私と執事と幼馴染み
「なんだか、こういう仕事って私ばかりがしている気がするわ……」
「それだけ信用されてるってことだよ」
私と瑠奈は大量にあるプリントを教室に運んでいる最中だ。
「安心院。あ、由香の方な。プリントが職員室から運んでおいてくれ」
朝のホームルームが終わってから担任に指名され、そう言われた。
量が多いということで、誰かに付き添ってもらえと言われると、瑠奈が快く承諾してくれた。ちなみに、絢介は颯爽とどこかに逃げていった。
「生徒会長って私より瑠奈の方が性に合ってるんじゃないの?」
「そう? 私は生徒会長にむいてないよ。第一、成績があれだしね」
「それがわかってるのならどうにかしなさいよ……」
「私にもいろいろあるのだよ、由香くん」
瑠奈はどこかのお偉いさんのように言う。
「いろいろねえ……」
別に瑠奈は勉強ができないわけではないのだけれど。あ、数学以外は、ね。
「やあ、由香ちゃん。奇遇だね」
職員室の前でキラキラを振りまくイケメンと鉢合わせてしまう。
「ええ、本当に奇遇ですわね」
「なっ……由香ちゃん、本当に奇遇だからね? 絶対疑ってるよね?」
「まあ、叔父さんのことだからね」
「だから、叔父さんっていうな! まだ、高校三年生だよっ!?」
「伊集院先輩は私の叔父さんでしょ?」
「くっ……否定できない血筋が憎い……」
「瑠奈、時間がないわ。早く要件を済ませましょう」
ここで茶番をやっていても仕方が無い。
「あ、そうだね。それじゃね、叔父さん」
「だから、叔父さ――」
プリントを職員室で受け取って、教室に戻る。教室では、珍しく絢介が男子と話していた。
「あれ? 俊じゃない」
「おっ? お嬢、お久しぶり」
この男子は二天堂俊。二天堂財閥といえば、安心院財閥に次ぐ勢力で、親どうしの仲がよく、私達は昔からよく遊んでいた。いわゆる、幼馴染というやつだ。
「その、お嬢っていうのはどうにかならないの?」
「ま、そりゃ無理だ。今更由香って呼ぶのもなんだしな。見た目とか、言葉遣いが相まってお嬢なんだから仕方がねーだろ」
適当に理由をつけているようだけど、結局のところ――
「面倒なだけでしょ?」
「分かってるねぇ。まあ、お嬢は知らないと思うけど、お嬢って結構男子に人気なんだぜ? 下の名前で呼んだらこっちが酷い目に合うからな……」
人の名前なんて好きに呼んだらいいのに、男子って本当にそういうのを気にするわよね。あ、女子もそうなのか。ただ単に、私が疎いだけかもしれないわね。
「っと、そろそろ時間だな。じゃ、俺はお暇するぜ。じゃあな、お嬢、絢介」
「ええ、また」
私は小さく手を振る。
「ああ、じゃあな」
そう言い放ったのは絢介だったりする。俊は絢介が唯一敬語を使わない人物だ。幼馴染みというのとあって、やっぱり気楽に話せるのかもしれないわね。ちなみに、二人の仲は相当良い。
「それで、俊と何を話していたの?」
「そうですね。主に仕事の不満やら仕事の不満やら仕事の不満です」
「それ、不満しか話していないわよね?」
まあ、俊も絢介なら話しやすいだろうし、それでストレス解消にもなるのだろう。
「私も仕事の不満があるので少々掛け合ってみようかと」
「へえ。どんな不満なのかしら?」
「睡眠時間を増――」
「却下よ」
「お嬢様。私はまだ何も申しておりません」
「睡眠時間を増やして欲しい、でしょ? 朝はぎりぎり何だから夜早く寝れば寝ればいいでしょ? 夕食後はあなただって自由なんだから」
「それができれば苦労いたしません。私は食後は大忙しなんです」
そう言われてみればそうかもしれない。執事の仕事を私が知らないだけでこいつは……
「画面の向こう側にいる人物との対話やクエストのお手伝い。古参としてやることがたくさんなのでございます」
ああ……前言撤回ね。少しでもこいつを心配した私が馬鹿だったわ……
「このネトゲ廃人!」
「有り難きお言葉」
コイツに何を言っても無駄ね……




