王候補だったけど婚約破棄されたので国を出ます
「ユライン・サラルナ、貴方との婚約を破棄します」
盛大にバカをやっているのは俺の元婚約者だ。なんてたってこいつが今婚約破棄って言ったんだから元とつけていいはずだよな。
元婚約者はハーレムメンバーの一人として一人の男の側にいた。そのバカどもの中心にいる男は見下すような顔で俺のことを見ている。
俺は歪み顔を隠すように俯きながら確認を取る。
「もう訂正はできませんがよろしいのですね」
「構いません。全くもって貴方には失望しました」
「ユライン、今こちらにいない我が父サラルナ公爵に代わって私が宣言します、貴方を我が家から追放し、今後一切我が家の名を語ることを禁じます」
姫に続いて俺の追放を言ったのは俺の姉であるバカだ。バカだバカだとは思ってはいたけどまさかここでやらかしてくれるとは。
俺は歪みそうな顔を何とか押さえ込もうとしたが、抑えることができず満面の笑みになる。
「わかりました。では私もここで誓いを述べましょう。
誓約と盟約の神よ、今ここで私ユライン・サラルナは第一王女であるリリーナ・カルタールとの婚約破棄、加えて私は今後一切ユライン・サラルナと名乗ることを止めサラルナ家とも関わらないことを誓います。
続いて国の政策と学園の行事、その他諸々の私が中心として計画し、進めて行く予定だったことを白紙に戻すことを誓います。
最後に今日を除き今後一度たりともこの地、カルタール王国に足をつけることはないことをここに誓います」
周りが唖然とする中、俺は空間魔法で紙の束を取り出し積み重ねた。
「ユライン、それは何ですか?」
バカ元姉が話しかけてくるが俺は何の反応もせずに同じように空間魔法で取り出した油を紙に掛け続けた。
「答えなさい!ユライン!」
バカがヒステリックに叫ぶが気にせずに紙を取り出し積み重ねては油を掛ける。
「第一王女が命じます、ユライン・サラルナ何をしているのか説明しなさい」
それでも俺は反応せずに人にバレないように体内で魔力を練る。
「生徒会長、その紙の束は何ですか?」
話しかけてきたのは周囲と同じように唖然としていた生徒の一人だ。ようやく立ち直ったらしい。
「これですか?これはですね私が今まで考えてきた学園の今後の行事や、クラブに分けるお金、その他諸々の計画書です。まあそれ以外にも私が考えていた国の政策やら今後の予算案などが記された紙もありますけど」
また周りが唖然とする中、俺は笑顔で紙の束に向かって火を放った。もちろん危なくないように紙の周りには結界が張ってある。被害を出さないためであって決して消されないようにするためではない。水などが掛かっても火が消えないようしてあるのはわざとではない。
火を見て阿鼻叫喚と化し、必死になって火を消そうとしている人達を放置して俺は笑顔でバカや元婚約者の方を向いた。
「婚約破棄ありがとうございます。おかげさまで面倒臭かった仕事や自分は努力しないくせに、人が努力して自分より上に行くと癇癪を起こす子供みたいな人たちと関わりを断つことができました。それではもう2度と会うことはないとは思いますが最後にこの言葉を送って別れとしたいと思います。
努力しないくせに俺が努力してるとバカにしてくるお前が本当に大嫌いだったんだよね!婚約破棄してくれありがとう!それとバカ元姉、今後大変だと思うけど自業自得だから苦労しろ!長女のくせに何もしなかったお前のせいだから!うんじゃあ苦しんで死ね!」
俺はそれを言い切ると窓を壊し、空に飛び出た。
「うおっしゃあーー!これで俺はもう自由だーー!もう寝不足にもなんねえし自堕落な生活を送ってやるぞーー」
空に飛び出た俺の下に巨大な魔法陣が現れ、そこからから巨大な影が出てきた。
「うんじゃあ隣国までよろしくなイシス!」
俺は魔法陣から現れた黒い鱗に覆われた十メートル以上あるドラゴンの頭の上で寝転がりその頭撫でた。
「約束通り隣国に行ったら冒険者になってまだ見たことない景色を見にいこうな。その前にランクを上げるのが先か。あー楽しみだな」
俺とイシスは見納めとしてもう二度と見ることのないカルタール王国の王都を空から見下ろした。
その後ユラインがいなくなってから学園はたった一か月で回らなくなり、翌年、伝統ある学園は閉鎖した。ハーレムメンバーたちは国の最も必要な者を追い出した罪によりその実家は爵位剥奪され、本人たちは行方不明となった。第一王女と公爵家長女は国の最も辛いと言われる修道院に送られた。
国を出た少年は隣国で冒険者となり、遺跡や危険地帯などから価値ある物を多く手に入れ、隣国で爵位を得た。貴族になってからはともに冒険者として活動していた黒髪の女性と結婚し多くの子供を育て、彼が作った都市は第二の王都と呼ばれるほど目覚ましい発展をした。その結果その国は大陸一の大国となった。