毒舌執事と買い出し
「おはようございます、お嬢様」
放課後、ダメ執事が教室に戻ってきた。
「もうおはようっていう時間じゃないわよ」
ていうか、寝すぎじゃない……?
「お嬢様。これから、夕食の買い出しに行こうと思っているのですが、どう致しますか?」
「そうね。帰ってもどうせ暇だし、ついていこうかしら」
私達は帰りにスーパーによることにした。
「さて、お嬢様。夕食のメニューの希望などは?」
「特に……いえ、そうね。じゃあ、鮭のムニエルでもお願いしましょうかしら」
「ムニエル、といいますと小麦粉焼きですね。かしこまりました。しかし、何故鮭のムニエルなのでしょうか?」
「なんとなくよ」
私はそう誤魔化した。
「では、とりあえず鮭を買いに行きましょう」
私達は魚介類のコーナーに行く。
「へえ。鮭にもいっぱい種類があるのね」
「ええ。基本的に紅鮭、白鮭、銀鮭、サーモンにわかれます。紅鮭は味が強く、いろんな料理に使うことができます。日本では鮭というと白鮭のことをさします。これはおもに焼き物でしょうか。銀鮭はおもに養殖と思ってもらって構いません。そして、サーモンは脂ののりがよく、刺身に適しております」
執事は次々と鮭について話す。
「へえ、鮭ってそんなに種類があったのね。全部同じかと思っていたわ。それで? 今回はどの鮭を買うの?」
「はい。今回はムニエルですのでサーモンを使います」
「じゃあ、これね」
私は陳列された鮭の中からサーモンと書かれているモノを選んだ。
「いえ、それではこざいません」
突き返された……
「なんでよ!? いまサーモンって言ったじゃない!?」
「確かにいいました。が、お嬢様は超単純なお人なのですね」
執事はやれやれ、と溜息をつく。
「どういうことよ!?」
「いいですか? 一般的にサーモンとして売られているものはトラウトサーモンといい、鮭ではなく鱒です。お嬢様は鮭のムニエルが食べたいと仰ったのに、自分から鱒を買ってしまわれては本末転倒にございます。それこそ、お嬢様の目は節穴にございますか?」
こいつ……とうとう言っちゃったわね……
「う、うるさいわね! じゃあ、どれを買えばいいのよ!」
「正解はキングサーモンです。これならば、間違いなく鮭です」
「……なんだか紛らわしいのね」
こいつは一からこういう知識を積んだのか……
少しぐらいは感謝しないとね。
「ええ。私はほかに材料を揃えてきますゆえ、お嬢様は店内でもご覧にたなられていてください」
料理のことはよく分からないから、コイツに任せた方が良さそうね。
「わかったわ」
私は店内を見て回り、頃合をみて、店の外に出た。
「そこのカーノジョ。暇なら俺たちとお茶しない?」
執事を待っていると、二人組の男が近づいてきた。
ああ、ナンパってやつね。
「悪いんだけど、連れを待っているの。邪魔しないでくれるかしら?」
「連れなんかほっとけばいいって。俺達といた方が絶対に楽しいって」
意外としつこいのね……
少し困ってしまう。
「失礼いたします。少々よろしいでしょうか?」
ナンパ男の後ろから声がかかる。声の持ち主は言わずもがな執事だった。
「あ? なんだテメェは?」
「しがない通行人にございますが、ひとつ注意を、と」
「注意だと?」
「はい。そこにおられるお嬢様ですが、少しだけ気をつけた方がよろしいかと」
「どういうことだ?」
「はい。そちらのお方、人遣いがとても荒く、横暴で、我が儘娘でございます。男は財布というのが彼女の口癖で、お金がなくなるとすぐにポイ。ナンパされた方は一人残らず後悔するハメになるのです」
「後悔ってナンパしたことをか……?」
「いえ、生まれてきたことを、です」
だんだんと、ナンパ男たちの顔は青くなっていき、終いには「急用を思い出した!」と言って去っていった。
なんか、酷い言われようだったけど、一応は助けてくれたのよね。
「……ありがとう」
なんか相当恥ずかしい……
「はあ……お嬢様は何か勘違いされていませんか? 私は先ほどの二人組を助けただけです。お嬢様を助けたわけではございません」
「……そう、なのね……あんたなんか--モゴモゴ」
「お嬢様。それをやってしまわれますといろいろと敵を作ってしまわれます」
執事は私の口を手で塞ぐ。
不本意だけど危なかったわね……少し気を付けないと……