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一輪のピエロ  作者: I.me
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一輪のピエロ




緑がかる茶色い、ふんわりとしたくせっ毛に、飾られた様に被さった四角い帽子。細身な線が袖を通した少し大きめの赤い背広に、裾が入り込む大きな長靴。そして顔には笑顔の化粧をしている男が、雪の降り積もる地面に片膝を着いて一つの風船を手に持ち、彼の前に居る物思いふける面影な一人佇む女性へ、それを差し出していた。彼女が振り向くと、彼は風船越しに彼女を見つめて、風船を指さした。そして、くいっと風船の紐を引っ張ると、彼の持っていた風船は瞬く間に一輪の薔薇になった。


「あなたは、皆のあなた。

私だけのあなたには、なれないでしょう」



女性は、眉一つ動かすこと無く彼へそう言った。そしてまた、うつむき加減に彼へ背を向けた彼女は、振り返ることは無かった。男性はそのまましばらくも花を差し出していたが、膝を伝い片脚に雪が染み込み始めた頃に、手にしていた一輪の薔薇を足元の雪へ手向けて、振り返ること無く帰って行った。



「どうしてサンタは居なくなったの。

この前貰った風船飛ばしちゃっから?」



数日後の街の広場では、いつも通りの日常に沢山の人で賑わっていた。果物や野菜、様々な物が売り買いされる露店がある中で、真ん中の大きな噴水を囲み、買い物袋を持った人やこれから買い物をする人、小さな子を連れた人や友達いっぱいで来た子供達が集まっていた。その場所は彼がいつもそこに立ち、戯けて踊ったり手品をしたりと、その広場の景色だった。いつもの景色が途絶えたことで、集まった子供達が手を繋ぐ大人にそう聞いた。「良い子にして居れば、サンタはまた来てくれるよ」と、大人は答えた。大人達は皆、それぞれにそう思っていた。しかしそれから数年、サンタと呼ばれる彼は、姿を見せることが無かった。と、誰もが彼を数年間見て居ないと思って過ごしていただけで、サンタは皆の前に姿を見せていた。皆が彼に気が付かなかっただけだった。彼は皆と同じように広場に出向き買い物をして、皆と同じように過ごしていた。ただ、髪を纏め普遍的なシャツに袖を通し、笑顔の化粧をしていなかっただけだった。皆の心配も彼の中で痛んでいたが、それ以上に女性との事で何もかもを捨て去っていた。彼女の言葉が彼の中に突き刺さり、突き抜ける事も引き抜く事も叶わないでいた。





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