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我が家が一番!  作者: 津村ん家の婆ァ
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二話目 食文化ってすごいよね。①

マミちゃんとせんせーからの報告を受け取ってから五日後、ちゃぶ台と蒸留酒と精油が届きました。わーい! ぬいぐるみは子供たちがまた作ってくれるので、ひと月待っててとの事。


「んで、この石を切り出そうとしてたわけね。ふぅーん」


 私の野望の概要を聞いた二人は、あっという間に石材の切り出しから加工先までの運搬を終わらせちゃって、にこにこしながらキー爺ちゃんの処でお茶してたわ。


 マミちゃんなんて魔術の応用ですねって、器用に大岩から大まかな型にすぽんってくり抜いちゃったの。私がぽかーんってしてる間にひょいってせんせーが抱え持って、キー爺ちゃんの所までさっさか運搬。あれって30キロ位あるわよねって聞いたら「せんせー、力持ちなの」ってかるーく返されちゃった。


 キー爺ちゃんも二人から話を聞くなり鑿と金槌を出してきて無言でコツコツと溝を掘りだしたの。で三時間ぐらいで溝掘りと穴あけ作業を終わらして私に「ん」って差し出したの。


 確認のために乾燥小麦を持って来て、ごりごりごりって試せば理想の粉末状になっているのー。も、小躍りして抱き付いてありがとーって言いながら泣きついちゃったら、頭をぽんぽん、とキー爺ちゃんにされ、マミちゃんとせんせーにもポンポンされました。うや?


「ちび竜ちゃんは周りに頼ることを覚えなさい、それで安心する人がここには居るんですから」


 とマミちゃんからの一言で、皆さんなりの有言実行化されたお説教だったと気が付きました。反省したのはいうまでもありません。


 で、反省を活かして私の野望をお披露目しちゃいましたよ、ええ。お塩を水に入れて小麦粉に少しずつ固さを見ながら加えて、こねくり回します。5キロの小麦粉は半端ありません。生前の私が今迄打ったのは最大で1キロです。一人で食べるのに慣れていたせいで大量生産はこれが初なんですもの。ぜいぜい。


 なのである程度いったらキー爺ちゃんのお弟子さんを二人ほど借りて、私の代わりに交代しながらこねくり回してもらいました。せんせーもやりたそうでしたので丁寧に!と注意をしながらやってもらいながら干し魚のおだしにお野菜とお肉を洗って切ってお湯の煮たった鍋に投入。ついでに大きめの鍋でお湯を沸かします。お酒と醤油で味を整えたらつけ汁は完成。


 ここまで作ったなら天ぷらも欲しい処です。早速愛しの家庭菜園へ飛んでいき、お野菜をいくつかチョイス。ついでに頂いた鳥肉と、試しに作ったピクルスを幾つか抱えて戻ったところで、こねくりまわした生地を粉打って薄く伸して、軽く折りたたんでもらいました。伸した生地と同じ薄さになるよう切ってね、とお願い。分担しなくちゃ夕飯に間に合わなくなりそうだしね。


 鶏肉を一口大にカットして生姜モドキとニンニクモドキを擦り下ろした中に塩、コショウ、醤油を加えて付け込んでおき、20分ぐらいしてから小麦粉にまぶしてから揚げに。勿論うちのお野菜も小麦粉の衣をつけてさっと揚げ、大皿にもりつけます。うどんもいい具合に仕上がりました~。


「ちびさん、ティハあるんだけどこれもどうにかならない?」


 お弟子さんの一人、トーンちゃんがティハと呼ばれる大きな川魚を持ってきた。この辺では割とポピュラーな白身魚で大概が塩焼き、素揚げというシンプルな食べ方が多い。夕食用にと捕まえてたらしいソレをみて頭に浮かんだのはムニエルとか煮付け。野菜たっぷりの餡かけにしてもいいかも。


「じゃあ内臓を出して三枚に下ろしたら、一口大に切っちゃって」

「わかった」


 にぎやかな台所で格闘すること3時間半、出来たのは取れたてお野菜の天ぷらと鳥のから揚げ。夏野菜の特製ピクルスソース掛け、ティハの素揚げを入れた野菜のシギ焼き、大量に出来た乱切りうどんとつけ汁。さあどーだ!


「ん!」

「あらまあ、これおいしーわね」

「これはいいですね」

「うわ、サクサクしてて旨いね。なにこれ」


 キー爺ちゃんは天ぷらとうどんを無言でかっ込んでおります。今日はお弟子さん達も一緒なので、久々の大所帯でのお夕飯なのです。普段は基本一人での食事なので、こういう機会はしっかりと楽しみます。うまうま。


「饂飩うどんはいろんな食べ方があるからそのうちにお披露目です。つけ汁で揚げ物を頂くのもおいしーですよー」


 キー爺ちゃんは食べやすいうどんが気に入ったようで、お代わりしていた。


「ちび、うまかった」


 どうやらキー爺ちゃんのお眼鏡には叶ったらしい。あれだけあった料理はきれいに無くなっていた。さすが大人数!


