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  文化祭2

 千穂は鏡に映る自分の姿をしげしげと眺めていた。じーっと一点を見つめたかと思えば、頭のてっぺんから足の指先まで視線を動かす。白いドレスをまとった自分は、今まで見たことのない自分だった。


「すごい」

「千穂可愛いよ!」


優実が抱き着きたくなるのをこらえているのか、体を上下にうずうずと揺らしている。


「―代わりに抱き着いても良いぜ」

「まじ!―いや、大島は男じゃん。私は女の子に抱き着きたいの」


色々すれすれな会話が交わされながら劇の準備は続く。


「千穂、すごくきれいよ」

あかりが笑顔でそんなことを言ってくれる。千穂はえへへと頭をかきたかったが、髪の毛もセットしてあるので触れない。

 壱華も壱華で感動して少しうるっと来ていた。

―千穂が、大人っぽく見える!


あんなに子供っぽいのが嫌だと言っていた千穂だったが、今日は年相応か少し上に見える。

―身長の問題じゃないのね

千穂に聞かれたら怒られそうなことを思いながら、壱華はこぼれそうになる涙をぬぐった。


ちょっとした感動に包まれる千穂派であったが、別の一角からざわめきが起きる。そちらに視線を動かせば、黒い衣装を身にまとった白藤が現れたところだった。白い髪とのコントラストが美しかった。千穂は間抜けな顔をして白藤を見つめてしまう。


「よく似合ってるわ」

「えと、ありがとう」


千穂はすいと顔をそむけてしまう。

―少しはきれいになれたかなと思ったけど、そんなこともなかった

白藤を見ていると自信を無くしてしまうのであった。それを見てか、大島が席を外す。

「ちょいとあっちの様子見てくるわ」


「ほら、千穂笑って」

あかりが両手の人差し指で自分の口箸を持ち上げて見せた。それに千穂は力なく笑う。それにどうしたものかと女性陣が思っていると大きな声が聞こえてきた。


「おいおいおい!お姫様!」


大島の声だった。バタバタと駆けてくる音に加えてざわめきが聞こえる。見ていると、大島が武尊の腕を引いて現れた。


「わっ!」


千穂はついそう声を上げた。見とれていると、大島の嬉しそうな声がかかる。


「なかなか決まってるだろ?」

「へ?」


突然声をかけられ、千穂は声が裏返る。状況に頭が追い付かず、いつものように口をパクパクさせていると、武尊から千穂に近づいてきた。


「へー、よく似合ってるじゃん。―ちゃんと高校生に見える」

「え?ちょっとどういう意味!!」

「いつもは中学生みたいだから」

「ちょっとはかっこいいなって思ったのに!やっぱり意地悪だ!!」

「見た目と性格は関係ないでしょう」

「お前らそのかっこでちょっと歩いて来いよ」


大島がどこから引っ張り出したのか宣伝の看板を抱えていた。それを武尊に押し付ける。無意識に受け取ってしまい、武尊は顔をしかめた。それにおかしそうに笑いながら大島が言った。


「衣装に着替えちゃセッティングもできないだろう。客寄せして来いよ」

まだ時間もあるしな、と続ける。

「行きましょうよ」

するりといつものように白藤が武尊の腕に手をかける。千穂はそれにむっとして武尊に体を寄せる。

「はいはい仲良く行きましょー」

武尊が白藤の手をよけながら棒読みする。千穂はぱたぱたと武尊に続いた。その後ろを面白くなさそうに白藤が付いて行く。


「ありゃ大丈夫かね」

「まあ、少しは元気なったみたいだし、いいんじゃないかしら」


そんな会話をする優実とあかりの後ろで、壱華は苦笑するのだった。



長いマントが翻る。瞳こそ黒だが、髪が金色に染められた少年は、絵本から出てきた本物の王子様のようだった。しかし、やる気はないようだ。


「高等部1年の演劇でーす。A体育館で2時半からでーす」


間延びした声で武尊が口にする。その後ろを、えーとえーとと言いながら千穂が続く。目があった人に笑って頭を下げ、よろしくお願いしますと言うのがやっとだった。やっていることは白藤も千穂と変わらないのだが、彼女の方には余裕があった。優雅に会釈し、可憐にほほ笑む。


