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我が家が一番!  作者: 津村ん家の婆ァ
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二話目 食文化ってスゴいよね。④



 田舎の長閑なお昼過ぎに、宿屋の二階から謎の呻き声を上げながら、歩伏前進で階段から登場したの…あ、あと五段目でコケた。


「!!~~~~」


 あらあら、二オブさんはケガなさそうね。よしよし。

 匂いに釣られて、腹減り迷子ニオブさんは起きだしたので、取り置きしておいた野菜炒めと蒸し焼き、その他惣菜他、約三人前のお昼ご飯を無言で平らげた様は見ていて気持ち良い食べっぷりでした。お粗末様。


 集まった村人も家事やお仕事に戻ったり、子供たちは遊びに出かけちゃったし、残っている人も火の始末や鉄板の片付けにと、皆さん働き者です。

 ちょっと早いけど残ってる皆でお茶しましょ。あ、おやつは『羊乳チーズ煎餅と果物のシロップ漬け』ね。因みにチーズ煎餅は村の名物にしようと村長と共同開発?したのよ。売り物には鍛冶屋のグレイちゃん謹製の焼鏝やきごてで村のマークを入れるんですって。今後のスポジュメンチーズにも入るらしいわ。村のマークってどんなのかしら。


 皆に配り終わったし、さて私も食べよーとしたら。


「…うや?」


 私の背後からぎゅむっ、と抱きつく問題児が一人。


「あいつらなんてもう知らないもん」だの

「僕には心の故郷(←タングステン村らしい。)と優しい家族(←村人の様です。)とお袋(←私?)がいるもん」だの

「僕が頑張るのは、家族とお袋がいるからだもん」


 だの、ブツブツ言いながらずぅーっと私にひっついているんです。正確には二オブさんの膝の上で抱き着かれ状態。私に抱き付くのは良くある事なのですが、今回のそれは特に酷くて…よっぽど溜まっているんでしょうね。


 村人の反応は、


「今回ステアさんが不在で心配してたけど、ちびちゃんが居れば大丈夫ね~」

「チビ竜がお袋って、確かに棟梁と同年代だけどよ」

「ジュールさ~ん。チビ竜ちゃんの年齢、人だと7つくらいですよぉ?」

「ぇえっ、婆ぁの間違いだろ?」

「ばばあですと? ジュールちゃんにチーズ煎餅あげるのよそうかしら」

「ぇえ!! ごめんなさい!」


とまあこんな感じに通常通りです。うん、変わらない日常って素敵だね。




      *****




 こんな感じで3日程、問題児に引っ付かれながらお留守番していると、ステアさんがグラの卵をお土産に戻って来ました。おかえりなさい。


「ちびさん、本当に助かった。これは約束の」

「困っている時はお互い様よ、ステアさんもお疲れ様。卵はとっても助かります」


 売られているグラの卵って、どんな感じかしら? って様子見のつもりでお土産に頼んだの。30個位あれば良いなぁ~とか、定期的に手に入ったら色々試せそうね~とか思っていたの。まさかその7倍近い量が来るとは思わなかったわ。いやん、お代どーしよー。


「いや、これ、貰い物だから気にしなくていい」

「え? こんなに」

「気になるならこれで御馳走してくれれば有難いんだが」


 何でもお仕事先で、何処かの不正している領主さんの大元を取り締まったら、領民の方々から感謝されて沢山の頂いた一部なんですって。


「ふーん。あの老害、漸くすげ替えられたんだ。じゃ、少しは楽になるんじゃない」

「ならいいがな。領土権の悪用と、過剰な税の取り立ては流石に看過出来なかっただけだ。」


 二人ってば、お仕事のお話中は声のトーンと言葉がガラッと替わるのよ。

 幸い、ここは私の家だから他に誰も居ないけどね。よいしょっと。


「んじゃ、ステアさん。今夜の御飯『蒸し肉饅頭』と『野菜炒め』にしましょうか?」


 ステアさんは蒸し肉饅頭を、酢醤油で食べるのが好きらしい。

 私の畑のお野菜を美味しいと言ってくれる人なので、多分この献立は嫌ではないはず。


「いいのか?」

「チビ(おふくろ)ちゃん、新作は?」


 卵料理について彼是語ったのは昨夜の事だから、絶対二オブさんの突っ込みが入ると思ったのよ。


「作りますよ~、お試しだけど試食してくれるなら」

「「是非!」」


 よっしゃ、多分マミちゃんも来るだろうし、少し多目に作りましょ。村の子達に再度作ってもらった、等身大の『チビ竜ちゃんぬいぐるみ・二代目』を二オブさんが抱っこしている間に、みたらし団子モドキを作成しております。結構村のおばちゃん達にも好評なおやつです。

