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  琉聖2

「また編入生」

「次はさすがに隣のクラスみたいだけど」

 自席で頭を抱える武尊にあかりが柔和に笑む。新たな編入生が来ると情報を持ってきたのはあかりだ。


「本当、どこからそんな情報手に入れるのやら」

優実が半分呆れたように言いながら、机の上に広げられたポテトチップスに手を伸ばす。

「ちょっと職員室で小耳にはさんで」

「確かに、課題を提出に職員室には行ってたけどさ」


優実はまだ疑っているようだ。半分じとりと瞼を下ろしている。

「俺が思うに、そこは問題ではない」

突如話に割り込んでくるのは大島だ。注意が長身の少年に向く。

「男か女かってのが問題だ」

「確かに」


肘をついていた優実はしゅっと姿勢を正す。真摯な瞳であかりを見つめた。それにやはりふわふわと笑いながらあかりは言うのだ。

「女の子ですって」

無言で大島と優実がガッツポーズを決めた。それに佐々木が呆れたのか携帯を持つ手を下ろした。


「そんなに重要?」

「かわいい子だとなお良し」

「―いろいろ敵に回しそうな発言だね」

「仕方ない。欲望には勝てない」

大島は落ち着いたのか椅子に腰を下ろした。優実も優実でいけないいけないと呟きながらわざとらしく前髪を流していた。そんな二人を見て、くすくすとあかりは笑っているのだった。


「―武尊、頭痛いの?」

ずっと黙っている武尊に、千穂が問いかける。

「―痛いよ」

「なんでだよ」

女子だぜ、喜べよ、と大島が武尊の肩をたたく。武尊はやっと頭を抱えていた腕を下ろすと背もたれに体を預けた。

「俺には俺の心配事があるの」

「心配事ってなんだよ」

「―――――。千穂が上手くやれるのかなって」

「私の心配!?」


長い無言の後に、ぽつりと武尊は呟いた。千穂はがたりと音を立て立ち上がる。武尊は思いっきり顔をしかめた。

「だって、うまくやれるの?」

―敵だとして、捕まらずにいられるの?

その思いは千穂には届かない。

「仲良くできるもん!」

これでも、いろんな人と話せるようになってきたんだから!と見当外れもいいことを叫ぶ。頭痛がすると、武尊は再び頭を抱えた。それを苦笑いで見つめるのが琉聖だ。

「そうだよねー。男の子とも話せるようになったもんねー」

成長成長、と優実は千穂の頭を撫でた。優実の言葉に落ち着いたのか、千穂は椅子に座る。

 

