今日から"にゃ"を付けて話すように③
さっきの豪華朝食は目にも鼻にも刺激が強すぎたようだ。まだほかほかした香りが漂っている気がして、空腹に沁みる。
「今日の朝ごはんは私も鮭がいいです」
「あーわかったわかった。ちと早いが開店するか。用意するから暖簾と看板出しといてくれや」
「了解致しました!労働分は割り引いてくださいねー」
気が紛れてちょうどいいや。
入り浸っているうちに日課のようになった開店準備にとりかかる。
暖簾を軒先にかけて、看板を通りからよく見えるように配置する。あとは少しばかりのスペースをを箒で掃いて私の任務は完了。
そろそろいい匂いが漂ってくる頃かと店内を覗いた瞬間、大将の野太い悲鳴が飛んできた。
「やっちまった!鈴鹿、この急須をさっきのノミツブに届けてくれ!お茶じゃなくて薬の入った方を渡しちまったみてぇだ。お前なら今から走れば間に合うだろ。頼む」
腰の弱い大将は朝にいつも薬を飲む。人間には害はないがお猫様にどう作用するかは分からない。
「いってきます」
最悪を想像し、それを振り切るように急須を掴み店を飛び出した。
シマ様は丘の上のお屋敷に住んでいる。ここから大通りを道なりに真っ直ぐ。
足の速さには自信がある。急須を割らないようにだけ気を付けてあとは全力で走るだけ。
まだ開いていない店も多い商店街を抜け、丘へ続く橋を渡る。お猫様草がたくさん生える草むらが見え始めた頃、聞き覚えのある鈴の音が耳に入った。
ウマだ。近い。
「ウマさーん。待ってくださいー!お届け物ですー!」
鈴の音が止まった。速度を上げて少し走ると丘のふもとにあの奇妙なシルエットが見える。
よかった。間に合った。
急須を差し出し、息を整えつつ、事情を説明しようとする。
「さっき用意した急須、中身を間違えて入れてしまったので、これと、変えてください」
さすがに息が上がって話辛い。
薬のこともなんとか説明したが伝わっただろうか。
「にゃるほど。わかりました。お届けご苦労ですにゃ。先ほどは気づきませんでしたがあなたもノミツブ隊員だったのですね。」
あれ、話が食い違ってるような。
私があんな恰好をしているように見えるのだろうか。
「いえ、私はノミツブ隊には入っていません。大将に頼まれて使いっ走りに来ただけで…」
「まだ新入りのようですが、きちんと"にゃ"をつけて話しにゃさい」
しかも話を聞かないタイプのようだ。
あれをやるのは恥ずかしいが、適当に話を合わせて逃げるのが一番かな。背に腹は代えられない。
「まだ慣れて、にゃくて、申し訳ありません、にゃ。ではこれから任務がありますので失礼します、にゃ」
恥ずかしさでぎこちない話し方になってしまった。
だがこれで逃げられるはず。
はやく鮭食べたいな。
「待ちにゃさい」
そういいながら、さっさと立ち去ろうとしている私をぐいっと引っ張った。
服でも髪でもない"何か"を掴まれ、初めての感覚に驚く。
反射的に振り返ると、再びウマと向き合うかたちになった。
すると、こほんとひとつ咳をしもったい付けて続きを話し出した。
「朝食後このことをシマ様に報告しますにゃ。特別に鈴鹿殿の同席も許可しますから、付いて来にゃさい」
突拍子のない話に気が遠くなると同時に、じんじんとするこの感覚が痛みだと解った。
うまくまとめられずどんどん長くなる導入部。