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  告白2

 千穂と壱華とあかりに緊張が走る。どう対処しようかと逡巡していると、一瞬で優実が答えてしまった。


「えー!白藤さんとお昼食べられるの!?食べる食べる!」


『一緒に、お昼いいかしら』


普段、食堂で一人で食事をとっているらしい白藤がそう声をかけてきたのだ。断りたいところが本心だが、優実がいいと言ってしまった手前断ることができない。


「ありがとう」


ふふふと笑いながら白藤は琉聖の席に腰かけた。


「白藤さんはコンビニで買ってきたの?」


優実が同室の赤尾沙也加に作ってもらった弁当をいそいそと広げた。


―おんなじタイミングでコンビニにいるなとは思ってたけど


まさか一緒にお昼を食べようなどと言ってくるとは思わなかった。壱華は睨みつけるように白藤を見てしまう。それに気づいているはずなのに、白藤はにこにことしているだけだ。


―私がしっかりしないと


武尊と琉聖は食堂だ。


―早く戻ってきてくれないかしら


自分からどうぞと言っておきながら、壱華はそんなことを祈った。


「そう、おにぎりと野菜ジュース」

「それで足りる?」


優実は足りないと返ってくるものだと思っているようで、いずこからかお決まりのポテトチップスを取り出す。


「デザートに食べようね!」

「いいの?」

「もちろん!」


優実は上機嫌だ。上機嫌ではない優実は基本見かけないのだが。


「白藤さんってどこから来たの?東京生まれ?」


優実は早口で問いかける。興奮しているようだ。


「ずっと西よ。田舎なの」


―西!


