第四話 おねだりされました⑥
やっとかけました。
再投稿で載せきらなかった部分込なので、完全な新作ではありませんが、何とか大会表彰まで行きました。
あの日、村の集会場に何故か集ったあり得ない豪華絢爛な顔ぶれによる【村の美味しい飯を国の名物にしたい】実行委員会の企画会議は、私がご飯の支度に奔走している間も会議は極めて速やかに進み、ご飯を運び込んだ時点でほぼ決まっていったようで、あれから村に王子s以外の王族の訪れは知る限りありませんでした。
ルムックちゃん達も特には言っていませんし、のぞみ達も村の皆も言わなかったので、敢えて気にして無かったの。まさか私の独り言を悉く拾い上げて国が企画していたなんて誰が思うの。それもカーバイト国のみならず、セス君のハルト国まで乗り気で企画進行。その第一弾として会議からたった九十日弱。たったそれだけの間に全ての準備と集客の手配を整えて、年明けの雪深いとある日にイベントが発生しました。
「いや~、意外と人が集まったね」
「こんなところで屋台が出せるなんて思ってなかったけど、意外と売れ行きいいみたいね」
「魔獣除けの器具もあるから、安心して過ごせるのはありがたいわ」
ええ、過疎地に近いタングステン村は畑もするのでそれなりに土地がありまして、村は畑よりも高い場所にあるんです。そこから畑と牧草地が麓に向かってあるので、今回のイベントの会場は牧草地を中心に。
イベントに必要とかで大量の資材や器具も持ち込まれ、それをまた見事な連携で村人達がてきぱき捌いたそう。てか収穫期前のあの殺人的な仕事量を笑顔で片付ける村人ですから、会場の設営なんてお手のものかもしれませんね。王都から技術協力として土木作業者やら技術者として魔術師の方々もいらして、和気あいあいと作業をしてたとか。村に設置された門をそりゃぁもう有効活用しまくりだから出来る荒業です。
こんな田舎に国お抱えの建築士や魔術師、騎士やら文官やら、うじゃうじゃやって来て二日がかりでコースを形成。翌日にはキーじいちゃんに作ってもらったあの橇を大幅にスタイリッシュに改良したバージョンの物が、大量に村の広場にあったそうです。
羊娘たちが目をギラギラさせて事細かに私に報告してくれたのが、つい昨夜の話。ええ、私も吃驚しましたとも。
だからといって、翌日の朝から羊娘を使って私の家族もろとも麓に呼び出しなんて、しかも何も知らぬは私ばかりでした。ルムックちゃんと羊達は知っていたのよ!
私はあれから三日に一度の割合でずうっと家に引きこもり、グレイちゃんから買わせてもらっている粘土を石臼にかけて粒子を細かく砕いたり、お水に浸して様子を見たり、コネコネしては成形してみたりと畑仕事にかまけた時間を趣味に没頭させました。
ルムックちゃん達は寒さをものとせず毎日のように雪の中へとお出かけしてます。村の近隣を駆けずり回るのは良いけど、知らない魔物の話が出るのは心配だわー。娘達や三姉妹達にも小まめに逢ってるみたいで、私宛の伝言があったりしてちょっと嬉しかったりしてます。うや。
そんな私の最新の出来事はやっと完成した湯飲み。粘土の地色を生かした素焼き素材仕様に薄く釉薬を掛けて焼くのが私流なんだけど、ちょっと変化が欲しかったの。
グレイちゃんに相談してみたら研磨用の土を貰ったので、試しに精製して混ぜ混んだら、墨色の素焼きになったのー。だもんでつい熱が入ってね、色違いの湯飲みを幾つかと、色見本用に素焼きタイルを大量に作成しちゃったわ〰️。レンゲは成型と乾燥が意外と難しいから暫くは課題にしないとね。
このタイルは香料を染み込ませて部屋に置いたり、並べて鍋敷きにしたり、ちょこちょこ使うもの。村の一寸したお土産に欲しがるお客さんもいたりするので、大量にあっても困らないのよ。素焼きだから水捌け良いし、割れちゃったら細かく砕いて飲み水の濾過に使う砂にしてるし。型は拘りの桜の花弁。私の手にすっぽり入る大きさのお気に入りよ。五枚並べても良いし、一枚のみで箸置きにしても良いし。
色々焼き色を着けて楽しんでるのも含めれば、既に450枚位のストックが有るわ。ま、趣味になるものなんていくらあっても満足なんてしないけどね。
『りゅーちゃん、怒ってる?』
『怒ってないわ、拗ねてるの』
『拗ねて雷を撫で回すんだ。俺の尻尾もか?』
『ええ、そうよ。風ちゃんと雷ちゃんをもふるのは私の癒しだもの』
年明けイベントの新年の挨拶回りが終わり、雪が久々に止んで、珍しく風も穏やかな蒼天に恵まれた本日のタングステン村は、かつて無いほどの人々と真夏日を思わせる熱気に包まれております。
私の心境をおいてけぼりに、権力者達の後押しと異様なノリにより、年明け早々の晴天に恵まれた本日催し物開催の運びとなりました。何故か私、旗印ならぬ企画立案者&イベントキャラクターとして現在可愛い家族共々舞台に上げられております。しくしくしく。