 作り方としてもさほど手間がかからないのも魅力の一つです。


「はいはい。二オブさんステアさん、お茶にしましょうねー」

「わーい、新作が出来てる~♪」

「二オブさんはみたらしで、ステアさんは此方の抹茶でどうぞ」

「これは?」

「お茶にしようと思って採取した葉っぱを蒸して、揉みながら乾燥させた物を粉にしたの。甘いの好きじゃなかったでしょう?」


 炒り麦茶を添えて、いただきまーす。うまうま~、良いよねお団子。もう少し優しい甘味が出せると良いのだけど、現状ではここまで。

 勿論、改良しますとも。私の野望に隙なんて在りません、目指せ! 生前の食生活。次はパイ生地作ってみたいなー♪


「やわらかーい、ウマ甘ー、これ何?」

「…、確かに美味い。というか、この苦味が良いな」

「え、ちょっと僕にも!」

「あ、こら」


 二人ってば、お団子の食べ比べしちゃって堪能してるわねー。


「ちびさん、これは販売予定在りますか」

「今のところ、宿泊したお客さんのお土産にお持たせする以外は予定在りませんよ。日持ちしないから」

「お代わり頂戴♪」

「夕御飯もあるから程々にしてね。ステアさんは?」

「貰おう」


 何処其処の農作物の出来具合やら商業組合のどうたらこうたらと、一介のおばちゃんには小難しい話をしながら、一皿目よりも多目の団子をあっさり完食した二人をほっぽらかして、愛しの畑へと出掛けた私は悪くなんて無いもの。

 二人の話が『ちび竜考案の御飯は王都で人気沸騰中』だとか、『他国からもレシピの問い合わせが来ている』だとか、『ちび竜保護の為、タングステン村自体を保護区にする』だとか、私は何にも聞いてないもの。

 況してや私の留守中にマミちゃんとセンセーとワイフちゃんが来ていて、具体的な話が詰められていたなんて、雑草ぬきと水撒きに夢中になっていた私には知るよしも無かったのよ。




      *****




 さてさて、今宵の夕食は村でよく食べてるもちもちパンの生地を薄くしたものに味付けした挽き肉とキノコと根菜少々の具材を包んで蒸しあげた『デッカイ肉饅頭』、ティハと根菜団子を入れた『夏野菜とティハの甘酢あんかけ』と『茹でポー豆』、新作卵料理でございます。


 ポー豆っていうのは枝豆みたいな外見で、茹でるととうもろこしみたいに黄色くなる豆で、村ではお味噌の材料になっているの。

 面白いことにこの豆、繁殖力が強すぎて、畑で作れないんだって。

 なので、野生のものを取ってくるのだそう。ベルガコム達もこの葉っぱを好んで食べるそうだから、オーレ爺ちゃん処の羊飼いさんたちは、この時期ポー豆の収穫もお仕事なんだって。


 知らない間に増えていたお客様の分まで夕御飯作りましたよ。ワイフちゃんは自宅に帰ると言うので、蒸し肉饅頭を五つ程持たせましたよ。ミーナおねーちゃん食べてくれるかしら?


「相変わらず不思議な食事ですね」

「おいしーから、いいのよー」

「ポー豆がもう少し沢山とれたら、さらに野望に近づけますね」

「「「「未だあるの?」」」」


 日本人なら大豆を食卓から欠かしてはいません。豆腐に湯葉、豆乳は基本ですし、お味噌に醤油を作ってみても良し、きな粉も良いですね~。厚揚げにすればバリエーション広がります。あ、オアゲさんにすればキツネ饂飩出来ますね!