「よかったー、また今度何か作るねー」


 キー爺ちゃんのお弟子さん達も満足げで皆なニコニコ。マミちゃんはピクルスがお気に召したようで、持ってきた残りを茶受け代わりにして食べていた。


 野望の一つが叶った私としてもとっても満足。さあ、お好み焼きは目の前よ。シフォンケーキとクッキーは材料を揃えたら絶対に作るんだから!簡単にクレープも作れそうよね。最終目標はパンつくり。サクサクのパン生地なんてここでは夢のまた夢だったんだから。餃子もいいかも。あ、その前に鍋焼きうどんなんてどうから。幅広いほうとうでお野菜ごろごろの味噌煮込み鍋も捨てがたいわ~。うん、小麦万歳待ってて、私の…うや?


「ちびさんちびさん、話聞いてる?」


 あ、つい欲望という名の妄想に走っちゃった。


「ごめんなさい、次に何作ろうかと考えてました。何か用ですか?」

「あ、いや。いきなりぼーってしていたから、どうしたのかなって」

「小麦で出来る料理をあれこれ考えてました。バリエーションはまだまだありますからしばらくは楽しんで見ようと思います」

「ちび竜ちゃんはこれが食べたかったから石臼あれを作ろうとしたの?」


 せんせーは小首を傾げて聞いてきた。


「そうですよ。このうどんは煮ても良いし、焼いても良いの。これ自体の味がほんのりだから、他の味でいろんな楽しみ方ができるの。歯ごたえのいいうどんは、すごーくしっかりと練り込むと出来るんだけど、手間がかかっちゃうから私には無理なのよ」

「…確かにね」


 せんせーに比べれば私なんて非力な部類。マミちゃんももしかしたら非力な部類になってしまうかもしれない。


「ちび竜はどこでこれの作り方を知ったんだ?」


 ジュールちゃんはキー爺ちゃんのお弟子さんの中でも一番若い。下っ端と云えばいいのかな、17歳の若者にしては少々子供っぽい言葉使いなせいか、兄弟子さん達に時々窘められているところを見かける。


「私の野望ですから秘密なのです。全て叶うまで誰にも言ってはいけないのです。そうしないと叶わないのです!」


 マミちゃんが昔異なる世界から来た人から託されたという手帳に記されていた言葉があるの。『元の世界の事は簡単に明かしてはならない。新たな争いを起こすから』と願いのように綴られた言葉は、私の中で守るべき約束となっている。


 確かにすべての知識を伝えたら、この世界は混乱するでしょう。元の世界は考え方そのものが豊かな分、あらゆる意味で危険な事が多い。よい意味で素朴な善良さと、朴訥な良識に満ちたこの世界では、毒と云ってもいい位でしょう。


 初めて手帳の内容を読んだ時にその手帳の筆者さんの願いが『伝えてはいけない』と聞こえたんです。だから私も筆者さんの思いに同意したんです。


 しかし、こと食事に関しては別です。私は故郷の味が大好きです。食文化は大切です、なにより、お味噌と醤油を見つけたのですから再現しない手はありません。目指せ、日本家庭の味。これが私の野望なんです。


「野望、ですか。ふふっ」

「はい、野望なんです。おいしー物を食べる、そのための努力は大事なんです。だっておいしーもの食べると幸せーってなりませんか? 私はします、次は何食べよーかなって、私はワクワクします。とってもたのしーです」

「確かに」

「食事がうまいと気分は良いやな」


 食事がうまくて気分が悪くなる人は、居てもまれだと思う。大概が私と同じと思いたいけど、もしかしたら違う人だっているのかもしれない。だから否定はしないけど肯定もしない。


「そりゃちび竜は料理上手だからいいけどさ、俺ぐらいじゃどうやったらおいしーもんが作れるのかわかんねえよ」

「ジュールちゃんは、まず包丁使いからお勉強するべきなんです。炒める具材の大きさを揃えることによって、火の入り方が均等化します。むらなく仕上げるのも大事なんです、うどんの大きさは特に重要なんですよ」

「げ、何で知ってんだよ」

「トーンちゃんやマミちゃんは几帳面ですから、均一化した切り方をします。お魚やお肉を任せたので、すぐに分かりました。キールちゃんやニレちゃんは料理上手だとワイフさんから聞いてますし、ビノルちゃんは揚げ物を手伝ってくれましたから麺切には参加してません。残るはせんせーとジュールちゃんですが、せんせーはきっちり図るのが得意です。私よりもそういうことはきっちりしてますから、消去法でジュールちゃんかなと」

「ちびちゃん、ちゃんと見てんなー」


 ニレちゃん、ビノルちゃん、キールちゃんはキー爺ちゃんのお弟子さんの名前なの。今のところ三人合わせて一人前の腕前かな~、って宿屋をしてるワイフさんの情報。其々の足りないところを上手にカバーしてるみたい。


