五話目 冬と人が去る、春がくる。⑧
※2018年12月20日 一部変更。
「あの、確か私、おにーちゃん殿下とセス君に面会をって言いましたよね?」
「そうだな」
「お兄ちゃん殿下、なんでおーさま達まで?」
「本人達の強い意志による希望参加だ。それとも内密な話だったか?」
「内緒じゃないけど、思いつき程度の話なので、助言が欲しいっていうか、実現の是非っていうか判断基準が欲しいの」
「ほう、言ってみろ」
と、お兄ちゃん殿下から話を振っていただきましたので、例のクロムンブ狩りの企画について思いっきり熱弁してきました。題して「夏季限定、冒険者体験ツアーinアト村」(内容は【五話目 冬と人が去る、春がくる。⑤ 】を参照。)
今から企画すれば、初夏から盛夏にかけて開催可能。冒険者組合を通して新米冒険者及び冒険者を目指す希望者対象の戦闘指導付き、体験ツアーってとこかしらね。野宿の仕方から野外炊飯一式。簡単な冒険者の一般教養まで信頼のおけるベテラン冒険者指導のもと、三泊四日位のプランで冒険者体験出来れば、お得感あるかしら。
初夏までは出来れば国軍の皆様に手伝ってもらって、間引きがてら強いクロムンブ個体駆除及び、攻略難易度の低下を目安に軍事修練をして頂ければとってもいいと思うのよ。小型船なんて簡単にひっくり返るって話だし、アト村に駆除が出来る人材が三人しかいないってのもかなり問題だと思うのよね。
そして駆除した後のクロムンブは、モールス夫婦と息子さん夫婦と相談してだけど、鰹節に仕立ててもらう。そしたら私が鰹節の旨さをお好み焼きとたこ焼きとお味噌汁とおうどんとお浸しとおでんとお惣菜と、まだまだ色々あるけれど全力をもって世に広めて見せます、目指せお出汁の世界普及!
私の野望は阻ませないわ! という下心のもと、いざ困っている人達の為に需要と供給を探して、可及的速やかに対処出来ればいいな~という建前まで「きぱっ」と伝えて判断を仰ぎます。
仕立てきれないクロムンブは串焼きバーべキューにしてお祭り露店で売りまくるのもアリよね。唐揚げのネタにしてもいいし、お刺身で頂くのも捨てがたい。剥き身ハンバーグもおいしいと思うのよ、甘辛くそぼろ煮してもいいわね。ご飯があったら間違いなく丼にして名物料理に仕立てるのにぃ。
あ、お茶ありがとうございまーす。
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結果から言うと私の提案は「条件付き仮認可」されました。うエーいっ!
主な流れから云うと冒険者組合に初心者用依頼として期間限定のクロムンブ狩りの依頼付き講習会として、ハルト国が正式に要請を出すが、アト村の領主に何処まで現状認識がされているかが引っかかるんですって。おいちゃんも「領主さまを通して国に駆除依頼している」と言っていたから、関係各所に確認と現地調査を手配してくださるんですって。うや~、私じゃ思いつきもしない話だわ。
んで、お兄ちゃん殿下に改めて「ポルおいちゃんと話が付いたらクロムンブの燻製と黒布草の定期的な流通を確保したい」とお願いをば。極上お出汁を逃すなんて失態は絶対しちゃいけないわ。
お兄ちゃん殿下とセス君パパさん二人の直筆サイン入り許可証ともいえる、「確約取れたらタングステン村まで流通を通してやる。」という一筆書いてくれたので、大事に風呂敷に包んで仕舞いました。これで聞いてないとか言ったらこれを黄門さまの印籠の如く使う予定です。
「食が絡むと随分と欲深くなるわね、これって竜の本能かしら」
「だとしたらかなり平和的な手段ってのがまた面白いね」
「しかも試案の状態でここまで具体策を思いつくのに、実行するための手段がぽ~んと抜けているんだもんな。ま、なあんにも企み考えていないってのがまる見えなんだよな」
「余計なコネとか全くないもんな、あるのは食に対する欲望のみ。美味しいもんが喰いたいだけだってのが笑えるよ」
「海の魔獣相手に軍事修練をって考える村人がいるのが恐ろしいのか面白いのか。しかも狩った後の獲物の利用案件まで既に見通しついているしなぁ」
ちび竜はただクロムンブの燻製欲しさに行動しただけだが、周囲は火吹き竜の知恵の高さを垣間見た気分だった。こんな幼い個体―――に見えるが、中身は転生した中年おばちゃん+α―――ですら、ここまでの頭が回るのだ。長老格の火吹き竜ならば如何程の考えを巡らせるのだ、と。同席していた文官たちは脅威を感じていた事にちび竜が気が付く事はなかった。
「他に相談したいことはないのか?」
