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瑠奈と誠と私の噂

 昼休み。


「由香! 早く小等部に行くよっ!」


 授業という檻から放たれた野獣が、目を光らせている。


「瑠奈。少し落ち着きなさい。ほら絢介、弁当を届けに行くわよ」


 私は相変わらず机に突っ伏している執事を起こす。


「おはようございます。それでは、参りましょうか」


「あら、今日はやけに素直なのね」


「ええ。お嬢様の後ろにおられる猛獣が恐ろしいものですから」


 ああ、なるほどね。それについては激しく同意だわ。ふたりの所に連れていっていいものか少し考えどころね……


 とはいっても、この猛獣を止めることができるブリーダーはそうはいないだろう。


 これは後から瑠奈の執事から聞いた話なのだけど、こうなってしまった瑠奈を止めることは不可能らしい。





 私達の通う学校である聖学院は小中高等部に校舎でわかれていて、基本的に行き来は自由となっている。


「美玲ちゃん、誠くん、弁当を持ってきたわよ」


 ふたりの教室の入口からひょいと顔を覗かせ、ふたりの名前を呼ぶ。


「あ、姉様!」


 美玲ちゃんと誠くんは転校初日ということもあってか、クラスメイトに囲まれていた。仲良くできてそうで、一安心というところね。まあ、あの二人なら大丈夫だとは思っていたけれど。


「姉様、おそいよ。俺もうおなかぺこぺこ」


「文句言わないの。ほら、中庭に行くわよ」


 私たちの学校は小中高等部の校舎が三角形に並んでおり、結構広い中庭がその中央にある。中庭にはテラスもあり、他の校舎の人とお昼を食べようとすると、基本的に中庭で食べるようになる。


「あの、もしかして由香様ですか?」


 教室から離れようとしていると、一人の女子生徒から声をかけられた。ちなみに、様という敬称は年下の女子が年上の女子に限って使うものだ。この学校は昔は女子校だったらしいから、その風潮が受け継がれているのだろう。


「そうだけど。どうかしたの?」


「あ、あの! 握手してもらえませんか?」


「え、ええ。いいわよ」


 私が握手をするとその子はお礼とお辞儀をして教室に戻っていった。


 なんだったのかしら……?





「流石は由香。人気者だね」


 今日は天気が良かったので、芝生の上にシートを敷いて、そのうえでお昼を取ることになった。


「それ、どういう意味なの?」


 私はさっきの女の子を思い出す。


「まあ、由香は噂には疎いというか、全く興味無いからね。由香って年下からは人気が高いんだよ?」


「だからどういうことなのよ。人気って言われても私は特に何もしていないわよ?」


 同じ高等部の後輩ならば百歩譲ってまだわからなくもないけど、ほとんど会わない小中等部の子にも人気というのは良く分からない。


「人気じゃなくて、憧れっていったほうがいいかな? 定期テストではいつも上位だし、運動はできるし、次期生徒会だし」


「へえ、そんな噂がたっていたのね。それと、私は生徒会長なんてやらないって言っているでしょ」


 流石は女子というべきなのだろうか。噂が好きね……


「ふぅん。でも、現生徒会長はその気満々じゃん」


「お姉様、生徒会長なの?」


「違うよ、美玲ちゃん。由香は次の生徒会長になるんだよ」


「わあ、姉様凄い……」 


 美玲ちゃんは私に屈託の無い眼差しを向ける。


「ちょっと、瑠奈? あんまり嘘を--」


「わあああああぁぁああっ! 姉様達! この状況なんかおかしくないっ!? なんでいつもどおり、みたいな顔して話してるのっ!?」


 私の言葉を遮ったのは今まで黙っていた誠くんだった。


「なにもおかしくないよ? マー君」


「何もかもおかしいよっ! ていうか、マー君って呼ぶなっ!」


 誠くんはもがく。瑠奈の腕の中で。


 現在誠くんは瑠奈に後ろから抱きつかれた形になっている。


「こら、ダメだぞ? お姉さんには敬語を使いなさい! マー君はかわいいなぁ」


 瑠奈は頬ずりをする。


「ちょっ! やめっ!」


 それにしても、瑠奈にこんな一面があったとは意外だったわ。


「さて、お嬢様。私たちは教室に戻りましょうか」


「珍しく意見が一致したわね。邪魔したら悪いし先に戻りましょうか。ほら、美玲ちゃん、行くわよ」


「はい、姉様」


 瑠奈は昼休みギリギリまで戻ってこなかった。


「なんか、誠くんに悪いことしたわね……」


「誠様は私共のために犠牲になったのです」


「それ、意味違うからね?」


「そうでしょうか? 毒を食らわば皿まで。悪役は最後まで徹さなければ意味がございませんよ、お嬢様」


 悪役になったつもりはなかったのだけれど……


 まあ、誠くんからしたら猛獣を解き放った犯人であることは間違いないわね。

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