可愛い彼女は嫌みなロボット?
「いやいや、これが私の相棒になるのですか?」
後方の扉が開いて一人の美少女が声を発した。
「そうだ。紹介しよう俺の息子勇斗だ」
「はぁ~~。ほんと事前情報と完全に一致し過ぎて、何の驚きもないんだけどこれは訴訟問題じゃないかしら?」
こっちを指差して喋ってると言うことは、恐らく俺の事を蔑んでいるのだろう。ここまでくると呆れて何も言えなくなる。
しかし、確かに見た目はドンピシャで俺の好みなのは間違いなかった。身長150㎝程で黒髪のツインテールに、服の上から見ても分かるぐらいな凹凸の少ないボディ。透き通った白い肌は、着用している白いワンピースと同化してると言っても過言ではない。
だが、表情は怖い。まさしくゴミを見てるかのようなジト目で、こちらを頻りに睨んでいる。
「仕方ないですね。これも小説家デビューの為に必要な事だと思って引き受けてあげるわ」
「父親、俺に拒否権はないのか?」
「すまん勇斗……。ちょっと他のロボットより手を加えたので、細かい命令は守ってくれない様になったんだ」
悪びれる事もなく実の父親に淡々と説明されてしまった。まぁ、一生働かなくて済むのなら、俺が大人な態度をとればいいだけだからな。
「分かったよ。今回は引き受ける」
「はぁ?断る選択肢なんて最初からないわよ。断る権利があるとしたら私だけよ」
そう言って彼女はあっかんべーをした。その表情を見ると、人工知能が搭載されたロボットだった事を忘れそうになる。
「それでは、勇斗とアヤカはしばらくの間同じ家で生活してくれ」
彼女の名前を今知った。どうやらアヤカと名付けられているらしい。
「じゃあね。私は作ってくれたみんなの事を一応感謝してるわ。必ず小説家デビューしてみせるね」
そう言った後に彼女は笑顔を見せた。その瞬間にそうかこれが天使の微笑みなんだと思ってしまう。
「おい、勇斗早くいくぞ」
いきなり呼び捨てかよ……。そう思いながら研究室を後にするアヤカに着いて行った。
「ほら、さっさと車呼んで」
研究所から出ると、先程笑顔は一瞬間にして見納めになり、二人きりになると殺気すら感じてしまうぐらい怖くなった。
「はいはい、分かった分かった」
一応は強がってみたものの恐らく無駄になるだろう。父親の作ったロボットなのだから、俺の心拍数や体温の変化を察知して感情を何となく察しているはずだ。
「あ~~。早く作家としてデビューして勇斗と別れないと、私までニートになりそうだわ」
そうか、全く俺の事は気にしてないらしい。人間の命令を守るのが目的なロボットではないから、確かに俺が何を考えていようが関係ないと言えるな。
「是非ともそうしてくれ。俺もお前がいち早くデビューしてくれた方が助かる」
「何でよ?普通はこんな美少女と1つ屋根の下で暮らせるなら、例え魔王に妨害されようが何とかするのが思春期男子じゃないの?」
「デビューしてくれさえすれば、俺は晴れて働かなくてよくなるからな。それとロボットに恋するなんて、妹の事が好きになるより異常な事だ」
「自分がニートになりたいから、美少女のヒモになるとか最悪ね。こんなヤツといても意味ないじゃない」
「なら俺は何をすればいい?」
俺はそもそも何を手伝えばいいかも聞いていない。書いた小説を読み感想を言えばいいのか、それともテーマやアイディアを捻出する手助けをすればいいのかなど一切分かっていない状態だ。
「私も知らないわ。ほんと意味分かんない」
「じゃあ、それはとりあえず置いておこう」
「えぇ……ニートが主導権握るの?」
先程止めてた車の目の前に着いたので、車に先に乗り込んだ。さっきの質問は聞いてないふりをすることに決めた。
「早く乗ってくれ」
そう俺が言った後に衝撃的な行動をした。
車は二人乗り用で座席は二つあるのだが、車内は非常に狭い為乗り込む際は、左右に付いてる扉から別々に入らないと駄目なのに、俺が開けて座った方の左座席の扉に手をかけた。
「おい、逆から入ってくれ。こっちからは乗れない、それぐらい分かるだろ?」
「そういう気分じゃないわ。勇斗を跨いで向こうに行きたいの」
そう言って扉を開けると無理矢理入り込み、俺の膝の上でゴソゴソと動いている。
そのままでは下着が見えるかもしれない。
「ちょっと何をしてるんだ?そのままだと見えそう」
「何を見るつもりなのよ。もしかして、下着を見るつもりじゃないでしょうね?それだと課金されるわよ」
「何が課金だ……意味が分からない」
「確かにこういうのは、最初にきっちり説明しておくべきね。私の下着を一回見る毎に30円の料金が携帯電話の通信費に上乗せされるの」
「おい、ほんとなのかそれ?」
「ほんとにほんと。ロボットだからって何でもしていいわけじゃないから」
「30円なら安いものだな」
「うわぁ、最低な発言……。さっきはロボットに恋するなど異常っていいながら、しっかり欲情してるとかもうドン引き」
そう言って俺の膝の上からすぐに離れて、右側の席に座った。
「いいや見たくて言ったわけじゃなくて、料金設定が安過ぎたから驚いただけだ。30円ってゲームのガチャを一回するぐらいの値段だったから……」
内心みたい気持ちはあったのが、誤魔化してみようと試みる。
「見たくないのか~~?ざんねん」
そう言って彼女は窓の外を眺めている。その姿はまるで儚げな表情する人間にみえた。
俺は家に着くまで軽く睡眠を取ろうと思い、目を閉じてはみるが全く眠れなかった。
これからの生活がどうなるかと予想しただけで、色々と嫌な予感しかしないからだ。
そうだ家につく前にこれだけは聞いておこう。
「そういえば、お前は小説書いた事あるのか?」
…………。しばらく彼女は沈黙した。
「ふふふふ、勿論一度たりとも書いたことないわ」
はぁ、彼女が小説家としてデビューするのは果てしなく長くなりそうだ。