三話目 ちび竜のオトモダチ♪④
穏やかなマミちゃんの声音に怒りがにじんでます。
「幸い春野菜を植えるために耕した直後だったので被害は少なくて済みましたが、ゴミのなかに信じられないものが混じってましてね。その為やむ無く国軍に連絡を取りました。」
…何だろう、すごく心当たり在るんだけど。そういえばルムックちゃんにもメダルがつけられていたのよね。あれ、どうなったのかしらね。
「物理的な破壊はされていましたが、術式は活きていたので直ぐに分かりました。違法な“捕獲”をする為の術式です。」
ルムック兄ちゃん、あの箱この村まで飛ばしたんだ。ってか届くって冗談だよね?
「そして今朝方、ベルガコムに運ばれたちび竜ちゃんと二匹のルムック。片方にはまた別の捕獲式がかかっている状態でしたから、私が処置して外しておきました。かなり衰弱してますから暫くは世話が必要でしょう。」
回復には時間が掛かるんだ。ルムック兄ちゃん、また心配するだろうな。
「外してくれてありがとね。ルムック兄ちゃんの大事な仲間なの」
恩人の大事な仲間なら、私の出来る限りの事はさせていただきます!
「ちび竜ちゃんの話と、昼過ぎに戻った羊達が運んできた荷物で、国軍が今回の件を片付けると思います。なので、現時点でのちび竜ちゃんのやることは、昨日仕込み損ねたご飯作り及び、保護したルムック達の介護。後、ベルガコムたちとオーレさんを寄越すから、話をする事。後、捜索隊として国軍から息子達が来てるから顔を見せなさい、以上です。」
「国軍って、そんなに早く来れたっけ?」
確かニオブさんは王都の役人さんだよね? タングステン村から王都迄って歩いて2日は掛かるって云ってなかったっけ。
「先日、この村が知的文化財産保護区として国から許可されたんですよ。申請者は息子達と王立研究所です。この村の食事とフロストリーフ、そしてちび竜ちゃんが対象だと訊いてますよ。その為王都直通の魔術門が村の広場に仮設置されたので、この早さで国軍が来れたわけです」
「国に保護を受けるほどそんなに変わったごはん、合ったかしら?」
「ちび竜ちゃんの、うどんに茶碗蒸し、マメまんじゅうにチーズせんべい、団子に麦茶、ピクルスにお好み焼き、マヨネーズにクレープにクッキー、どれも現在王都で話題の食べ物ですよ。」
「うや? 唐揚げは人気無いの?」
「息子曰く王都でダントツの人気で出回っているそうです。味はちび竜ちゃんには敵わないそうですよ」
「何でだろう、お醤油が違うのかしらね?」
炊き込みご飯と炒め物をワンプレートにしてマミちゃんの前へ。ルムック兄弟の分は、別皿にそれぞれ盛り付けてあります。勿論私も頂きます。
炊き込みご飯は少量の塩をいれ、野菜炒めは少量のお酒で炒めてあるの。これに出汁たっぷりのとろみ餡を掛けて餡かけご飯で食べるのよ~、うふ。野菜が美味しいから出来る食べ方よね。
「餡かけご飯ですか。これならルムック達も食べれますね。」
私とマミちゃんは、これにお醤油を掛けて食べますが、野生の魔獣はおそらく口にした事がないと思うので、出汁以外の塩分は極力抑えたメニューにしてみました。
静かな隣の部屋にそーっと声を掛けてみます。起きてたらいいな~、みたいな感じで。
『ルムック兄ちゃん、起きてる?』
声を掛けてからそっと部屋を覗いて見ると、黄色と茶色のふわふわモコモコ毛玉様(←ここ大事!)がコロンと丸まってまだくぅくぅ寝てます。すぴすぴと鼻を鳴らしてます。うや、可愛い!
