慰める女
誰かれ構わず身体を預ける女がいた。
その女は、当然のことながら、幾度も堕胎の経験があった。そのたびに費用を父に無心するのであったが、父は女を叱るどころか、言葉ひとつかけずにその金を工面してやった。誰もがその親子のことを奇異の目で見て、避けていた。それも仕方のないことであろう。どんな道理にてらし合わせても、容認されることではない。しかし、それでも、女は知らない男とまぐわい、貧しい家からはいつも嬌声が聞こえてきた。
女は男達から金を受け取らなかった。顔立ちはよく、ほどよく肉付き、男が組み敷きたくなるのも頷けるものがあったから、女を抱いた男は皆いぶかしんだ。金が欲しいのではないのならば、何故、こんなことをしているのかと、ある男が褥でささやいたことがあったが、女はほほえんで、ただただ男をほしがった。
ただの好きものでないことは、女を抱いたことがある男なら誰もが気づいていた。女は快楽に身を任せているのではなかった。ゆえあって男を受け入れているのは瞭然であった。けれども、それを知っても男達は身勝手な欲望を女にぶつけ続けた。
そして、たいていの男はその女を二度とは抱きたいと思わなかった。
気味が悪かったのだ。恐ろしかったのだ。射精したときの、女の表情があまりにも純粋だったことが、忘れられないのだ。
ある日、女は梅毒に罹患した。父が寝ずに看病した。親戚からは当に縁切りされていたし、女を入院させる病院もその町にはなかった。医者もまた、女を露骨に避けていた。
事切れる間際のこと、父は女に母のことを、妻のことを語った。それは初めてのことであった。それを聞いた女は、満面の笑みを浮かべて、鬼籍に入った。
お前の母は、えらかった。
男を慰めて、救って、その孤独に手を差し伸べて死んだんだ。
すごいなあ、お母さん。
それが女の最後の言葉であった。
それからもう何年も経っていた。
女の父もとうに無く、女の墓を守るものなどいないはずであった。
しかし、周囲の墓がどんなに寂れても、女の墓に花が途切れることは無かった。