四話目 おねだりされました④
我が家は基本無臭。私の好みもあるけれど、余計な匂いはご飯を美味しく食べられませんから却下です。作業小屋はエニールという檜のような香りを愛用してるけど、それも基本はほんのりと香る程度。気分を切り替えるのにはうってつけよ。
誰かが来たら匂いで大体の判断付くの。ルムックちゃん達ならほぼ間違えることもないの。記憶力がすごいわ~。自分じゃあまり気が付かないけど、私の匂いもちゃんとするんですって。毎日お風呂してるから自分じゃわかんないけどフワモコの縫いぐるみは私の匂いがする~って、雷ちゃんがよくじゃれてるわ。すっかりくたくたになっても大事にしてくれるので、私としては有りがたいやら笑いたいやらな心境です。ま、ヌイグルミの代わりに二人に引っ付いて寝てるからお互い様なんだけどね。
ヌイグルミと言えばニオブさんも引っ付きたがる一人ね。年に一度の納税価格確定時期だから、忙しさもそろそろ終わる頃。ステアさん、なんか最近多忙で村には最近顔を出していないけど、元気してるのかしらね?
来年のお年始、ニオブさんには私のヌイグルミでもあげたらいいのかしらね、それともご飯の方がいいのかしら。
ルムックの二人にも小さいけれどお年始を考えてるわ。お洋服は不要でも、二人の抜け毛をこっそり溜めて作っているフエルト細工の人形ならどうかしら。何せまだ不馴れなものだから、羊達の毛で練習してるけど、あのひょこんとした耳と表情を作るのがものすごく大変。でも二人の喜ぶ顔が見たいからおばちゃん頑張るわ。喜んでくれるといいんだけど。
あ。冬支度も終わったから、そろそろ王妃さまのお菓子作りを考えなきゃかしら。ちょっと手の込んだお菓子、甘くなくて珍しくて、私でも入手可能な材料でって、王宮の職人さん達に相談出来ると助かるのに。新年のお祝い用にっておねだりしてみようかしら。
つらつらと考え事をしながら、ご飯の支度します。最近は汁ものと麦ご飯ばかりだったので、蒸かし野菜入りの蒸しパンと味付け鶏肉のピカタ、お野菜ポタージュと甘い卵焼きです。
甘い卵焼きはルムック達に好評な一品で、一頭一巻食べます。
私は軽食の差し入れぶんも合わせて作るので、四巻作って余ったら貰うかな。
『やた、卵焼きだ。りゅーちゃん食べていい?』
『あ、俺これがいい』
『いいわよ、お残しはゆるしまへんで?』
鶏肉は昨日の焼き鳥の余りなので、結構あります。差し入れぶんもしっかり有りますよぉ。
『おいしー♪』
『りゅーもしっかり食えよ、持たねーぞ』
『食べますよ、私は食い意地なら村一番です!』
『たくさん食べれないのが悩みだもんね』
『そうね、沢山は無理。だけど食べたいものならマダマダマダマダあるから諦めないわっ』
『野望は叶いそうか?』
『風ちゃん、叶いそうじゃなくて叶えるの。一生かけてでも達成させて見せるから!』
その為にはお米を見つけるのは必須項目よ、白米あっての日本食。糠床によるお漬物。お米が在るなら米糀も見つけられるかもしれない、そしたら日本酒だって作れちゃうかもしれないし、もしかしたら味醂だって出来るかもしれない。
お米があれば、きりたんぽ鍋やらお雑炊、お煎餅も作れるわ。炊き込みご飯も炒飯も。うふふ、そしたら私米農家するべきかしら、いやいや、酒蔵も要るじゃない、そしたらご飯やさんだって魅力よね。問題は私の体力が無いことと、商売する気が全くないって事実。自分が食べたいものを作ることにかけては情熱───村人曰く「ありゃ執念の間違い」───を注げるけど、商売する気は全くないの。なのでその辺をワイフちゃん達にお任せしてるのもあります。
以前に作った石臼も、今回商人さんにお披露目して売り込んでいるし、私のレシピもミーナお姉ちゃん管理のもと、村の財産になりつつあります。但し、ポン酢やお好み焼きソース、マヨネーズはレシピにしてありません。作り方自体が村の財産になるんだそうで、門外不出の扱いになってます。主に村長の我儘で。
『んじゃ、行ってくる』
『りゅーちゃんもこだま達に会いに来てね、さみしがってるよ』
『わかった、お昼頃に行くから伝えてね』
『はーい、いくよー』
きれいに食べた二人を見送って、さてさて私もキー爺ちゃんの処に行ってきましょ。
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冬遊びの定番はやっぱり雪遊びでしょう。
水分の少ないパウダースノーが主体のこの地で雪だるまやカマクラはちょっと向かないので、スポーツ系に目を向けてみました。
平地が少なく背の高い木々の少ないこの村では、橇は存在していません。そもそも雪が春先まで解けずに残るほど降るのは、カーバイト国を含めた一部の国だけなのだそうで、降雪地域に人が住んでいるのはカーバイト国ぐらいなんだそう。当然、山間とか勾配が多い地域を歩く滑り止めとか、雪の中をを歩きやすくする為のかんじきとかはあるけど、橇は一部の商人さんが運搬車の代わりとして使う代物。なので雪でも動ける引手を持てる方が当然必要となるのですが、戦争前は火吹き竜だったとか。戦争で数が激減した上に保護獣と化したので、今は調教した魔獣を使った馬車運搬や、魔法を使った門を使い流通を確保する時代なんだそうです。
なので知識的に知ってる人は居ても、実際に目にしたことは無いなんて人が殆どと聞いてビックリ!