千穂と壱華は顔を見合わせた。


「そうなんだ!千穂と壱華も東京じゃないんだよ」

「地方仲間なのね」

「え!そ!そうかもね!」


突然笑顔を向けれられて、千穂は声がひっくり返る。それがおかしかったのか、白藤はくすくすと笑った。


「高野原さんってかわいいのね」

「そんなことないよ!」


千穂はぶんぶんと首を横に振る。長い髪がばさばさと揺れた。やっぱり白藤はくすくすと笑った。


「髪の毛の色って遺伝なの?」


聞きにくい話題を優実は気にせずに突っ込む。白藤は目を丸くした後、困ったように笑った。毛先に手を伸ばす。


「そうなの。お母さんも白いのよ」

「そういうお家なんだね!」


なんかかっこいい!と優実は瞳を輝かせた。


「そうかしら」


困ったような笑顔は、白藤の顔から消えなかった。


『―基本的に女が力を持つ一族らしいな』


壱華は熊の言葉を思い出す。


―お母さんも髪が白い。女の人の髪が白いのかしら。


 力と共に、髪の白い色も引き継ぐのかもしれない。壱華はこの情報は皆に伝えようと決める。


―化け蜘蛛を操るって言ってたかしら


この少女が操るのだろうか。このか弱げな少女が。


「目が赤ければアルビノなんだろうけど、そうじゃないからよく変な目で見られるの」

「目は私たちと同じ色だもんね」


優実はしげしげと白藤の顔を覗き込む。


「髪の毛だけ白いんだね」

「そうなの」


白藤は頷いた。


「きれいな色だね」

「そうかしら」

「うん。きれいだよ」


優実はにっこりと笑う。そして卵焼きを口に運んだ。


「んー今日もおいしい!」

「自分で作ってるの?」

「ううん、同じ部屋の子に作ってもらってる」

「優しい子なのね」

「そうなの」


優実と白藤の会話は存外弾む。千穂が唖然とその様を見つめていた。それに気づいた白藤が不思議そうな顔をする。


「どうしたの?食べないの?」

「へ?ううん!食べるよ!」


千穂は慌てて、一週間に一度は食べているカルボナーラを開封する。コンビニで温め済みだ。まだ急いでカルボナーラを口に運ぶ千穂に、白藤は突然問いかけた。


「高野原さんって、二階堂君と付き合ってるの?」

「っ!!!????」


千穂は思いっきりむせた。目に涙が滲む。壱華が慌ててペットボトルを千穂に渡した。千穂はそれをごくごくと飲む。


「はあはあ」

「えーと、図星?」

「違うよ!付き合ったりしてないよ!なんでそんなこと思ったの!!??」


千穂は叫ぶように言った。すると、白藤はうつむいてしまう。もじもじと膝の上で手を遊ばせる。それに、千穂は首を傾げた。


「だって、いつも一緒だし」

「それは席が隣だからだよ」

「いつもおしゃべりしてるし」

「それも隣だから!」


千穂がそう否定すると、白藤はおずおずと視線を上げた。その上目遣いに、千穂はドキリとする。自分の方が小さいのに、白藤の方がか弱く見えた。


「じゃあ、好きでもないの?」

「好きじゃないよ!」


意地悪だし!と千穂は膨れる。


「だったら」

「だったら?」


白藤の言葉を千穂は繰り返した。その様子を優実は眺めており、あかりと壱華は何となく嫌な予感がした。


「私に協力してほしいの!」

「何を?」

「千穂、ま―」


首を傾げて続きを促す千穂を壱華が止めようとするが間に合わない。


「私、二階堂君が好きなの!」

「へ!」

「ええ!!」


千穂と優実は叫び声をあげる。唖然とクラスメイト達も口を開いていた。ちなみに、天下の飯島壱華と噂の白藤涼子がいる時点で、クラスメイト達は雑談をするふりをしながらずっと会話に耳を澄ましていた。


「廊下ですれ違った時にすごくかっこいいなと思って。一目ぼれしたみたいで」


―確かに、武尊はかっこいいけど


言われてみれば、もてないほうがおかしいと千穂は思い至る。


―顔もいいし、勉強もできるし運動神経もいいし。

―非の打ち所がない

―いや、ちょっと怖い


千穂は開いた口が塞がらない。


 初めて武尊が教室に足を踏み入れた時、女子の空気が浮ついたのは事実だ。しかし、雰囲気を持つ武尊は敬遠されがちなところがある。今まで、武尊を好きになった女子がいるとは話に出てきたことはない。本当のところは千穂がいつも一緒にいることにも原因があるのだが、本人たちは自覚がない。


「や、でも、かっこいいけど、おすすめはできないって言うか」


千穂は口をパクパクさせながらどうにかそう言った。


「きれいな顔してるし、勉強もできるし、運動も得意だけど、意地悪だし」


千穂は続ける。


「どっちかって言うと、琉聖の方がずっと優しいし」


そっちのほうがおすすめかな、と千穂はははと乾いた笑いをこぼした。しかし、白藤は武尊と決めているらしい。ぶんぶんと首を横に振った。


「私は二階堂君がいいの!」


白藤はぎゅっと千穂の手を取る。


「恋愛感情がないなら、私が二階堂君と付き合えるように協力してほしいの!」

「協力って言われても・・・・」


千穂はたじたじになる。逃げたいが逃げられない。


「文化祭一緒にやるでしょう?そこで係が一緒になるようにしてほしいの!」

「係―」


なるほど、その手があったか。と千穂は思ってしまった。


「ちょ、ちょ待って!」


優実が制止する。白藤の手を取り千穂の手から引きはがす。そして白藤の肩に手を置くと、自分の方へ体を向けさせた。


「あのね、千穂はああ言ってるけど、武尊は千穂のだから!」

「ええ!!」

「でも、好きじゃないって―」

「私は、武尊と千穂を推してるの!」

「え?おすって?え?」

「だから、悪いけど応援できないかな!」

「優実ちゃん?」


優実は戸惑う千穂を全無視する。千穂は優実を止めようと手をさまよわせるがどこにも置き場がない。


「え?えと?え?」


―何で好きでも付き合ってもないのに、武尊が私のなの?