「君可愛いねー」

「ありがとうございます」

「どこでやるの?」

「この上の体育館です。2時半からなので、そろそろ行くと良いかもしれません」


寄ってくる男をうまく体育館に移動させる白藤に対して、千穂は武尊の背に隠れているばかりだ。―武尊が隠しているとも言えたが。


―話しかけられてうまく答えられると思わない。


この時間で台詞を飛ばされても困ると思っていた。フォローできるのにも限界がある。


「お姉ちゃん!?」


素っ頓狂な声が上がる。見れば未海だった。千穂の妹で、千穂とは似ずに文武両道秀でている。―夏休みは女性を一人投げ飛ばしていた。


「未海!」


千穂が未海に駆け寄る。姉妹は手を取り合って再会を喜んだ。


「え?なにこれ衣装?すごい、よく似合ってる」

写真撮ろうよ写真!と未海が携帯をごそごそとしていると、一緒に来ていたらしい美緒が姿を現した。

「未海、先に行ったらはぐれちゃうでしょう?―千穂???」

「あ、お母さん!」

「ね、すごいよね、これ衣装だって!」

娘二人は母親に駆け寄る。美緒はびっくりした顔をしている。

「そうしていると、千穂の方がちゃんとお姉ちゃんに見えるわね」

「えへへーえ?どういうこと?」

「いつもは逆に見えてるってことでしょう?母親の目をもってしても」

ほら、写真撮ってあげるから並んで、と武尊は未海から携帯を受け取る。2枚ほど家族写真を撮ってからぐるっと歩いて体育館に戻ろうと考える。そろそろ時間だろう。


「はい」

「ありがとうございます」


武尊は未海に携帯を返す。未海は写真を確認して嬉しそうに笑っていた。

 さて、帰るかと白藤に渡していた看板を手に取る。


「あの!」

「何?」


看板を肩にかけると声をかけられる。見れば中等部の女子生徒のようだった。手には携帯が握られている。―少し嫌な予感がした。


「写真撮ってもらってもいいですか?」

「―撮るから貸して」

「そうじゃなくて、一緒に!」

「ああー」


見れば、うずうずと携帯やカメラを手に生徒と外部客を含め女性が足を止めていた。


―どうしようかな


時間も時間だし、そもそもめんどくさいと思っていると白藤が動いた。いつものように、どこか艶めかしく武尊に腕を回すのだ。


「ごめんさない。もう時間がないの。劇が終わってからでもいいかしら」

「お手間取らせないので!」

「本当にごめんなさい。本番が終わったら時間が取れるから」


行きましょうと白藤は武尊の手を引いて歩きだしてしまう。それを千穂はまたどうすればいいか分からなくなりながら見てみた。落ち着きなく足踏みする。


「お姉ちゃん!あれ何!」


二人を追うことをやっと決めて足を踏み出そうとしたとき、未海に引き留められる。指さす先から武尊と白藤のことだと分かった。千穂は速く二人を追いかけたいと思いながら答える。


「えと、白藤さん、武尊のこと好きなんだって」

「お姉ちゃんはそれでいいの!?」

「それどういう意味?」

「千穂!行くよ!」


武尊から声がかかる。千穂はまたあとでねと未海に残してぱたぱたと武尊の背を追う。


「やっと見つけた!もう時間ないって!てか二階堂!彼女置いてくんな!」


千穂たちを探していたらしい大島が叫ぶ。武尊も叫び返す。


「不可抗力!これ持って!」


人ごみをかき分け大島が武尊と白藤のもとにたどり着く。武尊は看板を大島に押し付けると後ろからかけてくる千穂に手を伸ばした。


「ほら。行くよ!」

「うん!」


千穂も迷わずに手を取る。ぐいと引かれ、とんと武尊の胸にぶつかる。


「髪とか崩れてないね?」

武尊は至近距離でそう確認する。千穂はドキドキしながら頷いた。

「うん、大丈夫」

「大島は白藤頼んだ」

「おう、頼まれた」

「一人で歩けるわ」


大島が手を差し出すと、白藤はあきらめたようですいと武尊から距離を取る。そして大島とも距離を取った。



「行きましょう。時間がないもの」


四人は慌てて体育館へと向かった。

 その慌ただしい様子を見ていた高野原親子は、顔を見合わせた。未海が四人が消えていった人ごみを指さす。


「彼女って、お姉ちゃんのことかな」

美緒が未海の手に己の手を重ね、指をさすのをやめさせながら答えた。

「よく分からないわ」

「後から聞かないと」

「・・・そうね」


予想外の事態に、困惑する二人であった。


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