「うや、じゃあ橇遊びなんて知らない筈だわ」
「そりあそび?」
無いならつくればいじゃなーい、ってなノリで手頃な空き小箱と廃材を貰って、進行方向を変えられるようにハンドル、サイドブレーキ、ペダルブレーキ付きの大人用一人乗りサイズの橇完成っ!
「うや、私じゃ足が届かない」
「どれ、なら」
と、お昼前には私サイズのサイドブレーキとハンドルがついた極小サイズの橇も完成っ! 職人ってスゴーイ!
しかもそれぞれの橇の底板に薄い鉄板を張り付けて耐久性の向上まで図る凝りよう。
「雪が積もったら斜面をこれにのって滑るのよ。絶対子供達楽しめるわ。ルムックちゃん達も遊べるといいんだけど、まだ人が怖いって云うからこだま達にお任せしてるのよ」
「ちびはルムックの為にこれ作ったんか?」
「皆で楽しんで遊べるのがあればいいなって思ったの。身体を使って遊べるから夢中になって仲良くなれたら~って」
「ま、ルムックがこれに乗るのは難しいだろ、羊よりもでかくなってるし」
「そうだね。チビ竜ちゃん位だったら一緒に乗って遊べるけど、あの大きさじゃ難しいな」
「ううっ、最初はコースを作って時間を競う大会方式のやり方にして、順位を着けて、表彰とかすれば、とっても盛り上がると思ってたのよ。タングステン村冬季雪上橇大会とか、毎年やったら名物にもなるし、祭りにして人も呼べるから村起しになると思うんだけど、それで、薬草泥棒されたりルムックちゃん達が怯えるのは困るから諦めたの。村の皆だけなら問題ないかなーって、試しに作って貰ったけど駄目よね。これじゃ」
「そこまで考えてたの」
「着目点は良いが、犯罪に関しては軍に対応を願うしかねェんじゃねーの?」
「あの王子さまが、こんな楽しそうな大会なんて見逃すはずないと思うよ」
「うや、安全面でも問題あるわ!かなりのスピードが出るのよ、そのまま操作を謝って人やら岩やらに突っ込んだら大怪我しちゃうわ。村外れだって簡単に行っちゃうのよ。安全かつ楽しく遊べるためのコース設定と万が一における救助の充実。これが出来ていなければ御披露目は一切しません!」
「場所を選んで遊ばないとダメってことだね。あと時間も決めないと監視出来ないってなるわけだ」
「こりゃ、村長と青年団に相談だな」
トーンちゃんが通達に出掛け、キー爺ちゃん達が私の言った条件のもと橇大会の企画書を橇の現物を添えて自警団に提出したのは、私がのぞみ達の処に行った後。偶々訪れていたお客さん込みで企画に承認が条件付きで為され、更に私にとって恐ろしいイベントが決定されているのを、全く知らずに遭遇するまであと三時間。
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日中の村郊外に居るのぞみ達の側には必ず誰かしら娘達が居ます。数はともかく、子羊たちだけの時もあれば強者レポーターだらけの時もあり、こと日中は話し声が途切れることはほぼありません。
娘達。そう、噂話は心の潤い、お喋りは呼吸と一緒、内容の大小なんて関係なし。週刊誌の編集部の記者の如く、人間社会の情勢からお隣の今晩の御飯の献立まで、特に愛憎籠った話ならどこまでも噂話に関しては強欲とも言える羊娘達が。
『あ~、チビ竜ちゃんだぁ~。ねえねえ、何かおもしろい話なぁい?』
『この国の王女が隣の国に嫁ぐのって、あれって建前で本当はうちの王子を欲しがってたって話が本当なんだって知ってる?』
『そうすると相手はまだ今年生まれた、王弟の娘ってこと? やだ、確か行き遅れ寸前のが居るって話はどうなったのよ』
『それは先月国内の貴族に降嫁したって話よ。歳の差夫婦って聞いたわ』
『歳の差っていったらレグナン公爵とこの夫婦がすごいじゃない。孫と爺で番うなんて正気の沙汰じゃないわ。んで、三人の子供が居るのよ。お盛んよね』
『うちも見習わなくちゃねー』
のぞみってば、毎回この賑やかなお喋りのなかでよく群れを見てられるわねー。情報の選択が上手いのかしら?