「チビ竜さんは、本当に食べる事には貪欲ですよね。そう言えば泰平(たいへい)の賢者も結構な食道楽だったと聞きますが、どちらが上でしょうか?」


 ステアさん、それは私にとって誉め言葉ですよ。泰平賢者? はて、何処かで聴いた気がしますが…誰?


「泰平の賢者ですか。確かこの国の法の基礎を作った方でしたよね?」


 うや、偉い人でしたか。私の野望に関係在るかしら?


「そうよー。『人と定める限り、貴賤は在らず。身分の権限はその責務を持て使われ、何人たりともこれを違える事は許されぬ。』って有名な言葉を残した人ですよ~」


 えっと、仲間外れはダメですよ、当番のお仕事サボっちゃダメですよ、言うこと聞かない人にはお仕置きしちゃいますよって、事かしら?

 何だか保育園のお友達と仲良くするお約束みたいね。


森人(もりびと)も、獣人(けものびと)も、山人(やまびと)も、民人(たみびと)と何も変わらない人である。今でこそ言えますが、二百年程前でしたら侮辱とも捉える方々が多かったそうですからね。平和になったものですよ」


 今は森人はエルフ、獣人はじゅうじん、山人はドワーフと云われてるんだって。民人って人間の事よ。竜の人は居なくて、人になれる竜は『魂竜こんりゅう』って云われていて、竜の身体に人の魂が入っているから人の姿になれると云われてるんだって。

 因みに人の姿になれるのは成竜に成ってからで大概は年相応の姿になるらしいの。因みに私は未成竜というか、幼竜なので本来会話すら難しい筈なんですがね、とマミちゃんに言われたわ。まあ、私は私なのだから、出来たらラッキ~位にしか考えていません。 


「ずいぶん懐かしい言葉ですね、獣人なんて古い書物位でしか見掛けないと思ってましたよ」

「私も嘗ては森人でしたからね。今はエルフですけど」

「うや? マミちゃんマミちゃん、その二つはどう違うの?」


 疑問は必ず聞きます。じゃないとマミちゃんも村の皆さんも、私は知っているものとして話を進めてしまいどえらい勘違いを起こした過去があるんです。


「森人は古いエルフの考え方を持ちます。狩猟や森の糧を大事にしながら、自給自足を良しとする閉鎖的な考え方を持ちます。基本的に生まれ育った集落、若しくは婚姻先の集落で一生を終えることが多く、独自の文化を形成していると云えますね。集落の外に出る者を羽風(はかぜび)、生まれ育った森に帰ることで新たな知識と文化をもたらす助言者として扱われます。」

「マミちゃんは羽風なの?」

「故郷に戻るつもりならそうです。ですが、今の私はエルフだと思っています。私の考えですが、エルフは文化的にも人と何ら変わらないと思います。少しだけ魔力が人よりも使いこなせる民人、と考えてもらえばいいかと思いますよ」

「寿命の長さは人よりも遥かにあります、村一番の年長者は間違いなく貴方ですよ」

「年長者でも実質4年しかいませんからね。新参者もいいところだと思いますが?」

「確かに。でもこれだけ村に馴染んでいて新参者って言われてもねぇ」


 うんうん、マミちゃんは落ち着いていて、頼りがいあって、分からない事を教えてくれる私の保護者さんだものね。ご飯も一緒に食べてくれるし、出逢ってからもう12年も彼方此方付き合ってくれたし、魔物さんからも庇ってくれた事もあったわね。


「ちび竜ちゃんといる限り、里に戻る気にはなりませんね。毎日が面白いですよ」

「「「確かに」」」

「…マミちゃん、それは喜んでいいのかしら?」

「勿論。貴女の毎日が私にとって貴重な時間なんですよ」

「はいは~い、せんせーもたのしーですよ-」

「チビさんと過ごす時間は貴重ですからね。俺もニオブも」

「チビ竜ちゃん(おふくろ)は僕にとって大事な存在なんだから、居なきゃ困るんだからね?」


 ここまで言われるとかなり嬉しいけど、まさかその理由が主にご飯なんて言われたら一寸凹むかな~。ま、一緒にご飯を食べる人がいるのはいいことだよ、ね?




 因みに新作卵料理は『茶碗蒸し』と『羊乳アイス』でした。一応10人分作って争奪戦が起こったので、全員正座一時間の刑にしました。残りは何を作ろうかしら?




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