響き続ける悪魔のためだけの歌
昔、昔。昔の事。
ある所に女の子がいた。
女の子は歌うことが得意であった。
女の子は子守歌を歌った。
何故ならその子はその歌しか知らないからだ。
けれど女の子は病を患っていた。
その女の子は歌うことが好きでありながら歌うことが苦痛でもあった。
ある日女の子はとうとう歌う気力も無くなってしまった。
ある日、1人の、いや一匹だろうか。
よく分からないものが夜中少女の前に来た。
それは少女に言った。
「私は悪魔だ。お前の歌が好きだった。」
「それは…ありがとう。」
少女は言った。
悪魔は聞いた。
「何故歌わなくなった?」
少女は答えた。
「私病気なの。それで歌うのが苦しいの。きっともうすぐ死ぬのだわ。」
「そうか。」
そうか、と悪魔は言い、少女の元から消えた。
女の子は母親に言った。
「私昨日の夜に悪魔に会ったの。歌が好きだったと言ってくれたわ。」
母親は黙った。
母親は娘のこの発言を心配し、医者に相談した。
「いよいよ、なのかもしれません。」
と医者は言った。
母親はその言葉を聞いて娘にロザリオを手渡した。
その日の夜。
また悪魔は来た。
しかし少女に近寄ることができなかった。
「何だそれは。その十字架を捨てろ。」
少女は言った。
「嫌よ。何で…。これは私がお母さんからはじめて貰ったものなのに。悪魔め。帰って!」
悪魔は言った。
「今夜はお前の病気を治そうと来たと言うのに…。」
「それ…ほんと?」
もうまもなく死ぬ少女にとっては夢のような話だ。
「本当だ。だからそれを捨ててくれ。」
「分かった…。」
少女は窓からロザリオを落とした。
悪魔は近寄った。
「約束をしてくれ。私がお前の病を治す代わりにお前は歌を歌うんだ。いいな。」
「そんなことかまわないわ。私の歌でいいのならいくらでも。」
少女はそれから歌い続けた。
母親がどうしたの、と言うと。
「悪魔が直してくれたの!」
そう言ってまた少女は歌い続けた。
母親はまた医者に聞いた。
医者は言った。
「死ぬ前に一時的に人は良くなることが多い。覚悟をするのをお勧めします。」
月日は流れた。
医者は老いて死んでしまった。
少女の身体は変わらず少女のままだった。
両親は死んだ。
少女はずっと歌い続けそのことに気づきもせず未だ歌っている。
地球の生物は水が枯れ、居なくなってしまった。
しかし地球には今だ歌が響いている。
悪魔は病気を治したのではなく、不老不死にしたのだ。
もう彼女の頭には子守歌しか響かない。
異星人が来ようとも、生物がまた生まれても、彼女は歌を悪魔に歌い続ける。
「…子守歌を歌わなくちゃ。」