「うや~、あとはおいちゃん達の説得しだいからお手紙来たら相談に乗ってもらえるかしら。やっぱりキチンと話し合ってから決めた方がいいと思うのよ。今回のお話もアト村の皆から許可が出たらのお話だし、勝手に進めたら困る人もいると思うしね」
「それはそうだが、駆除した後の消費の目途はついているのかい?」
「大丈夫よセス君パパさん。今回買い占めた分は謂わば宣伝材料であり、世間に御出汁を広める先行投資分だもの。次回分の購入までは既においちゃんに希望出しているから、村と王都を中心に認知度を上げる分くらいにはなる筈よ。そこまで持っていければあとはほっといても購入希望者は出てくるわ。なにせクロムンブの燻製は作るまでに月単位の時間が掛かる代物なんだから」
「すぐには市場を騒がせるものではないんだな」
「うや。燻製はチーズと一緒で熟成させるのよ、夏に狩って直ぐに加工しても、それが市場に出回るのは早くて冬になるかしら。もし出回るとしたら生肉状態のクロムンブね。披露宴のステーキは美味しかったから人気出ると思うわ」
「分かった」
お兄ちゃん殿下の采配で、色々とめんどくさい各種手配は全て引き受けてくれたのは有難いです。
ただ、この各種手配に記載された団体名が「ちび竜飯の同志会」っていうのは何でしょう。せめて「お出汁の会」とか「美味いもんが食いたい会」とかにしてくれないかしら。
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会議の後、カーバイトとハルト両国の王宮料理人さん達から、大量購入したクロムンブの燻製と黒布草の調理を聞かれて、実演しながら簡単に説明。御出汁のうまさと有用性を熱弁してきました。
説明ついでにうどんも打って、あ。作ってくれたのは王宮料理人さんで、おばちゃんがその辺の指導をしてました。「新米王妃様が好きな食べ物なんですよ~」って言ったら、しっかりメモしていたから、今後もきっと食卓に並ぶと思うよ。
どんぶりを囲む王族、うん。家族団らんの一環としてならアリだと思いたい。ビジュアル視点で外交的にはやめてもらいたいけど、天ぷらうどんの旨さはハマるとすごいからね。
んで、素うどんだけど試食会して、お肉に野菜、トッピングも油揚げに揚げ玉。生卵にすりおろした山芋。天ぷらに忘れちゃいけない薬味等々。勿論御出汁を変えることでまた違った味わいがある事も熱弁しました。味噌煮込みうどんだって、すき焼き鍋に入れたって美味しいのよ。煮込んで良し、焼いて良し、極めつけは釜玉饂飩におかかとねぎ乗せの一品。うちの子の好物よ~!
時間があれば色々作れるけど、王宮料理人さん達の事だから、これだけの説明で試行錯誤をして美味しい料理を考えてくれるでしょう。出汁殻も勿論無駄なく頂く我が家流、おのこしはゆるしまへんで!
「今までのスープとはまた違った旨さだ。これは野菜との相性が良さそうだ」
「ああ、一度素材の組み合わせを変えて試してみよう」
「これ、スープ以外に使えるのか?」
「試しに粉末にして卵に混ぜてみよう」
おおう、流石料理人。すぐさま試作があちこちで始まったみたい。
「これで美味しいレシピが出来て世に広まれば、私も食べる事が可能よね」
「王宮料理が庶民の口に入るのは難しいんじゃないの?」
「うや?」
「まあ、ちび竜ちゃんなら試食させろって言えばさせてもらえるんじゃないかしらね」
「今の王族の代ならありえるわよね」
と、意外な交流を深めて、色々あったひめちゃん達の結婚式は恙なく無事終了。様々な引出物とお土産を荷車に載せて、漸く村についたのは次の日のお昼近くでした。
その後、村の皆から「大量のお土産にびっくり」だの「ちびちゃんのお陰で知名度アップ」とか喜んでもらえたけど、市場に同行したおばちゃん達からいろいろ暴露されて、質問とツッコミの嵐。&羊娘達からも王都の様子やら結婚式の様子から参列者たちの格好、王都の様子、式の衣装等々根掘り葉掘り聞かれました。も、三時間で私が困憊。後日届く映像を見て判断して~っと悲鳴を上げたのはお約束なんでしょう、多分。
それから映像が届くまで、畑仕事とご飯の支度以外はず~っと、風ちゃんと雷ちゃんに引っ付き虫してました。
戴いたピンクのお洋服はローズピンクをぬいぐるみに着せて村の宿屋で飾ってもらい、サーモンピンクは私のお家で作業場の引き出しに封印。あんなド派手な衣装なんて、村人には不要の品だもの。ただしバッチの付いた上着だけは、クロムンブの燻製を手にする為に使うけどね。




