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抱壊の夜叉  作者: 香月夕月
第1章 憂鬱な始まり
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第1話 緊張の朝

 四月一日。俺は大学の入学式に参加するため電車で移動中。そのとなりで緊張しているやつが一人いた。

「ね、ねえ……」

こちらに話しかけてくる。

「なんだ?」

「ほんとに私がやるの?」

「今更だぞ?前から言っておいたじゃないか」

「そ、それはそうだけど……絶対私向きではない気がして……」

「そんなことはない。少なくても俺よりかは適任だ」

「そうとは思えないんだけど……」

そんなことはないと心でも思っている。実際それほどのやつであることは俺じゃなくても保証できる。

 こいつは霧嬢狭霧。俺の幼なじみだ。家は隣で、幼稚園の頃からずっと一緒だった。こいつとは切っても切れない縁があり、小中高と同じクラスで受けてた選択授業なども全部一緒だった。ほとんど一緒の時間でなかったことがない。そして、大学も同じ学科の同じ学部ということが必然的なようになった。

「おかしいな……本当は焔くんがやるべきことなのに……」

「俺はこういうのにはむいてない……ならその適任者を推薦することが俺のやることだ」

「単に面倒くさいからなんじゃないの?」「バカ言え、そんな理由なら最初からテストで良い点なんて出さないさ」

実際は全てウソだ。誰が好き好んで入学式の祝辞なんて務めなきゃならん、そう思ってる。

 おっと、自己紹介が遅れた。俺の名前は御影焔。本来なら祝辞を務めているはずの大学主席だ。ちなみに狭霧は二番目だ。それ以外は特にない……ということにしておこう。

「今からでも変わる気はないの?」

「寸分もないね」

「うう……」

泣きそうな顔になってた。

「悪いとは思ってる。だが、目立つわけにはいかないだろ……」

「そうだね。仕方ないけど頑張るよ!あ、文は一応これでいいか見てくれる?」

納得いったような顔になり頷いてくれた。

しばらく電車に揺られて大学の最寄り駅に着いた。ここから徒歩15分くらいのところにあるという。文のことは電車の中で済ませたので問題ない。というより、狭霧の文章は元からしっかりしていたので訂正の余地などなかった。

俺は駅までの道のりを本を読みながら過ごしていく。

「本当に本好きだね」

「この世から本がなくなったら俺は死んでるよ」

笑いながらそう返す。本は俺にとって生きがいのようなものだ。それが無くなれば死んだも同然だということだ。

「それに毎日違う本読んでるよね」

「大抵1日で読み終わるのさ」

「それもそうなんだけど…ほら、この間は料理に関係する本読んでたでしょ?」

「よく覚えてるな。あれは料理を通して新たな文化を知るというコンセプトを元にだな……」

 こいつは俺の読者話に唯一親身になって聞いてくれるいいやつだ。他の人はすぐ音を上げてしまうことが多い。そういう点でも狭霧は良き幼なじみと言える。

「今度、私にも読ませてくれる?」

「ああ、もちろんだ。いつでも家に来れば貸してやるさ」

「ありがとう!今日行くねー!」

まあ、狭霧が家に来るのはほとんど毎日といっても過言ではない。だが面倒だと思ったことは一度もない。家に来るのが自然だと思うほどだ。

 本を読み歩きながら狭霧と一緒に大学までの道を行った。

 校門まで辿り着くと本を閉じ歩いていく。

「あ、焔くん!狭霧ちゃん!」

声をかけてきた方を見ると見知ったやつだった。

「おう、おはよう」

「おはよう日和ちゃん」

声をかけてきたやつは、風越日和という女子だ。こいつとは高校の時に同じクラスになって以来の友達だ。

「随分と早いな。まだ式まで時間あるぞ?」

「いやー、今日家族みんな早出だったから。そういう2人はどうして?」

「狭霧が入学式の祝辞を務めるから。俺はその付き添いみたいなもんだ」

「へー!やっぱり狭霧ちゃんだったのか!焔くんとどっちかなって考えてたけど……」

「実際は焔くんの方が上なんだけどね……」

そう言って苦笑いする狭霧。

「え?そうなの?じゃあなんで……」

「いろいろと都合があるんだよ」

「うーん……どういった都合なのかは知らないけど大変なんだねー」と言ってこれ以上は詮索してこなかった。

「とりあえず、合流させてもらっても?」

「いや、そうは言ってもこれからバラバラになるんだが……」

狭霧はリハーサルへ、俺はその辺をブラブラするつもりだが…なんとなく今日は一人で本を読みながら過ごしていたいと思っていたのでそう言った。まあバラバラなのは嘘ではない。

「そうか……それじゃあ式の時は一緒しても?」

「それは構わないよ。狭霧も席の位置まで決まってはいないらしいし……後でまた時間になったら集合して行こう。」

「りょーかい!」

「うん、分かった」

また後ほど合流することにして一旦解散した。

俺は、適当に本を読み歩きながら落ち着ける場所を探してみた。いろいろと歩き回ってたところいい場所があまりないと思っていたが……『ん?』と思い歩みを止める。

 奥の方に行ける道が少し細いがあった。そちらの方に足を向かわせた。少し歩くと、湖がありベンチもあった。

『ここにするか』

ベンチに腰をかけて本を開く。小一時間ほどではあるが有意義に過ごせる時間というのはいいものだ。だが、そういうところで邪魔をするものが多々あるものだ。

「……」

やたらとこちらに視線を向けてくるやつがいる。気づかれないと思っているのだろうか。

「おい、そこで何してる」俺は顔を本に向けながらそう言った。

「気づいていらしたんですか?」

木々の裏から人が現れた。


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