私と執事と不思議な世界
「お嬢様、朝ですよ。目をお覚ましください」
耳元で優しく呟かれる。
んん……こんな早くに誰だろう。
誠くん……じゃないわよね。
となると……
「絢介!?」
私は飛び起きて時計を見る。
「あれ……いつもの時間……」
「お嬢様? 寝ぼけていらっしゃるのですか?」
いつもならば皮肉をいってくるはずの執事がなんだか心配そうに私を見る。
「いいえ、大丈夫よ」
「それならば安心いたしました。それでは、朝食に致しましょう。既に準備は整っております」
私は思った。こいつ、私になにか隠してるんじゃないかしら……
とにかく、完璧過ぎて怪しすぎる。
「ちょっと、絢介。こっちに来て」
「いかがなされました?」
私は近付いてきた絢介の額に手を置く。
「熱は……ないわね……」
以前のこともあるから少し心配したのだけれど、違ったようね。
「どうされたのです? 今日のお嬢様は少し変にございますよ?」
執事は多分皮肉ではなく素直に言ったのだろう。いつもと違って全く憎たらしさを感じない。
「そう? それじゃあ、朝食にしましょうか」
「かしこまりました。では私は美玲様と誠様を起こしに参りますので、着替えが済み次第、食堂でお待ちください」
「ええ、わかったわ」
着替えを済ませて、食堂に向かう。
食卓の上は既に朝食の準備が済んでいた。
「嘘でしょ……あいつ何か企んでないわよね……?」
ここまでやってくれると裏があるんじゃないかと疑ってしまう。
「姉様、おはようございます」
「おはよう、美玲ちゃん」
椅子に座って待っていると、まずは美玲ちゃんが食堂に入ってきた。
「おはよー、姉様」
それからしばらくして、誠くんが目を擦りながら、絢介と一緒に入ってきた。
「おはよう、誠くん。ほら、ちゃんと目を覚まさないと朝がきついわよ」
「ふぁーい……」
みんなが席につき、合掌をした。
「それじゃあ、また昼休みに迎に行くわね」
「はーい!」
美玲ちゃんと誠くんは声を揃えて返事をしてから、自分たちの後者に向かった。
わたし達もわたし達で、教室に向かう。
「ごきげんよう、由香。今日も早いね」
今日はいつもより早く屋敷を出たせいか、教室にはほとんど生徒がいなかった。
「ごきげんよう、瑠奈。今日もっていうと、いつも早く来ているみたいじゃない。いつも、あのバカ執事のせいで遅くなっているんじゃない。それとも、皮肉かしら?」
「……? どうして皮肉になるの? それに、絢介くんがいつも早く起こしてくれるから早く来れるって言ってたじゃん。どうしたの、由香? 絢介くんを悪く言うなんて珍しいね」
瑠奈は心底疑問だという表情を浮かべている。
「え、そう? 悪かったわ……少し寝ぼけているみたい……」
どうなっているのだろう……
私は絢介への不満を幾度となく瑠奈に漏らしていたはずだ。それを珍しいってどういうことなのよ……
ホームルームが終わり、授業。絢介が寝ることはなかった。
「お嬢様、お昼です。美玲様と誠様のところに行きましょう」
「え、ええ。わかったわ」
なんか調子が狂うわね……
今日も晴れということで、芝生の上にシートをひいてお昼を食べた。
いつもどおり、瑠奈は誠くんにべたべたで、誠くんは嫌がりながらもデレている。
ただ違うのは、執事がきちんと執事であること。いえ、それが普通なのかもしれないけど、絢介に限ってそれはありえない。
「そろそろお時間ですね。教室に戻りましょう。私は後片付けを致しますので皆さんは先に戻ってください」
挙句の果てにはそんなことを言い出した。
コイツは本当にどうしたのだろう……
「それなら私も手伝うわ」
「いえ、これは私の仕事。お嬢様の手を煩わせるわけにはいけません」
執事は真剣な眼差しでそう言った。
「いいのよ。二人で片付けたほうがはやいでしょ?」
「それならば、お言葉に甘えてお願いします」
執事は深々と頭を下げた。コイツは本当に絢介なのだろうかという疑念が頭をよぎる。
「ほら、片付けるわよ」
その瞬間、強い風が私たちを包んだ。つい私は目を瞑ってしまう。
「あれ……ここは……?」
目を開くと、私は学校ではない場所に立っていた。どこかの中庭だろう。見覚えがあるような気がするけど、どこだっけ……
「あなた、絢介……よね……?」
目の前には小さな少年。幼い頃の絢介によく似ている。
「そう。僕は絢介」
少年は答えた。
「君に殺された……ね」
少年はそう続けた。
「それ、どう言う意味?」
「そのままさ。僕は君に殺された。それ以上の言葉を求めるのかい?」
「そう。覚えてないんだ。それならそれでいいんだ。人は知らない方がいいことの方が多いから」
意味がわからない。私が絢介を殺した? 絢介はいつも私のそばにいるじゃない。
「それじゃあ、目を覚ますといい」
「目を覚ます? じゃあ、これは夢なの?」
「そう。これは夢。心配しなくていいよ。夢は忘れるもの。君はこの夢を覚えていることは不可能だ。起きれば忘れているだろうさ」
だんだんと、少年の影は薄れていく。
「ちょっと! どういう意味なの!? 私があなたを殺したって!」
「さあね」
少年はそう言い残して消えた。
「お嬢様。起きてください」
私の耳元で声が聞こえる。
この声は絢介だ。
「お嬢様、遅刻なされますよ」
「えっ!?」
私はベッドから飛び起きて時計を確認する。
現在、学校ではホームルーム中である。
「ちょっと! なんで起こしてくれなかったのよ!」
「いえ、私もつい先程起きたもので。それにしても、随分と魘されていたようですが、悪い夢でも見られたのですか?」
「……ええ。なんだか不思議な夢を見た気がするわね。でも、内容は全くよ……って、それより早く準備をしなさい! 最低でも2限までには学校に着くわよ!」
夢の内容は全くといっていいほど思い出せなかった。
なにか、大切な夢だったような気がするのだけど……
私は着替えてから美玲ちゃんと誠くんを起こしに部屋を出た。




