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3.告白1

「お集まりいただきありがとうございます」

 

そう言って、にっこりと笑ったのは佐々木だ。


―あんな顔もできるんだなー


そんなことを思っているのは千穂だけではない。優実も驚いた顔をしていたし、武尊も目を丸くしていた。大島だけが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。長い付き合いなだけあるのかもしれない。


「今日は提案があります」


 千穂の教室には生徒がぎゅうぎゅう詰めになっていた。それもそのはず、隣のクラスの生徒を呼んだからだった。時間は昼休み、皆まだお昼も食べ終わっていない。少し、不満げな空気が流れていた。


「提案ってなんだよ」


壱華のクラスの男子がそう問いかけた。不機嫌そうな声だった。しかし、佐々木は臆することなく笑顔のままだ。


「実は、劇をやりたいなと思っていて」

「譲らないぞ」


今度は敵意のこもった声が響いた。そしてざわざわとざわめきが起きる。


「劇、私たちだってやりたいよね」

「譲れって言いたくて呼んだの?」


そんなささやきが聞こえてくる。自分に向けての言葉ではないのに、千穂はなぜか背を冷たい汗が伝った。


「そうではなくて、一緒にやりませんかって提案したくて」

「―・・・一緒????」


今度は戸惑いを含んでいた。佐々木は頷いた。


「どちらのクラスも劇をしたい。譲りたくない。だったら一緒にやってしまえばいいんじゃないかと思ったんだよね」

「そんなんありかよ」

「賛成してくれたらアリにします」


その自信はどこからくるのだと、武尊は眉根を寄せた。


 先ほどとは違うざわめきが起きる。声はより活発になっていた。


「できないよりはいいんじゃない?」

「こんなに人数いてまとまれるの?」

「これだけいれば金とか集まるよな」

「大道具も凝ったの作れるかな」


何かを期待するような色を含み始める。


「なかなかやり手ね、彼」


 ひそっと壱華が千穂の耳元でささやいた。千穂は隣を見上げた。


「頭いいの」


武尊ほどではないが十分いい成績を修めていることは知っていた。


「―そうなの」


その答えはちょっとずれてるんじゃないかと思ったが、壱華はそこには触れなかった。


「合同でできたら、壱華とも一緒に活動できるわね」


あかりがにっこりと笑って言った。それは、その方が都合がいいのではないかと言っていた。武尊は頷いた。


「そうだね」

「え?それ最高」


がたりと優実が立ち上がった。周囲の視線を気にせずに壱華の手をぎゅっと握る。


「ぜひ一緒にやろう!」

「えと、それは、私だけでは決められないかしら」


壱華はあははと困ったように笑った。壱華は自分を見ているクラスメイト達に向かって首を傾げた。


「どうする?」

「飯島さんがいいならいいかな」

「俺もそう思う」

「そうよね。それでもいいかも」


そんな声が聞こえてきて、壱華は冷や汗をかく。


―私がいいならいいってどういうこと?


