波乱の予感
「先輩方……何をしてらっしゃるんですか?」
目の前には信じ難い光景が繰り広げられていた。
「やっほー、ゆかりん。只今絶賛休憩中だよー」
「あかり先輩……これは休憩と呼べるのでしょうか……?」
講堂には普段あるはずもない大きな円卓が置かれていて、それを囲うように絢介を含めて前生徒会の女性陣が座っている。どこから持ってきたのだろう……
そして、その上には大量の料理。これは、休憩というよりもお食事会にしか見えない。
「これって、うちの喫茶店で出す料理じゃない?」
「ええ。さすがに、ぶっつけ本番という訳にはいきませんので、前生徒会の方に試食をしてもらっているのです」
やっぱりこれを作ったのは絢介なのね……
「さすがは絢介君だ。安心院家の執事というだけある」
「褒めても何も出てきませんよ、愛和様」
「そうか、それは残念だな」
愛和先輩は苦笑する。
「おっ!? そこの小さいのがゆかりんの従姉妹かな?」
あかり先輩は美玲ちゃんに気付いたらしい。先輩たちには、お手伝いが来るとは言ってあったけれど、対面は初かもしれない。
「ええ。ほら、美玲ちゃん」
私は軽く美玲ちゃんの背中を押す。
「あ、あの……神崎美玲です。宜しくお願いします」
美玲ちゃんは大きくお辞儀をする。少し緊張しているようね。
「うわぁ、ゆかりんの親戚なだけあってやっぱり可愛いなぁ」
「はぅうっ!?」
あかり先輩は美玲ちゃんに抱き着く。
「ねえ、ゆかりん。お持ち帰りは?」
目が輝いていますね……
「ありません」
「えー」
本当に残念そうな顔をする。冗談でも許可したら喜んで連れて帰りそうね。
「あかり、それくらいにしておきなさいよ。美玲ちゃん、困ってるでしょう? 由香達も一緒にどう?」
「そうですね。お言葉に甘えさせてもらいます」
愛和先輩の誘いを受け、私と美玲ちゃんは空いている椅子に座る。
あかり先輩は美味しそうに料理を食べる美玲ちゃんを保護者のように温かい目で見守っている。
「なんでもできる執事って羨ましいわね、由香」
「ええ。これでちゃんと働いてくれたらなんの問題もないのですけど……愛和先輩、どうやってあいつに料理を作らせたのですか?」
絢介が自ら進んで仕事をしたとは思わない。あかり先輩はそこまで機転の利く先輩ではない。絢介を使えるとしたら、愛和先輩くらいしか思いつかない。
「簡単よ。延々と続く飾り付けと、早く終わる料理、どちらがいい? と聞いだだけよ」
なるほど。愛和先輩は絢介のことをよく分かっているのね。
「なるほど。先程から気になっていたんですが、伊集院先輩と樋口先輩が見当たりませんが?」
ここに来てから、あの二人を目にしていない。ここの飾り付けを任せた筈なのだけど。
「あの二人ならここの放送器具の調整をしてるわよ」
愛和先輩は講堂の放送室の方向に目を動かす。
「調整ですか?」
「ええ。少し具合が悪かったから頼んだの。それが終われば講堂の飾り付けは完了よ」
さすが、前生徒会。手伝ってもらえて本当に助かったわ。今の生徒会だけではここまで早く終わらなかっただろう。
「調整終わったぞー。お、由香ちゃん。講堂の飾り付けは終わりだ。そっちはどうだい?」
講堂の放送室から戻ってきた智也先輩は私達に気付いたらしい。
「こちらはあと舞奈の担当だけです」
「あいつの担当ってエントランスだったよな? 終わっている気がしないんだが……」
伊集院先輩はこめかみあたりを抑えている。それは私も同意ね。
とりあえず、私達はこの場を片付けて、エントランスに向かった。




