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我が家が一番!  作者: 津村ん家の婆ァ
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三話目 ちび竜のオトモダチ♪①




 気がついたら薄暗い中で埃臭い何かに包まれて、ゴトゴトと何か重い木が軋むような音とゆぅらゆぅら揺られております。ってここ何処よ。


「うや?」


 口の中微妙にザラザラしてるけど、体はどこも痛くない。よく見れば、一寸埃臭い麻袋の中に詰められてぶーらぶらしてるようで、一応どこも縛られたりしてはいません。見覚えのない景色とゴトゴト揺れる感覚に、嘗て似たような経験を思い出したわ。


―――あらあらまあまあ、私、捕まっちゃったみたいねぇ。


 昔、まだマミちゃんと諸国漫遊していた頃に二回ほど攫われたことがあったのよ。その内の一回は計画的犯行でやられてね、何だかの組織だか忘れたけどマミちゃんの鉄槌が叩きのめし、国軍が介入した騒ぎになって、大事になったのよね。もう一回は街中で迷子になった小さな男の子が、私を気に入っちゃって寝付いても何しても放してくれなかったの。あの大泣きにはそりゃあもう困ったけど、一日がかりで説得して何とか解放されたわ。小さな子には勝てませんて。


 今回は多分人攫いならぬ密猟者ね。お散歩中に下から何かが飛んできて、身体にぐわぁっってすっごい力で巻き付いてきたのを覚えてるもの。初体験だったわぁ、飛んでる途中で何かに捕まるって。

 びっくりして硬直したのがいけなかったのよ、きっと。そのまんま硬直して墜落した場所も悪かったみたい。何かにゴツンって当たって、そのままぞぼんって水の中。そこまでは覚えているの。


 んで気がついたらココハドコ?って訳。

 推測だけど突発的に見つかって密漁されたんでしょうね、やれやれ。それに周りからなんとなーく生き物の気配がするの。声は聞こえないけどね、張り詰めた空気みたいのがあるのよ。

 多分これ、魔獣さんじやないかしら?


 あと、ぼそぼそっとした声が聞こえるの。三人かしらね? ゴトゴトがうるさくてあんまり聞こえないけど、王都がどうの、獲物がどうのと笑いながら話しているみたいね。


 困るわ~、今夜は自警団の毎月恒例の飲み会なのよね。味噌煮込み饂飩と、唐揚げのリクエストが来てるのよ~。麺打ちはセンセ―にお願いしているから良いけど、味付けは結局私だし、唐揚げの仕込みしてないのよね~。


 いま何時かしら。まさかもう夕方って事は無いわよね。飲み会だと村中で参加するお祭り騒ぎと変わらないから、奥様方は朝から仕込みに忙しいのよ。私も野望のお披露目として使わせて貰ってるし、味付けとか材料とか、色んな意見が聴けてとってもお勉強になるの。


 今のところ唐揚げは最強メニューね。饂飩は小麦の確保が安定してないので来年以降の持ち越しに成りそうだけど、諦めてないわっ!


 予想外なのは大豆擬きのポー豆が今年は大豊作だったらしくて、私の処に大袋でドンッと五つも届けられた事かしら。予想外の収穫に私のテンションは高まったわ。豆乳におから、湯葉もお豆腐も出来るわ。そうよ、凍み豆腐にしたら保存出来るじゃない! 


 昔からタングステン村では、村の土地で得れた利益は共有化する決まりがあるの。なにせ国内有数の豪雪地帯では生産出来るモノがどうしても限られているし、村への物資の流通も冬場は殆ど途絶えるの。勿論蓄えはするけど、それだって色々限界があるから村人同士が支えあうのが自然となる訳。


 村人が元々大らかな気質で困った時にはお互い様って感じいるのもあるんでしょうけど、食べ物関連で各家が同等なら妬む気持ちは生まれないから、と村長さんことジェーン婆ちゃんが言ってたわ。何だかとっても納得。


 大昔に火吹き竜が戦争で使われた頃に何処かの町で、食べ物による迫害みたいなモノが起こったんだって。かなり大きな争いだったみたいで、村の人も巻き込まれたそうよ。詳しくは教えてくれないけど、食べ物を粗末にするなんて勿体無いわよね~。

 あら、話が逸れちゃった。


 とりあえず今は何もすることが無いし、覚えている処まで振り返って見ようかしら?