自分の影響力をまったく自覚していない壱華はこの状況に頭を悩ませるが、それを顔にはおくびにも出さない。


「いいんだったら、やろうよ。一緒に」


畳みかけるように武尊がそう言った。


「でもよーこんな大人数まとまれるのかよ」


その声は大きかった。しんと教室が静かになる。


「これだけいればさぼるやつだって出てくるぜ?絶対」


それは否定できなかったし、むしろ武尊はさぼろうと思っていた。裏方で逃げようと思っていたのだ。空気が悪くなってきたその瞬間


―ガラリ


「ごめんなさい。遅れてしまって」


白藤涼子が教室に入ってきた。


「先生に質問していたら遅くなってしまって」


息を切らしている。走ってきたのかもしれない。しんと教室が静まり返る。その存在感にのまれるのだ。静かな教室に、白藤は戸惑った顔をした。


「えーと、何のお話だったのかしら」

「劇を合同でやらないかって提案してたところなんだ」


さすが佐々木。そこは恐れず口を開く。白藤は目を丸くして、教室にひしめく生徒を見た。そして、ニコッと笑った。


「私、こんなに大勢で何かやったことないの。みんなでできたら素敵ね」

「飯島さんもいいって言ってたし、いいんじゃないかな」


―いや、いいとは言ってない


壱華は突っ込むのを我慢した。顔が引きつる。


「そうだよ。せっかく白藤さんだってやりたいって言ってるし」

「学校来てまだちょっとしかたってないのに、意見言ってくれるの助かるよね」


空気が、賛成に転びだす。それを完璧に持っていこうと佐々木が決定打を打つ。


「じゃあ、合同でやると言うことで」


ぽんと手をたたいて話をまとめる。反対意見を出した少年は何か言いたげだったが、彼が口を開く暇を与えることなく佐々木が話し続ける。


「じゃあ、今日の6限のホームルームは合同で。せっかくのお昼休みに集まってくれてありがとうございました」


まだ少年は口をパクパクさせていたが、大島の方がはやかった。


「飯行こうぜ、飯」


今日は学食の気分なんだよなーと席を立つ。それを皮切りに、座っていた生徒たちが立ち上がり始める。壱華のクラスメイト達も次々と教室を出ていった。


「二人とも来るだろう?」


大島は武尊と琉聖にも声をかける。二人は顔を見合わせ、千穂を見た。


「せっかくだから、行って来たら?今日は私も千穂たちに混ぜてもらおうかしら」


壱華が自分がここを引き受けるから行ってこいと言外に告げる。二人はもう一度顔を見合わせ立ち上がった。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「ありがとう」

「えー壱華とお昼食べられるの?幸せ!」


二人の言葉は優実の歓喜の声にかき消される。壱華はそんな優実に苦笑していた。


「お昼買ってこなくっちゃ。千穂も行く?」

「行く!」


壱華の言葉に千穂はぴょんと椅子から立ち上がった。それを見た武尊が言う。


「じゃあ途中まで一緒に行こう」

「はーい」


千穂は手を上げて返事をした。


「お昼、今日は何にしようかな」


 白藤の視線にも気づかずに、千穂はそうのんきに笑っていた。



「あの白藤っての、超美人だな」


 にやにやと笑いながら大島が言った。昼食のメニューはかつ丼の大盛だ。武尊はさすがにカレーは食べすぎだと思ったので、酢豚にした。琉聖はペペロンチーノをフォークに巻き付けている。


―琉聖って、結構少食だよね


あまり食べないほうの自分を棚に上げて、武尊はそんなことを思った。


「あいつにやりたいって言われたら、良いって言いたくなるよな」


隣のクラスの奴らの気持ちわかるなーと大島はまだ笑っていた。


「そんなに気にいったの?」


大きく切られたニンジンを口元に運びながら武尊はそう問うてみた。大島は首を横に振った。


「飯島の方がタイプだな」

「それは同感」

「二階堂は高野原だろう?」

「なんでそうなるの」

「僕は大島君こそ千穂ちゃんだと思ってたな」

「二階堂に譲ろうと思ってだな」


高野原可愛いよなーと大島は体を揺らす。


「ちっこくてさ、ちょっと頭悪そうなところもいい」

「あれ、疲れると思うけどな」


武尊は眉をひそめた。いろいろ苦労が思い出されたのかため息をつく。琉聖は武尊の隣で苦笑いを浮かべていた。


「白藤はー自分が美人ってわかってるところがずるがしこい感じがしていいよな」

「普通ずるがしこいの嫌じゃない?」

「女の狡さは魅力なんだよ」


武尊の言葉に、大島はどこか哲学めいたことを口にした。


「―そうかなー」

「飯島は逆にわかってなさそうなところがいい。さっきも困ってたよな」


くつくつと大島は楽しそうに笑う。武尊は大島の言っていることが分からなくて、ついいぶかしげな眼で大島を見てしまう。


「二階堂。俺のことバカだと思っただろう」

「いや、楽しそうだなって」

「そりゃ楽しいぞ?」


あんな美人が隣に来ればな。


「この話がしたくて学食に来たんだ?」


琉聖はやっとわかったと声を上げた。大島は頷いた。


「山田はこの手の話については来れるけど、やっぱり女子がいると話しづらいからな」

「山田さんは、すごいよね」


ああ、と琉聖も息をこぼす。あのメンタルはぜひ自分も欲しいと思う琉聖であった。


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