武尊はちらりと琉聖を見た。彼は武尊の視線に気づくと、肯定するように眉をハの字にしながら笑った。小さく頷いて見せる。

―琉聖は敵だって思ってるってことか。

武尊は自分の懸念があっているようだと判断する。

―琉聖自体が敵だったんだ。この学校に来る人間はみんな敵だと思った方がいい。

ああ、でも

―また親父が送り込んだ味方かもしれないのか

武尊は大島たちを見ている琉聖に視線を向ける。きれいな顔をした同室の少年は、今は武尊たちの味方だ。そうなるように己の父が仕向けたらしいと琉聖から聞いた。


―だったら、また琉聖と同じように取引を持ち掛けられた人間が来る可能性があるってことだ。

ならば油断はしていられないと、武尊は頭を抱えたまま机を睨んだ。


「机に穴でもあけるつもりか?」


大島がじっと動かない武尊にそう声をかける。武尊は顔を上げた。

「まさか」

ため息をつきながら再び椅子にもたれかかる。

「だよな」

そう言うと、大島は顔をあかりに向けた。

「で、その編入生はいつ来るんだよ」

「さあ。明日明後日には来るんじゃないかしら」

あかりは首を傾げて見せた。ふわりと柔らかそうな髪が揺れた。


―いいにおいがしそうだなー

そんな感想を抱きながら千穂はあかりを見つめていた。

「その編入生が来たらみんなで見に行こうよ」

優実がそんなことを提案する。

「いいな」

大島が体を前のめりにさせる。顔にはいたずらっ子のような笑みが張り付いている。

「迷惑じゃないかな」

「教室の外からちょっとだけ!」

優実は千穂に大丈夫だと言う。

「―偵察には行った方がいいかもね」

「なんだよ、二階堂も結局興味あるんじゃねえかよ」

大島が武尊の肩を引き寄せる。それを武尊はうっとうしげに押しやる。

「こっちにはこっちの事情があるの」

同じにするなと武尊は言う。しかし、そんな話大島には通じない。

「照れるなって!」

あはははと何が楽しいのか笑う。佐々木は視線を大島から武尊に移す。


「事情って何」

「秘密」

「だったら言わなきゃいいのに」

「それはごめん」

「別にいいけど」


淡々と会話は続き、終わった。佐々木は視線を携帯に戻す。その二人を琉聖が不思議そうに見ていた。そんな琉聖を大島が巻き込む。

「轟も見に行くだろう?」

「え?あ。えーと。武尊が行くなら行くかな」

「俺に丸投げしないでくれる?琉聖」

「ちょっと待った!」

ばっと大島は武尊と琉聖の間で両手を広げた。その長さに二人とものけぞる。


「名前、呼び捨てとか、お前らいつからそんなに仲良くなったんだ?」

「・・・・・・。部屋も同じなら仲良くなるでしょう」

「あんなに嫌ってたくせにか?」

大島が態勢を変えないままに問いかける。

「別に、嫌ってないよ。ちょっと苦手だと思っただけで」

「いや、あれは嫌ってた」

「もういいじゃん。本人としては嫌ってたつもりないんでしょ」


佐々木が珍しく助け舟を出す。どうしたのかと琉聖以外の五人が首を傾げていると、佐々木は答えを自分から口にした。

「今度のホームルームでは文化祭の出し物決めるから、何か考えといてよ」

―なるほど、それが言いたかったのか

千穂は内心頷いた。

「文化祭かー」

何がいいかなーと女子で話していたら、いつの間にか昼休みは終わっていた。



「僕と同じだと思って警戒はしてたほうがいいと思うな」

 琉聖は会議でそんなことを口にした。

「やっぱりそうだよね」

「そうだったの!?」

私が心配って、そういうこと!?と千穂は声を上げる。今更の反応に、武尊はやれやれと首を横に振った。

「そうだよ。それなのに仲良くできるできないの話に持って行って」

あかりだって分かってるのに、と武尊は完璧に呆れている。千穂はうーと唸るが、そうそう挽回できない失態だった。


「そんなほいほい、取引する人間って見つかるかな」

樹がはいと手を上げて意見を述べる。

「だって、この学校に入れるだけの年齢層でしょ?幼くたって俺くらいが限度だし、上は18とかくらいまでだし」

教師入れれば違うかもだけど、と樹は閉じる。それに年長組は考えだす。

「僕の年齢層がそういう家にいないことはないと思うんだけど、取引になるバックボーンがないとだめだからね」

「琉聖みたいに家に帰りたくないとか?」

「そうそう」