       *******




 朝はいつものごとく起きて、愛しの家庭菜園へ。今年もとっても優秀な出来の季節のお野菜を中心に丁寧に収穫。うふ♪余すことなく大切に頂きますよ~!


 以前に作ったお好み焼きはおかげさまで大好評。その後何度か作る機会が有って、特製のソースたれを作る事にしたんです。お好み焼きのソースなんて難しいからねー、センセーに相談しながら味を決めたら、お野菜ベースの旨味に、薬草とか砂糖とか味噌とか色々入って、特製旨辛タレとなりました~!

 けどね、まだほんの少ししか出来てないから試作にも出来ないの。しっかりレシピを起こして、ちゃんと安定した味付けになるよう今は調整中よ。


 目標は今年の収穫祭にお披露目する事。…でも、私がお風呂に出来るくらいの大きな(かめ)位の量ってどれだけ作ればいいのかしら?


 愛しの家庭菜園から戻れば、朝ご飯作り。今日は自警団恒例の飲み会なので、お料理の一部を担当するのよ。と云っても材料は昨日までにみんな用意済。私の担当のから揚げはつけ汁に付け込んだぶつ切り鶏肉に軽く衣を付けて揚げるだけ。なので、変わり種として鳥皮だけ塩コショウの焼き鳥を作る予定よ。竹串はないから代用品として、シーダーっていう真っ黒な松の木みたいな木の葉を使います。どこで採れるのかはよく知らないんだけど、グレイちゃんに竹串みたいなの無いか聞いたらごそっとくれたのよ。けっこう便利よ~。


 お昼の分と合わせて作ったお手軽バーガーを頂きます。マヨネーズとお野菜のコラボはまさに絶品。うん、作ってよかったわ。村の人もマヨネーズに嵌っちゃったのよね。グラの卵を定期購買出来るようステアさんとニオブさんを巻き込んで、ワイフちゃん達『タングステン村・主婦の会』が発足しちゃったのも仕方ないかもしれないわ~。うまうま。


 ご飯を食べ終え、いつものようにお掃除をして、さて仕込みを始めようとした時。


「おう、ちび居るか~?」

「居ますよ~、オーレ爺ちゃんいらっしゃーい」


 あれ珍しー、どしたんだろ?


「忙しい処わりぃんだが、ウチの娘達を診てくんねぇか?」 

「うや? 調子悪い子居たの?」

「乳飲みが悪いみてぇでな、昨日から気が立ってるのが居ンだわ。ちょっくら話してくんねぇか?」

「あらまぁ、それはちょっと心配ね。時間はあるから直ぐ行くわね」

「たのむわ~」


 飛べる私が、オーレ爺ちゃんの娘達のいる牧草地まで行くのはかんたんだけど、問題はどの群れの所に行けば良いのかって事。群れによっている場所は結構離れてることも珍しくないの。


 オーレ爺ちゃんが「娘」って言うのはラクレコム種である乳用羊の事。この羊達はとっても怖がりなの。集団で居るのが安心するって、大体のぞみとこだまの側に引っ付いて群れてるわ。二人もボスとして村の南側の牧草地に居ることが多いのよ。


 オーレ爺ちゃんが「お嬢」と言ったらタルーク種の長毛羊の事よ。此方は「娘」と違って警戒心が強くて、飼うのは全く向かないんだって。定期的にタルーク種の体毛を確保出来るのは、余程の狩猟技術と運に恵まれるか、大きな商業的流通を持っているかのどちらかしかなく、個人で出来るのは皆無らしいわ。タルーク種の体毛はとっても細くて長いから、薄くて軽い織物の材料として人気だけど、入手が難しいので高級品なんだって。


 因みにお嬢達がこの村に居るのは、のぞみが群れのボスと戦って勝っちゃったから。それと村の北側が、お嬢達に住み良い岩場だったからってのも在るんだって。定住するのは収穫が終わった頃から雪が解ける頃位迄で、あとはあちこち出かけてるんだって。わりと暑がりでね、私と色々話して夏が来る前に毛刈りしたら過ごしやすくなるよ? って助言したら、村まで降りて来て、毛刈りさせてくれるようになったの。でもべたべたされるのは嫌いらしくて、ツンツンした態度を取るものだから、お高いお嬢様って呼ばれてるわけ。

