執事とディナーとその後の晩餐
「お嬢様。ディナーにございます」
執事は料理を食卓の上に並べる。
メニューは私の希望通り、鮭のムニエルを中心としたものだった。
私が鮭のムニエルを注文したのは簡単なことで、昼間に感じたこいつならどう作るのだろう、ということだ。
昼夜と、同じものを食べるのはいかがなものかとは思うけど、気になるんだからしょうがないじゃない……
「へえ、やっぱりあなたって結構きちんとしてるのね」
盛りつけは学食以上に見た目がよく、焼き加減も物凄く良い。
「はあ……なんのことかはよく存じませんが、ありがとうございます」
執事は私が急に褒めるものだから、少し困惑しているようだった。
「じゃあ、頂こうかしら。説明は?」
「はい。今回はソースにこだわらせてもらいました。お嬢様の右手からタルタルソース、クリームソース、キノコソース、レモンソースとなっております」
学食と違うところはムニエルが綺麗に四等分されているところだった。
その上には各種のソース。おそらくは味に飽きさせないためだろう。
味は学食と比べ物にならないほど美味しかった。瑠奈のいうとおりに、少しくらいは感謝しないといけないのかもしれないわね……
「お嬢様? いかがされました?」
そんな目で執事を見ていると、執事は疑問気に私を見てくる。
「いいえ、なんでもないわ」
それからゆっくりと食事を楽しみ、私は自分の部屋に戻った。
「ふふん」
私は足取り軽く、執事の部屋に向かう。
手には赤ワインとグラス二つ。そして、昼間にスーパーで見つけた上品なチョコレート。
たまにはこういう事をしてもいいかもしれない、という私の趣向である。
「あいつ、どんな顔するだろ」
あいつの驚く顔を想像すると思わず顔がにやけてしまう。
コンコン--
執事の部屋の扉をノックする。
が、返事は全く帰ってこない。
「寝ちゃったのかしら……?」
いや、あの執事に限ってそんなことはないだろう。
「じゃあ、ネットでの討論に没頭して……?」
いえ、それも考えられない。あいつはいくら没頭していても返事はする人間だ。
「……失礼するわよ」
私は引き戸を引いた。
部屋の中は電気もついていなくて、真っ暗。
「どこかへ出かけたのかしら…………っ!?」
少しだけ部屋の中に入ると何か重くて柔らかいものに躓いた。
「ちょっと!? 絢介!? どうしたの!?」
部屋の中で力なく倒れていたのは執事だった。