なぜこうなったか簡潔に書くと。
・企画会議にて私の独り言を聞く。
↓
・そりとは何ぞや?by宰相
・こーひぜりーとは何ぞや?by王さま
・かまくらって?by王子s
・面白そうだから全部話さんかい!by王妃&村長s
↓
(強制図解付きの説明を繰り返す私)
・私の書いた拙い図を基に、マミちゃんと王宮御用達の建築関係者と偉い学者さんやら魔術師さんやらが意見交換を繰り返し、滑走コースを二つ設計。
・キー爺ちゃんの作成した私用の橇はグレイちゃん他、何故か王宮御用達の建築関係者の皆様の滾る情熱にとことん研磨され、一部の騎士様や魔術師様を含めた同士の集まりで「滑降の為だけに再度設計し直し、特化した競技用橇【成人一人乗り】No.29」が完成。私の言うお子ちゃま用の安全設計に特化した「初心者用No.9」も量産済み。おまけに長老の我が儘から【成人一人乗り】初心者用No.10は大人用の仕様です。
・コーヒーゼリーを含めた料理関係は、後日改めて王宮調理師さん達の前にて説明しながら調理。その後王族の皆様を含めた関係者様にて試食品評会が既に開催決定。そのために必要と思われる食材の手配も済んでいるそうです。
・オーレ爺ちゃん他村の自警団の皆様で広場周辺にて多数のかまくらを作成。火鉢を運び込んで大会参加者様の控室&救護室&大会本部としてテント代わりに使用しているとの事。
・タングステン主婦の会の皆様で、冬季限定新メニューとして、鍋焼うどんとチーズフォンデュを展開。寒い中で食べるのは格別との評判を頂いているそうです。
と、此処までが私の独り言から派生した事柄です。が、他国まで巻き込んで何してんのよぉ。何でわざわざ今回の指揮を王妃様が直々に取られるのは如何なものだと思うんですけど。村長まで王妃さまに気安く話しかけるのいいのかしら。
「構わん。些末な決まり事で伝達事項に時間を取られるより余程良い」
「王妃様は並の男より人間が出来とる。話が判るし器がデカイ、儂らと話していても真っ向から向き合ってくれるから何より気持ちが良い。王様じゃなくとも惚れるのも無理ないわな」
「元々騎士としての立ち振舞いがそうさせるのだ。王妃としては問題なのだが、生家が代々騎士の生まれ故にすぐには直せぬよ」
お付きの方に聞いたら、王妃様のファンクラブ的な団体が騎士時代から既にあったそうで、規模は我が国のみならず。他国のご婦人がたや商人は言うに及ばす、王族ですら魅了しているとの事ですって。
宝塚の男役ってどこの世界でも人気あるのねぇ。格好いいって世界不変の理ことわりなのかしら。
「それでは。ハルト国セルシウス王太子殿下とカーバイト国ルーメニア第一王女殿下のご成婚記念企画、タングステン村発祥、第一回ちび竜ちゃん杯単騎橇・滑走部門大会を開催します!」
ちょ、なにそのネーミング!
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『真冬の蒼天広がる穏やかな気候に恵まれましたここ、カーバイト国内タングステン村の特設会場に設けられた白銀のコースでは、早くも静かなる熱き闘いが繰り広げられております。目の前の障害を誰よりも早く越えて行く、ただそれだけの事に一喜一憂しながら、人々は熱くその闘志を燃やしております。
山肌を利用し色別された雪山を定められた方向に旋回しながらそのかかった時間を競うコースは、王都バルト屈指の建築家によるデザインが採用されたかなりの難関となっております。このコースの序盤に設けられた急こう配のカーブをいかに早く通過するかが最初の見どころとなっているとのコメントもいただいております。
今回は記念企画ということもありまして、参加者は身分の貴賎問わずとなっており、予想外の300名越えの有志が既にエントリー済です。コースのデモンストレーションとしてここ開催国の第二王子ファーレン=ハイト=カーバイト殿下による滑走が、いまゴールとなりました。ファーレン殿下の記録を元に、入賞者の基準が決められております。
なお企画立案者&イベントキャラクターの意向により、12歳以下の参加者はスタート位置を変更したショートコースでの参戦となります。予めご了承下さい。
目映い日差しを跳ね返す白い雪原と化しておりますここ、タングステン村の牧草地帯の中に設けられました特設試合会場は、熱く闘志を燃やす男達の熱気と気迫に満ちております。デモンストレーションが終わったことで、第一滑走がスタートする模様です。
特設試合会場内の観覧席から誰もが熱い視線を向けております。その視線すら振り切るような勢いで、いま一台の橇がスタートしましたぁ!