 実際、元ボスは姐さんだったから間違いじゃないしね。


 余談だけどのぞみ達は「三姉妹」と呼ばれているの。元々野生のベルガコム種だったけど、ひかりとこだまは親の群れとはぐれた処で魔獣に襲われかけた処をオーレ爺ちゃんとのぞみに助けられたんだって。のぞみは3日程爺ちゃんと対決してこの村に来たそうだけど、詳しくは教えてくれないのよね。

ベルガコム種は山の魔獣と言われるくらい攻撃的な羊。獰猛というよりも山岳の武士だと私は思うの。なにせ明らかな弱者には決して攻撃しないし、むやみに縄張りを荒らしたりしなければ攻撃なんてしないもの。どちらかというと人間がやたら調子に乗って手を出して、こっぴどい返り討ちに会ったってのがホントじゃないかしら。村の周りの魔獣さん達は大概がそんな感じなのよね。


 南側の牧草地に点在する小規模な群れ達を見つけて、話聞いてみたの。何だか皆似たような顔しているから何事かとおもっていたらまさかの事実が発覚。彼女らはとある欠乏症にかかっていたのよ。


「ねー、何か面白いこと知らない? 恋したとか、恋してるとか、痴話喧嘩したとか、浮気したとか、不倫したとか、騙したとか、騙されたとか、何か知らない?」

「あたしたちって、一日中食っちゃ寝てばかりじゃない。だから面白そうなものには目がないわけ」

「いい男なんてベルガコムの姉さんたちに比べればどれも似たり寄ったりじゃない。終の棲家も餌もゲットあたしたちからしたら、退屈こそが最も恐れるものよ。おいでませ娯楽!」

「「「てなわけで、何かない?」」」


という発言から分かるかと思うけど、要は暇すぎるから週刊誌的なネタに大変飢えていた訳でした。娯楽に飢えた彼女等の特効薬は、知らない情報。特に商人さん達のもたらす噂話は効果絶大。

 王都の貴族のゴシップネタなんてそりゃもう目の輝きが違うのなんの。他人の不幸は蜜の味なんでしょうね。オーレ爺ちゃんの心配は杞憂だと伝えておこうっと。


 取り敢えず彼女らの特効薬になりそうなネタは御座いませんので、私も知ってる日本の童話を一つしてきました。勿論あくまで「他所で聞いた話」としてですけどね。


 こっちには鬼とか知らないので、馬くらいの大きさになる見た目がスカンクに似た魔物を代わりにさせてもらいました。マミちゃん情報ですが、何でも属性を持った魔物で、体毛が赤とか青とかはっきり色合いになるそうです。一度、もふもふしてみたいと思っています。…結構警戒心が強いので、人前には滅多に現れる事は無いみたいです。クスン。


『なにそれ~、可哀想!理不尽よ‼』

『赤ルムック泣いちゃうわ、青ルムック帰ってきてあげて~』

『それより、赤ルムックがどっちと居たいのかハッキリさせないのが悪いのよ!』


【ないたあかおに】は、羊ラクレコム娘達に受け入れられた様です。


 私が話したのは粗筋的な処まで。ほんのきもーち、赤鬼が人々と接する時の話とか、青鬼を退治するときの心境とか、青鬼の手紙を読んだ赤鬼の心情辺りを盛り込んでみました。


 確か【ないたあかおに】には後天的に作られた続きも有るのよね、昔隣近所の小学生に教えて貰ったのよ。大人として考えさせられたお話だったわ。語るのは…、辞めておきましょう。そうしましょう。


『そうね。親友を捨ててまで世間にいい人面して受け入れられたいのか、熱き友情に応えて世間を捨てて生きるか。男なら決断すべきよ』

『友情を愛情に変えるのもアリよね?』


 何やらとんでもない話題を提供した気がします。が、生き生きと討論する姿を見れば一応オーレ爺ちゃんからの依頼は完了と思っていいわよね?