体を揺らしながらの千穂の言葉に琉聖は頷いた。


「それに、そこそこ強くないと足手まといだぞ?」

家柄の奴がどれくらい強いものなのかは分からないけどさ、と啓太も足を組みながら言う。

「どうしても血は薄まってきてて弱くはなってきてるって話は聞くよ」

先祖返りでもしない限りね。と琉聖もどこか心配げだ。

「味方になってくれるのはありがたいけど、問題は味方になってもらうにはその編入生の目論見を阻止しないとってことでしょう?」

そこをどうにかしないと、千穂取られちゃうじゃないと壱華が声を上げる。それに男性陣は口をつぐんだ。その沈黙の中、武尊が口を開く。


「―隣のクラスに編入だから、年は単純に考えて俺たちと同じ。もし、父さんがまた取引をした相手という可能性は、それはすごい確率だけど無きにしも非ず」

うんと皆が頷く。

「だったら、警戒を怠るわけにはいかない。どうにかあかりにも力を借りて情報を集めよう」

「今わかってるのは女子ってことだけだもんな」

啓太が膝に肘をついて考えだす。

「でも、琉聖の時だって由緒ある家柄らしいってことくらいしか情報なかったよ」

樹がお手上げだと首を横に振る。

「―出方を待つしかないかな」

琉聖が肩をすくめる。

「そうだね!普通の人かもしれないし!」

この学校多いんでしょ?編入生!と千穂は楽観的だ。それに笑って返したのは琉聖だ。


「それはちょっと甘すぎるかな」

「そうかな」

うんと琉聖は頷く。

「千穂ちゃんは銀の器だから、それだけで普通の人生は送れないと思った方がいいよ」

―琉聖は千穂と壱華をちゃんづけで、武尊と啓太と樹を呼び捨てで呼ぶようになった。

「そんな~」

普通が一番なのに~と千穂はクッションを抱いて嘆く。

「銀の器ってことを除けば普通の女の子なのにね」

困ったものだと武尊は千穂を見る。千穂は何度も首を縦に振った。

「そうなの!私自体はすごく普通の女の子なの!」

「運動神経が良いわけでも、成績が特段良いわけでもないもんね」

「そうだけど、そう言われると悪口言われてる気分!」

千穂は武尊の言葉にむくれた。

「悪意はない」

「でしょうね」


千穂は抱えたクッションに顔をうずめた。

―悪意がない方が質が悪い

千穂はそんなことを思ったが何も言い返せなかった。


「俺、見てみようか!」

またどこからかぴょんと碧が飛び出してくる。部屋は千穂と壱華のものだ。

「碧、連れてきてたのね」

壱華が軽く目を丸くする。

「連れてきたと言うか、付いてきた」

「俺は!なるべく武尊といたい!」

「碧、そんなに俺になついてたっけ」

「そもそも!俺、この学校にまで付いてきたんだからね!」

「思い返せばそうかも」

「思い返さなくてもそうなの!」

武尊は薄情なんだから!と碧は珍しく怒る。とすとすとローテーブルを踏むが、ぬいぐるみの足ではそう威力は出ない。


「それで碧、見るってどういうこと?」

樹が脱線した話を元に戻す。ちなみに、ついてきたとはどういうことか後から碧に聞こうと琉聖は琉聖でひそかに思っていた。

「俺、見ればその人間に力があるかどうかわかるよ」

「霊能力があれば敵な可能性が高くなるってことか」

ふむ、と武尊が考え込む。ちらと碧を見る。小さ目とは言えぬいぐるみだ。持っていけば目立つ。そしてなにより、碧を抱えて移動するのが恥ずかしかった。

「僕が持って学校に行こうか」

琉聖が武尊の心を見透かしたように名乗り出た。


「いいの?」

でも、クラスは私のクラスなんでしょう?と壱華が長い髪をさらりと揺らしながら首を傾げた。

「もし本当に敵なら、碧が近づきすぎたら使い魔だってばれるかもしれないし。遠目に見た方がいいと思うよ」

「分かるものなんだ」

「見る人が見ればね」

武尊がへーと感心したように声を上げると碧はそう言って体を武尊に向けるのだった。そんな碧を琉聖は両手で持ち上げる。

「明日くらいから持って行ってみようかな」

少し気が早いかもしれないけど、と笑う。

「平気なの?」

「初恋の人にもらったことにしようかな」

家から届いたってことにしてさ、と琉聖は乗り気なようだ。

「はあ」

武尊はそんな琉聖の気持ちがわからず、珍しく眉をハの字にするのだった。


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