急勾配な坂を猛烈な速さで駆け下りています。ある程度の速度を保ったまま、まずは最初左旋回へ入ります、うまい! 速度を殺さないようにコースぎりぎりを抜けていきます。これはかなりいい記録が出そうです』
なんて、絶対あの岩場からこちらを鼻息荒く見守る羊達は、こんな実況してるんじゃないかしらね。さぞかし興奮してるんだろーなー。怪我とかしてなきゃいいんだけどなー。
「速さと正確な旋回を競うのね、上手いこと考えたねー」
「それに村人でも騎士様でも関係なしなんて珍しいわ。なんだか闘技大会みたいね」
「今回は婚姻祝いの為の記念祭りだが、これだけ盛り上がるなら継続するのもいいかもしれんのぅ」
「雪遊びにこのような祭りが出来るとは思わなんだわ」
うん、村人たちも興奮してそう。初心者用の橇でこの後マネするんだろうなー、安全対策に関してしっかり対策しておかないと、こまるんだろーな。王妃様、自分も出るとか言わないんだ。ちょっと意外かも。
ずぞぞぞっと温かい麦茶をすすりながら観戦中の私と、芋かりんとうを頬張りつつ引っ付いている家族がいるのは、コース内に幾つも設置されたハルト国の魔術絡繰り(まじゅつからくり)愛好家たちの、偵察用監視機の映像を映し出している、ゴール近くの表彰会場兼貴賓席な特設舞台。一応村内の大広場にも同じ仕掛けがあって、そこでも見れる仕様なんですって。
ハルト国って奇人変人がうようよしているんじゃないかしらね。魔獣を愛でる宰相さんとか、魔術絡繰り愛好家とか。
オーレ爺ちゃんが、羊たちの為にお願いして同じものを羊達の籠り小屋にも設置済み。音声も拾ってるから殆どテレビ中継と変わらないわ。これで解説者と実況アナウンサーが居れば完璧ね。
あ、因みに特設舞台ってのは表彰式をする場所のことよ。今はそこにちゃぶ台と火鉢が置かれ、真っ赤な特大ふかふか座布団が置かれ、その上に私と風ちゃん雷ちゃんが乗っかって、モフモフ饅頭状態になってます。
珍しく晴天無風状態でも今は真冬。況してや雪原の屋外は冷え込んで寒いのよ。王宮魔術師さん達に風避け魔法をかけてもらっている本部内ですが、底冷えは否めません。お茶を沸かすためと暖房を兼ねて、火鉢に土瓶をかけてお湯を沸かしてます。傍らには急須に湯呑みもスタンバイ。本日持参のお茶請けは角切り大根の花密漬け、どら焼、干し生姜に芋かりんとう。お茶は麦茶を用意して、ちびりちびりと水分補給しております。
ルムックちゃん達は王子様御用達のおしのび魔法を今日限定でかけてもらい、出会った頃ぐらいのちびっ子姿で引っ付いてます。理由は元のサイズだと村人以外が怖がるのだとか。一応魔獣扱いだものね。あとは二人がひっつくと私が埋もれてほとんど見えなくなるから。別に私がここにいる意味はないと思うのよねー。
あと此処が肝心というか、万が一二人を不埒な考えでおさわりしたり拉致したりする人が居たら、私が二人を座布団ごと抱えて飛べるようにする為でもあります。此処重要!
