表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/42

閑話休題1:誠と猫と不思議な2日 4

 とりあえず、俺は屋根の上に登ることにした。というのも、猫っていったら屋根のイメージという単純な発想からだ。もし居なくとも、屋根の上から探せるし一石二鳥だろう。


 俺はどうにかして屋根の上に登る。


 やっぱり身軽っていいな……


 俺は一番高いところを目指した。


「ほんとにいた……」


 まさか、こんな簡単にも見つかるとは思わなかった。そいつは屋根の上に座っていた。


「やあ、誠。どうだい、猫の生活は?」


 そいつは俺の名前を呼んだ。


「なんで俺の名前を知ってるんだ?」


「それは簡単だよ。昨日呼ばれてたのを聞いたから。まあ、他にもあるんだけどナイショだよ」


 黒猫はフフ、と笑う。


「とりあえず、座りなよ」


 俺は警戒しながらも、そいつの隣に座る。


「お前は何者なんだ?」


 俺は隣に座るやつに問う。


「随分と単刀直入だね。君はどういう回答をご所望なのかな? 僕は魔法使いだ。とでも言ってほしいのかい?」


「それは……」


 そいつは俺の困った顔を見て笑った。


「あはは、悪い悪い。冗談だよ。僕は叢雲むらくも。道化さ」


「道化……?」


「そう。君は叢雲って単語を知っているかい?」


「叢雲って、月に叢雲花に風、の叢雲か?」


 えっと、確か意味は、良いことにはとかく邪魔が入りやすく、思うようにはいかないということだったはずだ。


「そう、その叢雲だよ。その場合の叢雲は邪魔者という意味だけど、どうかな? 君は月に雲がかかっているのや、桜が風に散るのを風情があるとは思わないかい?」


「ううん……俺にはまだ良く分からないな……」


「素直でよろしい。まあ、そう考える人もいるんだよ。邪魔者がいるからこそ美しいものがより一層映える、とね」


「つまり、叢雲きみは邪魔者ってことか?」


「簡単に言えばそうだね」


 叢雲と名乗ったそいつは苦笑する。


「僕は華を添えるだけの存在。だから、道化なんだよ。まあ、何に華を添えるのかは内緒だけどね」


 叢雲はニヤリ、と笑う。


「わかりそうでわからないな……」


 頭の中がぐちゃぐちゃだ。この猫、実は凄く頭がいいんじゃないか……?


「分かれ、と無理強いはしないよ。ところで、君はなにかの用があって僕を探してたんじゃないのかい?」


 そういえばそうだった!


「どうやったら人間に戻れるんだ?」


「もう、猫には飽きたのかい?」


「飽きた、というより疲れたぜ……」


 とくに、追っかけられたのはね……


「そうか。それなら、人間に戻してあげよう、ともならないんだよ」


「なにっ!? じゃあ、俺は元に戻れないのか!?」


 これじゃ、お先真っ暗だ……


 どうする……?


「そうじゃない。時間が来るまで君は猫のままだという意味だよ。今の僕にはどうすることもできないんだよ」


「と、いうことは……」


「時間が来たら元に戻れる。そうだね、多分19時くらいには戻れるんじゃないかな」


「まじか!?」


 俺はホッ、と安堵する。


「まあ、それまでは猫を楽しむことだね。それじゃあ、僕は行くよ」


「あっ! ちょっと待った! まだ聞きたいことが――」


 俺が引き止める前にそいつは屋根から飛び降りた。


 追いかけようとも思ったけど、高さが高さだ。下手すると助からない。俺は命惜しさに、追いかけることを断念した。


 時間が経てば元に戻る、か。下手に動くよりも、屋敷の敷地内でじっとしておいた方がいいかもしれないな。


 屋敷の中には恐ろしい生物がいるし……


 たしかこの屋敷ってはなれがあった気がする。そっちに行ってみるか。





「にゃ」


 ここなら誰もいないな。


 和風に作られた離は、ゆっくり過ごすには心地がよい場所だった。畳はまだ新しいのか、い草のいい匂いがする。


「にゃ……?」


 部屋の隅に光るものを見つけた。


 ネックレス? これってたしか、いつも美玲が付けているやつじゃないか? どうしてこんなところに?


 そういえばさっき、あいつ何か探していたな。探し物はこれか。


 今すぐにでも届けてあげたいけど、そう上手くいかないのが現実で、届けようとすれば確実に引きずってしまう。美玲が大切にしているものだから、そういうことはしたくない。


 となると、俺が元の姿に戻るまでは待機か……


「おや、貴方は先程の」


 離に入ってきたのは絢介兄様だった。


「にゃっ!」


 勝手にお邪魔してるよ。ていうか、早く出ていってくれ。いつ戻るかもわからないし……


「屋敷はいかがでしたか? お気に召されたでしょうか?」


 やはり、思い出すのは美玲に風呂に入れられたことよりも、姉様に追われたこと。あれは、未来永劫忘れることはないだろう……


 俺はブルり、と震え、首を横に振った。


「それは残念です。ですが、この離はお気に召されたようですね」


「にゃあ」


「それは良かった。して、あなたによく似た誠様をご存知ではないでしょうか? 朝から姿を見ていないのですが」


 俺は首を横に振る。


「そうですか。仕方ありませんね。ほかを当たるとしましょう。――おや?」


 兄様はネックレスの存在に気付いたようだった。


「にゃあ!!」


「どうされたのです? 猫殿。もしや、貴方が届けるといいたいのでしょうか?」


 俺はブンブンと縦に首を振る。


「そうですか。分かりました。それは任せると致しましょう。こちらも誠様を探すことが優先のことゆえ。それでは」


 そう言って、兄様は離からでていった。


「あら? 貴方は……」


 兄様と入れ違いに離に入ってきたのは由香姉様だった。


 やばい……死んだな……これ……


「ねえ、貴方。誠くんを見なかった?」


 あれ……? 意外と普通だ。いやまあ、猫に話しかけること自体は置いておいて……

 

 俺は兄様の時と同じように首を振る。


「そう。それなら仕方ないわね。それじゃあ、私はこれで。今度来るときはもてなしを用意するからね。くれぐれも私の部屋に入らないように。またいらっしゃい」


 姉様はそう言って離から出ていく。


 なんていうか、やっぱり姉様だなぁ……


 それよりも、早く戻らないとみんなが心配してる。時間は――


「あ、戻った」


 ちょうど良かったです。


「あれ? 誠? こんなところにいたの?」


 離に入ってきたのは美玲だった。ぎりぎり戻れてセーフだ。


「これ、お前のじゃないか?」


「それ、どこにあったの?」


「ここに落ちてたんだよ。ほら、大切な物ならもう落とすなよ」


 俺はネックレスを美玲に渡す。


「……ありがとう、誠!」


「うわっ――」


 美玲は俺に抱きついてきた。


 顔が近い!!


 やばい、絶対俺、顔真っ赤だ……


「それより、そのネックレスってどうしたんだ?」


「これ? これはお婆様から貰った大切な形見なの……」


「そうだったのか……」


 俺は涙目の美玲をギュッと抱きしめる。


 ――って、あれ?


「婆様はまだ生きてるからなっ!?」


 かくして、俺の不思議な猫体験は幕を閉じたのだった。

(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