優実の理論が全く理解できない。


「だめなの?」

「悪いけど」


ね、と優実はあかりと壱華にも賛同を求めた。あかりと壱華は顔を見合わせる。


「そうね、ごめんなさい」

「協力はできないの」


二人は困ったように笑ってそう答えた。白藤はしゅんと小さくなる。しかし、すぐ取り直したかのように笑った。


「―突然ごめんなさい。びっくりしたわよね」


その変わり身の早さにも驚きなのだが、千穂はつい頷いてしまう。


「うん、びっくりした」


千穂の目はまだ丸いままだ。


「もっと優しい人がおすすめだよ」


どこか呆然としながら千穂は言った。白藤はにっこりと笑った。


「でも、ごめんなさい。諦める気はないの」

「へ?」


どういうことだと千穂はまた首を傾げる。


「なんだか、ライバルみたいね」

「え?」

「交渉は決裂ってことね。私、一人でも頑張るから」


そう言い残すと、飲みかけの野菜ジュースを手に白藤は去っていった。


「何だったんだろう」


どういうことだろう、と千穂は小さな声でこぼす。優実が千穂の肩を掴み揺さぶる。


「千穂!敵だよ!ライバルだよ!このままだと武尊取られちゃうよ!」

「取られるも何も!私と武尊は何もないよ!」


剣の使い手と銀の器と言う点を除いては―だが。


「違うよ!二人はどう見ても両思いだよ!」

「嘘!」

「嘘ついてどうするの!」

「ええ!!??」


千穂の声がひっくり返る。


「何騒いでるんだよ」


そうこうしていると男子組が戻ってきた。優実が当然白藤の宣言を黙っているはずがなく、騒ぎは大きくなるばかりだった。



 武尊は頭を抱えていた。隣には緊張している千穂が座り、後ろにはにこにこと笑っている白藤が立っている。どことなく緊張感がただよっているのは、周囲の人間に千穂派と白藤派とどうでもいい派と武尊が憎い派など様々に分かれ、自分の思いを駄々流しにしているからだった。


このクラスには千穂派が多いようで、座りながら後ろを睨みつけている生徒もいる。逆に壱華のクラスには白藤派が多いようで、教室の後ろに立ちながら前を睨みつけている。そして時々武尊に送られる殺意あふれるまなざし。


「めんどくさい」

「はいそこ、勝手にしゃべらない」


ぽつりとこぼれた武尊の本心はしっかりと司会をする佐々木の耳に届いた。


 時間は6限。文化祭の準備用にあてがわれた時間だ。担任教師たちは職員室に戻り何やら仕事をしている。残された生徒たちは今千穂たちの教室に集まり劇について内容や係分けを決めていく手はずだった。しかし、昼休みの白藤の宣戦布告により、空気はこの通りである。


「やっぱり、王道でお姫様と王子様のラブストーリーがいいと思います」


請われてなどいないのに、優実が突然そう発言した。席はいつも通り千穂の前を陣取っている。


「だったら、姫と王子をそれぞれのクラスから出すことになるんだろう」


壱華のクラスの男子がそんなことを言う。それに優実は顔をしかめる。今口を開いた男子生徒が白藤応援隊なら武尊が王子で白藤を姫にされてしまう。しかし、見たいのは武尊が王子で千穂が姫の劇である。そもそも、見たいのは千穂のドレス姿である。


「あの~」


これも佐々木の指示なしにそろそろと手が上がる。仕方なく、佐々木はその女子生徒を指さした。


「どうぞ」

「はい」


少女は立ち上がるとおずおずと言った。


「白鳥の湖とかどうでしょう」

「どうして?」


すぐに質問が上がる。


「お姫様が二人出てくるから」

「二人?」


少女はこくりと頷く。


「王子ジークフリートと結ばれるオデットと、ジークフリートを誘惑するオディールが出てくるから」

「結局結ばれるのは一人じゃん」

「一対一で結ばれるのは常識じゃん」


突っ込みに突っ込みが入る。確かに、と誰かが呟いた。


「待って、それってさ」

「二階堂がジークフリートだね」


佐々木がにっこりと笑った。武尊は沈んだ。


「俺は裏方がいい!」

「あきらめろ。今回は無理だ」


大島が武尊の前の席で腕を組みながら言った。


「じゃあ!千穂がオデットだよ!」

「俺は白藤さんを推す!」


―私も裏方がいいんだけど―


千穂は小さくなってもじもじとそんなことを考えたが、当然言えるはずもなく。壱華も代わろうとはまさか性格上言えない。


―どうしらいいのかしら


ちらりと琉聖を見ると、琉聖は苦笑いを返してきただけだった。


―お手上げってことね


壱華は口論になり始めている教室を見渡した。どうすればおさまるだろうと頭を悩ませていると、あかりが席を立った。それだけで水を打ったように静かになる。にっこりと笑って、あかりは言った。


「こうなったらくじ引きね」


―。

―。

―。


 佐々木が動いた。あみだくじを黒板に書き始める。オデット、オディールと書いて、皆に見せてから隠す。適当に横棒を付け足してそこもどこから取り出したのか大きめの紙で隠してしまう。


「どっちがどっちか決めて」

「千穂!」


ぐるんと優実が千穂の方へ振り替える。


「へっ!」


その勢いに、千穂は間抜けな声を上げてしまう。


「白藤さんからだろう!」

「ここはじゃんけん―」

「それじゃあみだにした意味なくない?」

「どうぞ」


騒ぎは今度は白藤の一言で収まる。白藤は優雅に笑っていた。


「高野原さん、先にどうぞ」

「え?え?」


慌ててきょろきょろとあたりを見渡せば、不満そうな視線や、早く決めろと訴える視線が向けられている。千穂は慌てて答えた。


「え、えと、えと、右!」

「じゃあ、私は左ね」


―オデットは無事千穂が手中に収めた。


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