その為に作られた特製座布団は、なんと王女さまからの頂き物。その代わり表彰式まで座布団の上に家族で居て欲しいとおねだりされました。私やルムックちゃんを見たいという要望が多かったんですって。その為に苦肉の策としてのぞみたちに意思疎通の術使って話を通し、ルムックちゃんになんとか交渉して、このスタイルになったんだそう。ま、二人が納得してるなら私は文句言いませんよ。
王女さまはルーメニアさまってお名前で、セス君のお嫁さんになるんだって人。見た目はサラサラの黒髪に水色の目の知的美人。会えるのを楽しみにしてたとか、今日のお茶請けはなぁにとか、話される姿は年相応な女の子で可愛い方です。私のことを「ちびちゃん」と呼んでくれるので、「なあに、ひめちゃん」と返したらすっごく綺麗な笑顔を戴きまして、セス君が「ずるい」ぶー垂れてました。滅多に見せてくれる笑顔ではなかったんですって。うや。
王族の皆様をはじめ、私達からちょっと距離を取ってくれるのもルムックちゃんと約束したからですって。妙な位置に拉致られたなぁと思ったけど理由が分かるとくすぐったくてなんだかクスクスと笑っちゃったわ。
今日だけは見晴らしの良すぎる特等席で、のぉんびり競技観戦に浸りましょ。
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この競技、最初はなかなかまともに滑るのも難しいらしくて、ゴールまでたどり着けない参加者が続出。ま、いきなりこんな滑走を橇でやれって言われても、誰だって難しいと思うのよ。それでも楽しんではもらえたようで、悔しがったり喜んだり笑ったり。子供たちも混じって皆さん何とか夕方前には全員滑走終えました。現在各順位を記録する為に纏めている真っ最中。
因みに時間は国軍の諜報部の皆様のご協力のもと公平に計測と記録がされて、今後もこのイベントが行われることが勝手に決められ、今後も企画立案者&イベントキャラクターとして名が残る事になりました。不本意よぅー。
このコースも一月後には建築士や魔術師立会いのもと、撤去されるとのこと。それまでは監視員と救護員立会いの下、日中に限り滑走を許可されました。うちの村長と王妃様とハルト国の女王様の最高権力者の連盟宣言で。
ハルト国の女王様はセス君の伯母さんにあたる方で、前王のお兄様と義姉さん夫婦は落石事故で亡くなっているんですって。正当な後継者のセス君はその時まだ二歳。女王様はセス君が王様として立たれる日まで「あくまでも一時的な代行」として、当時セス君の剣の指南役であった現在の王配様とご縁があって婚姻したそうなんだけど、セス君が王様になったら実家のある領地で旦那様とゆっくり隠遁生活をしたいんですって。あらま。
あ、そうだ。せっかくハルト国の人がいるんだから、寒天があるか聞いておかなきゃ。出来れば定期的にでも購入したいもの。
「ちびちゃ~ん、ちょっと相談していい?」
「うや、セス君何か問題発生?」
「うん、だからおねだりしていい?」
「おねだり?」
羊達は間違いなく笑い転げてますわ。ルムックちゃん達、退屈してたからってそんな嬉々としてこだまと運んでこなくてもいいと思うのよ。確かに私お手製の代物ですが、そんなに珍しい代物ではありませんよ。
「第一回ちび竜ちゃん杯単騎橇・滑走部門大会の優勝者は、参加番号86番。エボーニ=バフベルト選手」
歓声が上がって、姿を現したのはちょっとだけお腹の出た中年のおじさん。ハルト国の衛兵さんなんですって。
そしてびっくり、なんとキー爺ちゃんのお弟子さんのキールちゃんが第三位で入賞してました。意外と軍隊関係者さんはあまり参加しておらず、裏方に回って運営をしていたんですって。お城の文官さんとか商人さんとかが今回は多く参加していた為、ゴールまでたどり着けない参加者が続出したのはそのせいらしいわ。
そりゃ、日頃と全く違う運動ですもの。明日筋肉痛になっても知らないわよ。
「今回の入賞者に、今大会の&イベントキャラクターより記念品の授与に移ります。ちび竜さんお願いいたします」
セス君のおねだりは「私の最新作の湯吞を入賞者に記念品として渡したい」と。確かに製作した数は全部で10個ほど。しかも今回私の趣味全開の丸みを帯びた取っ手無しのマグカップ型。〇印良品とかにありそうなデザインで作ってみました。全部色違いなのは試作品だからよ。
勿論この世界にもカップはあるけど大体が丈夫な金属製か、比較的丈夫で安い木製。ガラスのカップは高級品になるので、一般にはあまり出回りません。陶器の食器はお皿くらいね、重いから。
私の場合粘土をブレンド。私の火で焼き上げる特殊仕様なのでかなり重量が軽減されてます。どうやらこの方法、私しか出来ないみたい。量産は気分次第ですとも。
一つ一つ、おめでとうと伝えながら渡しました。入賞した商人さん達はその軽さに吃驚してますが、販売はしない旨をちゃんと伝えてもらいました。特別な記念品は簡単に手に入らないからこそ価値がある、と。
裏方を含めればこのイベントに関わった方は420名近くになるらしいので、参加賞として私のコレクション、桜の花びらタイルを全部提供しました。使い方も一応伝えて。ま、記念にはなるでしょ。
これがきっかけで橇大会に使われる公式エンブレム、桜の花びらに竜ってデザインが決定したって。ひめちゃんから聞いたんだけど。次回はコレが入ったマグカップの作成が決定って、ことかなぁ。