 絶えない討論を続ける娘達を放置して、一寸街道近くまで散歩してこようっと。最近畑にかまってばかりでこっちに来てないのよね。


「じゃあまたねー、何かあったら呼んでね~!」


『『『またねー』』』



 また話してるわ~、本当お喋り好きよね。彼女らに勝てるのは前世のマスコミの皆様位じゃない? と思うのだけれど、世の中は分からないからねー。


 村から伸びた街道沿いに下って行くと、低木だった木々が徐々に大きくなる景色は結構好きだったりするの。豪雪地帯の村では大きな木って結構珍しく、かな~り街道を下って行かなきゃ森林なんて見受けられない。村の周りにあるのは蔦とか草とか、岩の間に生えた低木位だもの。かくれんぼするにはもってこいかもしれないけど、それってかなり村から離れた事を意味しているわけで。


「あ、仕込みしなきゃ!」


 そうなの、ちょ~っと忘れちゃったのよね。いけないいけない。そう思って方向転換した途端。何か下から飛んできたの。そうそう、んでねそれが、ぐわぁっってすっごい力で巻き付いてきたの。


びゅおっ!!!

「うや⁉」


 初体験だったわぁ、飛んでる途中で何かに捕まるって。

 びっくりして硬直したのがいけなかったのよ、きっと。そのまんま硬直して墜落した場所も悪かったみたい。


 何かにゴツンって当たって、そのままぞぼんって水の中。そこまでは覚えているの。

んで気がついたら埃臭い麻袋の中に居たわけね間違いなく密漁され、現在運搬途中と云う状況。時間と正確な場所までは判らないっと。やれやれ。


 あ、慌てないのにはちゃんと理由があるの。私って一見火吹き竜でしょ?

まず、人間の法からすると火吹き竜はこの大陸のどこに行っても保護される種族。況してや私は幼生体という部類に該当するらしいの。あ、これはマミちゃんとの旅の間に学んだ事なんだけど、保護される種族を売り捌いたりする事は結構な犯罪なんですって。


 なので普通の常識人なら決して私達を捕まえたりなんてことはしないの。

 大概火吹き竜を捕まえている人を見かけたら近くの国軍に連絡、場合によっては周囲と協力してその人を捕まえるのが、普通の反応らしいの。(よくマミちゃんと旅していた時はこれに絡まれたわ~。)


 これが領主や国軍隠密関係者だと、火吹き竜を捕まえている人を見かけたら近くの国軍に連絡した上で、敢えて泳がせて仲間を炙り出して組織の壊滅を計るのがひと昔前のやり方だったとか。


 因みに捕まえている人を見かけたら問答無用で叩きのめし、身ぐるみ剥いだ上で体を動かせない様に縛り上げ、行った悪事を事細かく書き連ねた立て札を僅かに手の届かない場所に立てかけ、そのまま置き去りにしてから次に立ち寄った町の国軍か領主に持ち去った持ち物を提出して報告した過去を三回持つのはマミちゃんです。その内の一回は私が攫われたとき、野生の魔獣が二回でした。


「いいですか。ちび竜ちゃんは大陸規模の保護指定獣の個体です。はっきりいうなら、ちび竜ちゃんに許可なく手を出す輩は問答無用で叩きのめしてよい悪党と思いなさい。そんな悪党から身を守るのに手加減なんて不要です。思い切ってサクッとやってしまって構いませんよ」


 これ、旅の間マミちゃんが私に言っていた常套句でした。さらに言うとタングステン村の人々からも似たような事を未だに言われるんです。私、そんなにお人よしじゃないんだけどなぁ。





※『タングステン村・主婦の会』=文字通りタングステン村に在住する主婦の会。主な活動内容は食材の輸入手配とちび竜のレシピ管理。村外からの問い合わせ等の対応もしているが、その活動内容をちび竜本人はあまり理解してはいない。

※シーダー=西のヒオ国に自生する植物。真っ黒な松の木を思わせる外見で、棘に似た竹串のような葉を付けている。春先に出す新芽は比較的柔らかく、この時期の新芽を収穫してしっかり乾燥させると黒くなる。比較的一般的な串として出回っている。

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