『面白い話はないけど、王様と王妃さまに逢ったわ。王妃さまの口調が男前でビックリよ』
『あらあらあら、そうなの?』
『じゃあ王様は?』
『普通の優しいおじさんかしら。焼き鳥片手にニコニコしてたわ』
『ということは平凡と麗人ね。王子は無邪気を装った確信腹黒、王女の性格はどうかしら?』
『うや~、どんな出会いだったのやら。もしかして王妃さまが婿に来いっとか言ったのかしら』
『確か当時近衛騎士だった王妃さまに、出会い頭に一目惚れした王様がヘタレ子羊根性のままアタック。あまりのヘタレっぷりに姐御属性の本性がびんびん刺激されて、王様としての絆されての婚約じゃなかったっけ。近隣でも滅多にない恋愛譚として知られているのよね』
『ああ。王都じゃ有名な[雄々しき騎士と庇護羊]って舞台の基になったあれでしょ、男女役を入れ換えた配役で人気あるって聞いてるわ。今度は王子の代になるのかしらね』
ラクレコム娘の辞書に沈黙はなさそうね。ってかそれほんと?
『ちび、冬篭りの準備は?』
『うや、ほぼ完了したわ。のぞみは?』
『籠り小屋は問題ない。風と雷はどうする?』
『はじめての冬越しだから、色々体験させて様子見かしら。雪すら見たこと無いそうよ』
『ええー、ルムックちゃん、雪を知らないの?』
『まだ子供だもの』
今年の冬の終わり頃の生まれだし、二人が見たこと無いのも頷けるのよね。生まれた国はさほど降らなかったようだしね。勿論籠り小屋にも遊びに行くから宜しくね。
さて、のぞみ達への挨拶も済んだし、娘達への置き土産は、こぶとりじいさんをしてきました。鬼は犯罪集団に置き換えてしまったので、どんな評価になるやら。
因みに前回のないたあかおには、『男気溢れる友人を失った八方美人の後悔 番にしたら苦労する見本』という評価を子羊達が下し、『傷付けた友人を死物狂いで探し出し、許しを乞うて傷を癒しながら、愛情を持って大事に接しながらモノにする位の気概がなければ主人公失格 そのまま後悔しながら泣き暮らせばいいのよ』と、辛口な評価をつけていた娘達。
勝手に後日談やら捏造していたみたいだけど、詳しくは聞きたくないわ。だって、赤ルムックと青ルムックの友情話な筈なのに、そこからすれ違いのまま遭難するわ、ようやく会えたら記憶障害になるわ、偽物が現れて翻弄するわ、記憶が戻ったら誘拐されて殺されかけるわの火サス展開に刷り変わってるのよ。荒筋だけで疲れたわ。
気分転換して麓に差し入れ持っていこーっと。
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「ちびちゃん、作戦会議よ。今こそ集大成をお披露目よ。さぁ、用意はいいかしら?」
「うやぁぁ!なになになに?」
村の集会所に顔を出すなり、取っ捕まったチビ竜ちゃん事私です。大きな部屋の中にはマミちゃんにセンセー、ニオブちゃんにグレイちゃん、ワイフちゃん一家にオーレ爺ちゃん他数名。ん、此処まではいいのよ。問題は、何故かでっかいレン君とセス君と、お祭りのときに見掛けた隣国の宰相とヘタレ国王様と男前王妃さま、更に知らない方々が雁首揃えていらっしゃいますの?
