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駄目主人とダメ執事

「どうかしら?」


 お粥を一口食べた執事に尋ねる。


「正直にいいますと、味が薄く感じられます」


 ぐさっと一言。


「わ、悪かったわねっ!」


 本当は美味しいという一言を待っていたのだけど、こいつらしいわね……


「しかし、病人の私には丁度良いかもしれません。濃い味は高血圧のもとですから。美味しゅうございますよ」


 執事はそう続けた。


「……? 如何されました?」


「な、なんでもないわよ! 私、タオル持ってくるわね」


 私は慌てて部屋の外に出る。


「顔……赤くなってないわよね……?」


 あいつのあんな笑顔初めて見たかもしれない。


「忘れるのよ、私!」


 自分でも訳が分からなくなる。とりあえず、心を落ち着かせないと……


「タオル持ってきたわよ。上、脱ぎなさい。汗拭いてあげるから」


 心を平常に戻した私は、執事の部屋に戻る。


「いえ、お嬢様。私はお嬢様に使える身。そのようなことまで--」


「いいから。その御主人様の命令よ。少しぐらい病人らしくしなさい」


「……かしこまりました」


 執事は渋々首を縦に振り、服を脱ぐ。


 執事の体は綺麗だった。いえ、深い意味はないわよ?


 筋肉はそれなりについていて、男らしいというのだろうか……?


 ただ、少しだけ気になることが……


「この傷痕。どうしたの?」


 それは、右肩から胸にかけてついている傷痕だった。切り傷だろうか? 見た感じ、かなり昔についたものだ。傷痕というのは成長しても大きさはそのままだということを聞いたことがある。もしこれが小さい頃につけられたものなら相当の傷だったはずだ。確か、こいつがこの家に来た時にはこんな傷痕なかったわよね。いつつけたのだろう……?


「これは、そうですね。私の壮絶な戦いの記録を聞いてみますか?」


「……いえ、結構よ」


 なんだか話が長くなりそうだし、ややこしそうだ。丁重にお断りをする。


「はい、終わり。それじゃあ私は片付けを済ませてから部屋に戻るから、何かあったら呼びなさい」


 私は執事の「わかりました」という返事を確認してから、部屋を出た。


 食器を片付けるべく、キッチンに立つ。


 それにしても、メニューどおりに作ったのに味が薄いってどういうことかのかしら。


 一応自信はあったんだけどな……


 味を確かめてみたかったけど、執事が全部食べてしまったからそれは叶わないようだ。


 と、思ったんだけど、鍋に少しだけついていた。


 匙で掬って食べてみる。


「薄い……というより、無味ね……」


 なんでだろう……? 本当にメニューどおりに作ったのに……


 一度気になったら仕方ない私だから、瑠奈に電話で聞いてみることにした。


「--っていうふうに作ったんだけど、間違ってないわよね?」


 瑠奈に私がどうやってお粥を作ったのかを聞いてもらう。


『うん。大丈夫なはずだけど、どうしたの?』


「それが、無味なのよ。調味料の分量も間違ってないはずなんだけど……」


『ううん……ねえ、ダシは何使ったの?』


「……ダシ……? 何、それ?」


『あ、やっぱり』


 電話の向こう側で納得した、という声が聞こえる。


「どういうことなの?」


 それから、瑠奈の料理講座が始まった。私はここで初めてダシのことを知った。私がどれだけ無知であり、あいつにどれだけ世話になっているかを知った。


 私は本当に駄目な主人だ……


 多分あいつは私がダシをとっていなかったことに気づいたのだろう。だからあんな言い方をしたんだ……


 こういうことははっきりと言わないんだから……


 本当にダメな執事よね。


「お嬢様。レビューと感想がつきました」


「……唐突ね。なんの話かしら?」


「実は、お嬢様が夜な夜な書いている日記を小説投稿サイトに投稿したところ、感想とレビューがついたのです」


「ちょっ!? まちなさい! なんであなたがそれをっ!?」


「--と言う話は冗談なのですが、本当に日記をつけていらっしゃるようですね。よければ拝見させてもらいたいのですが」


「ななな、何の話だか良く分からないわ。それよりも、説明して。今はそっちの方が重要でしょ?」


「それもそうですね。日記の件は後で伺うとするとしましょう。オホン、先程の話ですが、私達の日常を舞台とした『私の執事はダメ執事』に初めての感想とレビューがついたのです」


「へえ、そうなんだ」


「どうしたんです? お嬢様。なんだか、素っ気ない感じなのですが」


「あ、ううん。なんでもないわ。続けて(日記のことをどうやって切り抜け用か考えてるなんて言えないわ……)」


「では、続けましょう。駄作者は、いやぁ、ニヤニヤがとまりませんなぁ。と気持ち悪いことを言っており、挙句の果てに後書きにこういう話を載せる始末。私たちの作者は単純極まりないのではないでしょうか」


「あなた……それは自分の作者に言うセリフではないんじゃないかしら……」


「いいえ、お嬢様。ここでしか作者に物申すことができないのですから、今ここでしておくべきなのです」


「……なるほど。一理あるわね。といっても、今のところ不満はないのだけど……」


「私は不満だらけにございます。まず、私が学校に通っていること。それに、朝早起きをしないといけないこと。数を挙げればキリがございません。私はぐうたら執事生活に華を添えたいのです」


「……根本的なところは揺るがないのね…」


「勿論です。さて、広告活動も終わりましたし、お嬢様の部屋の片付けでも致しましょうか」


「ちょっと!? なんでそんなにやる気なのよ!? って、まちなさーい!!」


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