魔族降臨
月明かりに照らされ金色の髪が神々しく光り輝いて見える。
静けさの中でルナさんの寝息が耳へと入る。
その音にまずは生きているという安心感と自分への不甲斐なさが心の中をグルグルと廻る。
あの時ルナさんに無理をさせなければこんなことにならなかったと自分への力不足に思わず拳を握る。
「ルナさん」
光り輝いて見える髪へ手を伸ばす。
髪へ触れようとする瞬間そこへダダダッという音とともに扉が開く。
「緊急事態だ!宴の席にきてくれ。やばいヤツが現れた」
声のヌシはロイさんだった。扉の前にメイドがいたはずだったが見当たらない。俺がいたので席を外したのか、ロイさんなのでそのまま通されたのだろうか?
「やばいヤツ?」
俺は聞き返すとロイさんはなんでも一体の魔族が突如来てドラゴンを退治したヤツを出せと言っているようだ。
魔族はどうやら魔物の上位版でより狡猾で高い知恵があり強さも計り知れないというらしい。
「ここは俺に任せてアイツをどうにかしてきてくれ」
そう言われ、ロイさんにルナさんの護衛を任せて魔族が現れたというパーティーの会場へと向かう。
会場までは先程までと打って変わって人混みがなく嫌な静けさがあった。
そして会場を見渡すとセツナ、ユウヤの前に一人の男がいた。その男は漂う雰囲気も勿論只者ではないが背中には黒い翼を持ち遠目で見ても正面から戦っていい相手には見えなかった。
正面から対応するか、一か八か急襲してチャンスを狙うか。そんなことを一瞬考えているとふとその男がこちらを振り向く。
「はじめまして。ふむ。見た目はただの人間。小手調べしておきますか」
聞こえるわけもない距離だがそう言ったように感じた刹那俺の目の前へ移動し顔を目掛けて拳を振ってきた。
それを寸前の所で回避し俺は斬輝の杖を構える。
「ほう。これを回避するとは。これはアイツを倒したっていうのもあながち間違ってはなさそうですね」
後ろからお兄ちゃんと声を掛けながら近寄ってくる気配があったが大声で静止させる。
(こいつのスピードは異常だ。あの二人だと躱しきれない)
「そう警戒しないでください。実はあなたにこちら側に来ないか誘いに来たんですよ。私たち魔族は強さこそ全て。私のペットであるドラゴンを倒せるほどの力の持ち主なら是非にとね」
そう言って先程の攻撃は失礼っと軽く頭を下げ返答はとこちらに意見を求めてくる。
「俺は大した力もないしそもそも人を襲うようなヤツ達とは組みたくないな」
力がないのは本当のことだし、あのドラゴンをけしかけて人を襲うようなヤツにつく気にもなれない。こいつがやばいやつでもそこは譲る気になれない。
「ふふっ。力などあの方のお力添えがあればいくらでももたらして頂けますよ。人をというのならあなたを魔族にすることも可能なのですから」
あの方?いやもしその話が本当ならより嫌だわ。なんで異世界まできて人間辞めなきゃいけないんだよ。
「お断りだね。俺は楽しく過ごしたいだけなんでね」
そうですか。と魔族の男は一考する。
その時鍛冶屋の中からロイさんとダンさんが談笑しながら出てきた。
(なんて嫌なタイミングーーー!?えっ!?)
「ロイさんなんでこんなところに!?」
俺は追いつかない頭で質問する。今さっきルナさんのところで会ったばかりのはずだ。しかし鍛冶屋から出てきたその姿はどうにも話し始めたばかりのような雰囲気ではなかった。
「なにってお前これからどんなビジョンあるんだと熱く語ってたんだよ。お前達こそなにやってるんー!?」
ロイさんの目に魔族の男が目に映る。
「おいおい。なんだあの化け物は」
???
どういうことだ。じゃあさっき呼びに来たロイさんは?
そう思った矢先魔族の男が動く。
「今夜はいい返事が貰えなかったのでひとまず帰ります。ふふっ。あなたの大切な人を助けたかったら今一度よく考えてご返答ください。お返事はそうですねぇ。一週間後にまたここで聞かせてもらいましょうか。ではまたお会いしましょう」
そういうとフッとその場から姿が消える。
俺以外の全員がその場で固まっているが、俺は動く足ですぐにルナさんのもとへと駆ける。