何時からこの部屋は、国の要人が気軽にホイホイ顔を出すような場所になったの。
「チビちゃん、僕の家族だよ」
「はじめまして」
「うちの子がお世話になってます」
セス君や。そんな爽やか~な笑顔でお宅の国の最高権力者夫妻を気軽に紹介するのはなんのお仕置きですか。気軽にご紹介されるお二方も、なんでそんなにいい笑顔なんですか。おばちゃん何か悪いことしたのかしら。ド田舎飯を食わせた事? それともお残しはゆるしまへんでって怒った事?
「わ、今日のご飯なあに?」
「随分変わった代物よのう。ふむ」
ヘタレ王様ー、ニコニコ顔で仰るのがそれですか。何なのこの顔ぶれは。
本日の茶請けは野菜を練り込んだ三色団子と、お馴染み肉饅頭。干し根菜の戻し煮と甘い卵焼き、漬物三種と温かい薬草茶の軽食擬きになっておりますが何か文句があります?
王妃さま、お毒見なさらなくていいんですか? 豪快に肉饅頭に齧り付く様も格好いいなんて、産まれてくる性別間違えてません?
対照的に一つずつ団子を噛み締めてニコニコしながら食べてるのは、宰相さんとグレイちゃんと王様。おじさんなのに小さい子供みたいで可愛いというか、王子達や王妃達の豪快な食いっぷりとの対比がなんとも云えません。
セス君のご家族こと、お隣の国王夫妻は漬物と卵焼きがお気に召したご様子で、村長とマミちゃんと仲良くポリポリ食べる様がなんともほのぼのしております。生前に教わった”このもん”のタングステンバージョンは止まりませんよ~。
今日は暇人が多いだろうから絶対多めに持っていくべきだと思って、肉饅頭を追加してよかったわ~。ご飯は円満な人間関係において必要不可欠。うん、お茶美味し。
処でさっきのワイフちゃんの作戦会議とは何ぞや? と、聞いてみたら。
「タングステン村発祥料理の数々を国外へ広める為に、結婚の宴の料理に加える正式な契約が先程結ばれてたの。特にこんな軽食はそのまま出して欲しいそうよ」
「軽食って肉饅頭とか?」
「うむ、式典の合間に訪問客に振る舞うのに丁度良いのでな。これなら肩肘張らずに手軽に口にできる。警備や準備に追われる城の者にも重宝する。ついでに宴用の料理を幾つか考えて欲しい。我が国の名物として国外に広く知らしめたいのだ。チーズ煎餅だけでは些か印象が弱くて決め手に欠けるでのう」
「チビちゃん、俺はこの村の食事を是非知って欲しいんだ。だってありふれた材料で、すごく美味しいんだもの。うちの料理人達も驚いているんだよ?」
王妃さま、ホント〰️にチーズ煎餅お気に入りなんですね。決め手にって何をなさるおつもりですの。肉饅頭と漬物はお気に召しまして?
レン君、ホント君は何をしてるのやら。お城の人にあんな田舎の家庭料理を食べさせてどぉすんの。
ってか私、知らない間に王様に手料理食べさせていたなんて、ホント勘弁してよ。
「今さらなんですけど、どうやって私のご飯を王様が口にしたんです?」
「ニオブ監査官に持たせた土産があまりの旨さに献上されたのだ。甘くない癖に旨くてな、私が甘味があまり口にせんから、王が何か無いかと部下に愚痴っていたらしい」
「因みに父さんは甘いものも食べる人だから、豆饅頭とかは食べるよ」
壁際の人達がウンウン小さく頷いているから嘘じゃないのかしらね。あ、良かったら皆様も肉饅頭とお茶、召し上がってくださいねー。お疲れ様です。
「んでね、ちびちゃんのご飯を食べて、お姫様の結婚式に目玉になりそうなお料理を作ってほしいんですって」
「謹んで辞退させて頂きます」
「なんでー?」
「ダメ?」
ワイフちゃん、ニコニコしても駄目なものはダァめっ!
レン君とセス君、おまけに国王さま。いい歳してそんな棄てられたワンコ見たいな目ェしたら、知らないオジサンに鼻息荒く連れ去られるからダメー!
あ、腐った頭のおっきなお友達って言い直した方がいいのかしら?




