にはなれなかった。戦地に踏み入れたからこそ伸びる能力があり、共に戦うからこそ背中を預けられるほどに信頼できる友を見つけ、添い遂げたいと望む相手と出会えた。

 何より俺がそうであるように、化け物の襲来と同時に自身が持つ特殊な能力の理由を知った人たちがいた。特別に目や耳が良かったり、記憶力に優れていたり、世界の見え方がまるで異なっていたり。人とは違うという理由で隅に追いやられていた彼あるいは彼女たちは、戦いの中で理解者を得、生きにくいと嘆いた世界を愛するまでに至った。


 だけどこの世界では何も起こらない。

 化け物は存在せず、親友も伴侶も理解者も得られず、孤独に押しつぶされそうになりながら生きていかないといけない。

 そんな世界でかつての仲間は苦痛を理由に死んでいく。

 今の日常が壊れない限り彼らに居場所はない。


 平和だ。

 それが全ての人に等しく良いものだとは決して言えないけど、少なくともこの世界は争いも悲しみも少ない、良い世の中だ。


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