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prologue 1 暗殺業

注意!

更新は鈍亀です!

 世界そのものが寝静まってしまったかのような静かな夜。また、三つの月全てが沈んでしまった闇より尚暗い夜。

 夜目さえ利かぬ漆黒の夜に、まるで昼間のように的確に城の廊下を歩く男が一人。

 その風体は異様。漆黒の体にぴったりと張り付くような服で身を包み、顔も黒い布で隠してある。また、露出している髪も漆黒の黒ずくめだった。さらに、肩にはこれまた漆黒の猫が行儀良く座っていた。

 彼は手に持った紙切れに何度か視線を落としながら、とある部屋の前で唐突に立ち止まった。どうやら、ここが目的地らしい。

「さて、本当に此処で良いのかな?」

男は脳天気な調子でそう問い掛けた。が、辺りには彼一人。答える者は−−

「安心せい。此処で間違いない。………しかし、ぬしも心配症だの」

−−いた。女の声、それもその声の主は男の肩に乗っている猫だった。男は照れくさそうに頭をかく。

「ごめん。どうも性分でね」

「まったく………仕方ないの。それより、早く取り掛からぬか」

「うん、分かってる」

男は頷いて、目を閉じて何事かを唱え出す。独り言のようで歌のような独特の言葉と旋律。それは現代ではほぼ失われたと言われている魔法の呪文に似ていた。

『静寂よこの部屋を囲め』

男は目を開いてそう締めくくった。

「さて、仕上げにかかろうかな」

男はそう言って扉を少し開いて、するりと滑るようにして部屋へと入った。

 部屋の中は、部屋の主の地位と名声にしては質素なものだった。無骨な仕事机とベッド、そして本棚ぐらいしか無かった。

 男はそれらには一切目を向けず、人が寝ているベッドに一直線に近付いていった。

「子爵さん、子爵さ〜ん。緊急事態ですよー」

男の、セリフに似合わない脳天気な口調。ベッドに寝ている壮年の男、子爵は目を覚ます様子が無い。

「仕方な−−っ!」

男は何かを察知して左に身を投げる。

 甲高い銃声。

 間一髪で避けたそれは壁に穴を穿った。

 黒猫は男の肩から優雅に飛び降り、小さく欠伸をしていた。

 寝ていると思われた子爵がのそりと体を起こす。その右手には紫煙を上げる短銃が握られていた。

「む、避けおったか」

「ちょっ………、危ないじゃないですか! 僕でなければ死んでますよ!」

男はガバッと体を起こし怒鳴りつける。が、その口調からはあまり怒りは伝わって来ない。

「殺すつもりで撃ったのだが。体格の割に、なかなか腕が立つようだな」

子爵は何食わぬ顔でベッドから降り立ち、傍らの豪奢な装飾が施された長剣を手に取った。

「さて、どうするのだ? 暗殺屋としては失敗の運びだが」

「まぁ、一般的な暗殺屋にとってはそうでしょうね」

男は懐をごそごそと探る。子爵は素早く斬りかかった。

「うわっ!?」

男は懐をごそごそとやりながら紙一重で避け、それを取り出した。それは何らかの文章が書かれた羊皮紙だった。

 子爵は不思議そうに眉根を寄せる。

「それが貴様の武器、か?」

「そんなわけないじゃないですか。これは貴方を殺す依頼の依頼書です。僕は、対象に依頼者と依頼理由を伝えてから仕事をする、というポリシーを持ってまして」

「ほぅ。それは仕事をしくじらないという自信の表れかな? それでは、教えてくれるというなら教えてもらおうか」

子爵は話に食いついてくる。まぁ、依頼者と依頼理由に興味が湧くというのは至極当然のことであり、実際に男の仕事相手は全員興味を示していた。

 男は羊皮紙の上下を持って紙を広げ、その内容を掻い摘んでと読み上げた。

「え〜、依頼者は子爵の直接の上司であられるドレイク伯爵ですね。依頼理由は………、貴方が持っている宝剣がほしいからと書いてありますが、実際は邪魔になったんでしょうね。英雄たる資質と実績に恵まれた貴方が」

ご愁傷様です。と締めて男は羊皮紙を丁寧に畳んで懐に仕舞い直した。

 子爵に驚いた様子は無く、むしろ得心といった顔で頷く。

「ふむ、あの愚物ならやりかねん。というより時間の問題であったろうな」

「察しが良いようで助かります」

男が慇懃に礼をする。子爵は軽い会釈を返し、剣を構え直す。

「貴重な情報をありがとう。それで、貴様はどうするのだ?」

漆黒の男はニヤリと顔を歪めて、懐に手を入れる。

「貴方を殺して依頼を遂行するに決まっているじゃないですか」

「ふん。それは無理だ、な!」

子爵は男の言葉を鼻で笑い飛ばし、大上段から剣を振り下ろす。男は懐に手を突っ込んだまま、避ける素振りも見せず子爵の目を凝視し、突っ立っている。

 剣が男の頭を割らんとしたその瞬間、男の漆黒の瞳が眩しい程に金色に輝く。

「ぬうっ!」

子爵は一瞬目を細め、その次の瞬間には目を見開いていた。

「なん、だ? これは………」

子爵は目の前の光景を理解出来ない。

 子爵の振るった剣は男の頭を割る寸前で、ピタリと静止していた。その上、

「ぐ、う………動かん………!?」

子爵の体は彼の意識を離れ、既に石と化していた。金色の瞳を爛々と輝かせている男は悠々と子爵の前に立つ。

「これで依頼達成、ですかね」

「き、さま、何をした!?」

「それは企業秘密です」

男は懐に突っ込んでいた手を出す。その手には細く長いナイフが握られている。

「それでは………」

「まっ、待て! わたしにはまだやるべきことが! 誰か、誰か出合え!!」

子爵は半狂乱になって叫び出した。男はうっとおしそうに片耳を塞いだ。

「無駄ですよ。外に音は漏れない……って聞いていませんね」

男は小さくため息をつき、

「それではさようならです、子爵さん」

子爵の胸にナイフを突き刺し、抜いた。噴水のようにピューピューと鮮やかな赤い液体が噴き出す。子爵はうめき声も上げられずに地面に倒れ、もう動くことは無かった。

 男はナイフについた血と脂をベッドのシーツで拭き取り、息をついた。

「さぁ、依頼完了」

子爵の手に握られた宝剣を無理矢理外し、これまた乱暴に外した鞘にそれを納めた。

「帰るよ、ミルさん」

男が闇に声を投げると、どこからともなく現れた黒猫が彼の肩に飛び乗った。

「待ちくたびれたぞ。わらわは眠いのだ」

「はいはい。今から帰るから文句を言わない」

男は部屋の窓を開き、そこから身を空中へと躍らせる。その姿は漆黒の闇へと溶けていったのだった。

………初心者ファンタジー作家が陥りがちな無駄にたくさん設定してしまう病気にかかってしまいました………

ここ、あとがきではそんな大量の設定を小出ししていきます。



『舞台について』

文書による歴史が始まった当時、3067年前には既に大陸を二分する東西の連邦国家が戦争行動を継続していた。それからの3067年の記録に戦争が無かった年は無く、戦争に関わる人間は世界の全人口の半分を上回る。東西の国力は同等で、一進一退の攻防が続いている。

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