彼女は毎日嘘をつく
彼女は毎日嘘をつく。
どうしてだろう。
僕にはわからない。
ただ嘘が好きなだけなのか、それともただ僕にうそをつくのが楽しいからか、わからない。
何度も考えたがわからない。
気づけばあの日から嘘をついていたのかもしれない。
君に出会った日。
「ねぇ、暇?」
「え?」
「ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど。」
意味が分からない。
初めてあった人に普通、「ねぇ、暇?」とか言うか?
全く意味が分からない。
まずこの人は誰なんだよ!
彼女に連れられてやってきたのは、海だった。
「あの、なんで海なんですか?」
「私ね、この海で生まれたの!」
は?本当に意味が分からない。
人間は海で生まれる事なんてできないだろ。
こいつ何言ってんだ?
ほんとに変な人につかまちゃったな。
今思えばこれがすべての始まりだった。
この日から彼女は、僕に嘘をつき始めた。
「明日も、ここに来てくれない?」
「何でですか?」
「君と仲良くなりたいから」
「僕は君と仲良くなるつもりはないです。」
「それでもいいから、暇つぶしだと思って明日、来てよ。」
めんどくさい、と思いつつ僕はいく事にした。
「お!来てくれたんだね!」
「来ましたよ」
「じゃ、自己紹介ね!」
「私の名前は、七瀬乙羽!」
「君は?」
「僕は、川口一花です」
「へー女の子みたいな名前だね!」
「よく言われます。」
「じゃ、いっくんって呼ぶね!」
夏の始まりみたいな、明るい笑顔で彼女はそう言った。
馴れ馴れしい。
僕はこういう人間が嫌いだ。
それから僕らは、毎日のように会っていた。
なぜだろう、僕も少しづつ彼女に心を開いていった。
だが、一つだけ気になっていたことがある。
彼女は、会うたびに嘘をつくのだ。
まるで本当の事のように話すもんだから、すぐに騙されてしまう。
時々、誰でも嘘だとわかるような嘘もついていた。
僕は、彼女の悪ふざけだと思っていた。
ある日、彼女は約束の場所に来なかった。
こんなこと初めてだった。
必死に探した。
走った。
夏の暑さで思考回路が熱をもって破裂しそうだった。
太陽が沈み、空が赤く染まっていた。
もう帰ろう。
きっと彼女は、急遽予定ができたんだ。
そう言い聞かせた。
僕はその時気が付いた。
彼女と約束したことなんて一度もない。
彼女と会える保障なんてどこにもなかったことに。
いつだって、この関係を断つことだってできた。
だけど、ぼくは断とうとしなかった。
君の太陽みたいな笑顔に、どうしようもない嘘をつく君に、僕は……
胸が熱くなった。
熱い雫が、頬を伝った。
「明日また来よう」
僕はそう言って、家に帰った。
翌日
またいつもの場所に行った。
君がいた。
君は何も言わずに、海を見ていた。
「ねぇ」
君は何も答えなかった。
それでも僕はつづけた。
「何で、昨日来なかったの?」
彼女は、まだ海を見ている。
まるで人形のように、誰かに操られているかのように君はピクリとも動かなかった。
「何で君は、嘘をつくの?」
彼女がこっちを向いた。
「理由なんてない。」
「昨日来なかったのは、【交代】だったから。」
「交代?」
「そう。あなたと一番最初に出会ったのは、乙羽の方。」
「今の私は、乙奈。」
「嘘だよな。いつもの嘘だよな。」
「嘘じゃない。」
「私は前からあなたが好きだった。」
「それを乙羽が、横取りしたの」
「おんなじ体だからって調子のちゃってさ」
「ねぇ、あなたは私の事愛してくれるよね」
「もちろんだよ」
中身が君じゃなくたっていい、君に見えればそれでいい。
「いつまでも君といるよ。」
あれからどれくらいたっただろう。
僕はまだ深い闇の中。
君とずっと一緒。