生まれて一月以内の子羊達とたまに見かける鳥を除けば、ご近所で柔らかな体毛を持つ生き物って最近見かけてないかも。なんか萌える~。
マミちゃんと旅をしていた時分でも魔獣は遠くから見かけた程度、近くて虫系のに襲われた位。他の村や町なら、愛玩用の魔獣って飼っている人も居るわ。でも、基本的に魔獣って大きいのよ。子供の頃なら私よりも小さい種類もあるけど、成獣すると大概が体長が人間並みになるの。ラクレコム達もそうよ。前世の酪農牛と同等の大きさね。子羊たちですら中型犬並の大きさだから、私が乗っかってもぜーんぜんへっちゃらで走り回るし。
そんなラクレコム達をペットにしてる人も居るかも知れないけど、羊って基本臆病だからね。群れることで安心するみたい。何よりお喋り好きなのは私もよく知っているし、退屈とストレスが溜まると病気になるわよ。人間だったら間違いなく好奇心旺盛なマスコミ関係者か、CIAとかの諜報員になってる筈よ。腕はともかくね。
だからオーレ爺ちゃんは娘達の様子に気を配っているの。私が話出来るって知った途端に、愚痴聴いてやってくれって頼んできたもの。
あらまた話が逸れちゃった。
ふわふわ毛並みをもふもふするのは、ルムック兄ちゃんが起きたら相談してみるとして。とりあえず少し離れた所にお水と果物とご飯を置いておく。
『お腹空いたら食べてね。苛める人は近寄らせないからね。早く元気になるんだよ?』
声、掛けたのが不味かったのか、ぱちくりと、茶色の目が開いちゃった。うや。
『…あれ?』
『起きちゃった?』
もう一回ぱちくりすると顔を此方に向けた。
『…チビは?』
『隣に寝てるよ、かなり弱ってるけど大丈夫だって。ルムック兄ちゃん具合は?』
ノロノロと顔を向けて、視界に黄色の毛並みを写すと、暫くぼぉーっとしていた。
『俺は大丈夫、火吹き竜は?』
『も、平気』
『そか。ここは?』
『タングステン村の私の家。私が二人を運んだの。もう大丈夫。お腹空かない?』
『空いてるけど、まだ耐えられる』
『ルムック兄ちゃん、良かったら食べて? たくさんあるからいっぱい食べて?』
ルムック兄ちゃん、どうやら寝起きと空腹で、頭がボーッとなっていたらしい。減塩餡かけご飯をクンクンしたかと思うと見事な食欲を発揮して平らげ、そのままコテンと寝落ちした。
マミちゃんの見立てでは、空腹状態での魔力全開放出したので次に目が覚めるまでは寝かせておけば問題ないとのこと。ほっ。ルムックちゃんはいつからこの状態なのかわからなかった為、せんせーに見てもらった方が良さそうとのこと。
とりあえずご飯を食べ終えたマミちゃんは、村人たちと国軍へ連絡を取って、例の裏依頼の件ともども手配に回ってくれました。魔獣の密猟はあらゆる意味でも後の禍になりかねない危険行為だもの。私も今回は被害者側として訴えてもいいと思うわ。証人ならかって出るわよ。
取り敢えず、寝落ちした兄ちゃんの口回りや顔、手足をおしぼりで拭い取ってから再度お布団へ寝かせておいた。お疲れさま、ゆっくり休んでね。
表に出てみれば綺麗な夕焼け空が広がっていて、結構寝こけていた事実を再確認しちゃったわ。じゃあ昨日の仕込みの続きを始めましょうか。と、言っても鳥唐揚げと焼き鳥の準備だしね。 ついでに芋も揚げようかしら。お酒に合うのよね。
せっせと身体を動かして、大量の揚げ物を仕上げつつ焼き鳥も頑張りました。油臭い身体がとっても不快感だけど、料理は仕上がりました。イェイ‼
さてどうやって運べばいいのやら、と思ったら
「おう、ちび居るか~?」
「居ますよ~、オーレ爺ちゃんいらっしゃーい」
図ったようなタイミングでオーレ爺ちゃとベルガコム三姉妹が訪ねて来た。狙ってたりしてねー。
「具合はどうだ?」
「心配掛けてご免なさい。いっぱい寝て、さっきご飯も食べたからとりあえず問題ないわ」
「そら一安心だわ。昨夜はちびが居なくて娘等がえらく興奮してな、三姉妹は不機嫌になるわ、村は大騒ぎだったわ」
「うやー、いきなり誘拐されるとは思わないからねー。んで、ひかり達の機嫌は直ったの?」
「ご覧の通り、すっきりしてらぁ。荷物とゴミも国軍に引き渡したし、下の広場で慰労会兼ねた宴会してるから顔出せや」
「そりゃもちろん出すわ。ついでに揚げ物運ぶの手伝ってよ、さすがに一人で運ぶの大変なんだもの。ひかり達もお願い、助けて?」
声を掛けると三姉妹揃って応、と応えるのが嬉しい。
とりあえず大皿に大きな籠を被せて紐で固定してから三姉妹の背にそれぞれくくりつけ、私とオーレ爺ちゃんでそれぞれ持つと、村の広場へと向かいます。とてとて歩きながら、あれこれ雑談してるのは実は三姉妹とオーレ爺ちゃん。私は主に通訳してるわけ。
三姉妹の話をかんたーんに略して話すと、私が居なくなったのをラクレコム達が噂しているのを聞いて、のぞみとこだまが探しに出かけた事。ひかりは二人が夜明けまでに戻らなかったら全員で私を探すと通達した事。夜明け前に戻った二人から私の経緯とルムック兄弟の事情を知り、一部のラクレコム達を私の家の前でバリケードさせ、せんせーとマミちゃんを私の家に押し込んだ事。その間に誘拐犯五人を探しだし、怒りの鉄槌を下した後で村まで引きずり倒した事。
おまけでラクレコム達の暇すぎて退屈していた話もしたけど、オーレ爺ちゃんはえらくニコニコしているのは何ででしょうねー?