「一生懸命に努力するのはいいことですよ。体が覚えた事はなかなか忘れられませんから、繰り返して習得すればいいんです。何事も努力です」

「チビ! いいこというじゃねーか」


 キー爺ちゃんを除いた男性陣はお酒飲んでますね、やけに絡んでくるし。キー爺ちゃんは下戸だからお茶しか飲まないのは知ってるし。やれやれ、皆さんが騒いでいる間に朝食の用意をしておきますかね。よっこいしょ。


 乾燥小麦を水につけておいて、ティハの残った切り身を人数プラスいくつか切り分けて、下味付けて。つけ汁が結構ありますから、この前見つけたあれを使いましょうか。朝一で家庭菜園に行って収穫すればいい具合になりそうです。


 下ごしらえも終わって部屋を覗くと、こちらもそろそろお開きになるかしら。


「明日の朝ご飯を作りに来ますから、台所はそのままにして置いてくださいなー」

「ちびちゃん、あんがとねー」

「お酒はほどほどですよ、キールちゃん」

「おう、チビは飲まねーのか?」

「キール、ちび竜ちゃんは未成年です。子供に飲酒はいけませんよ?」

「マミちゃん、それ以前に私お酒飲めませんってば。キー爺ちゃんと一緒」


 マミちゃんの育った国では飲酒に年齢制限があったらしいの。飲酒できるのは成人として責任が取れる証でもあるんだって。責任とれなきゃ酒飲んじゃ駄目よって話なんだけどね。


「オーレ爺ちゃんに聞いてからだけど、材料がそろったらお菓子作ってくるから」

「お、新作ですか?」

「ジェーン婆ちゃんとミーナおねーちゃんにも相談だから時間かかっちゃうけど、皆のお陰で出来そうなの」

「じゃあまた名物が増えそうだな」

「名物?」


 何でもこのタングステン村はど田舎特有の長閑さと自然に囲まれた高山地帯なので、娯楽がが少なく楽しみも少ないらしい。他の町や村との交流も、10日に一度の隊商が必需品を売りに来るか、年に一度の監査の役人たち来る程度。あとは血縁者が偶に里帰りする位ね。村外からの情報が中々入ってこないってことはそれだけ閉鎖されているってこと。私はとてもありがたいけど、村人からしたら、触れ合いが少な過ぎるよって言われそう。


 なので、今の村長がこの村を世に知らしめてやるような事柄を欲した処、オーレ爺ちゃんの山羊チーズが世に出たそうだけど、これがまたすごかったらしい。何せ作り方は一切秘密、オーレ爺ちゃん独自の製法で作られるそれは年間生産数が60~140くらいと安定しないくせに、味がとってもいいの。納税時期の頃に村人には一家に一個、お歳暮みたいにくれるの。私とマミちゃんとせんせーは食べきれないからって三人で小さめのを一個、それでも昔のLPレコード位ある大きさものを貰うようにしているのよ。


 この山羊チーズ、世間ではスポジュメンチーズって呼ばれていて、入手困難な代物として知られているの。世間じゃ『スポジュメンチーズを手に入れる=棚から牡丹餅』なんて意味に使われているって聞いた時には呆れたもの。お陰でスポジュメンチーズの産地として知られているけどね。


「ふむ、ちび竜ちゃんのご飯は新たなこの村の名物になるという事でしょうか」

「調理法なんかが流出されれば発祥の地として知られるけど、食材はどれもありふれたものじゃないかしら?」

「そもそも、麦をこんな加工することに誰も気が付かんかった時点で違うと言えるがの」

「そうねぇ、それにこの粉挽き機なら顆粒状の穀物の粉末化の大量生産可能でしょ。せんせーこれ欲しいわー」


 あ、そういえば草の実とか粒粒したものを擦潰すのに苦労してるものね。


「石臼に関してならキー爺ちゃんに一任しちゃう。庭にある石材なら全部使っていいからね」

「え?」

「だって私が必要なのこれ一個だもの。後はキー爺ちゃんが作ってもいいかどうか判断してくれればいいと思うのよ」

「ちょっとまて、これがどれだけの商品価値があるかちび竜はわかってんのか?」

「そうだ、下手すると商売可能な代物だぞ」

「うん。だからこの石臼の製作費用の代わりに製作権限と商品権限をキー爺ちゃんにあげちゃうの。後はお弟子さん達と新しい商品製作と権限を監査の役人さん達に申請してみたらどうかな?」


 要は新しい商品を作ったから、これを広める権限を国に申請して、許可が出れば売りに出せますよって話。著作権と云うよりも発明権みたいなものなの。


「生み出す村、タングステン村の名物第二弾。としてはいいかもしれませんね」

「なにその(中二病的)名称?」

「スポジュメンチーズを売り出した時の煽り文句」


 考えたのはミーナおねーちゃんだと聞かされた時の私の心境は…、複雑でした。中二病の十歳児って、何から突っ込んだらいいのやら。

※ティハ=タングステン村近郊で採れる川魚。白身でアッサリしている。

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