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まっくろまくろなましろくん  作者: しゃーむ
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水鏡杰 Ⅲ

「ってことがあったんだよ! 真黒くんどう思う!?」

 今現在、放課後の帰り道のことではあるけれど、しょこたんは怒っていた。

 ホームルームが終わると同時に僕の教室にやってきて、首根っこを掴まれて連行された。嫌な思い出が蘇りそうだった。

「いやあ、はは……まあ、好みがあったんだと思うよ」

 なんとか、しょこたんをなだめようとはしてみるけれど、このネタについては難しい。もうお分かりでしょう。しつこいくらいに使われているネタだ。つまりそこに関する事件が起きたわけだ。

「絶対! 絶対許せないの! 真黒くんも協力して! 真黒くんならすぐに見つけられるでしょ!?」

「キミの頼みならやってみるけれど、特定できるとは限らないよ? そいつが悪いことをしたと思ってるのが条件なんだから」

「それでもいい! とにかく探して! 女の敵だから!」

 女の敵だから、というのは少々違う気もするけれど。というか、怒っているのはそういうことではないのだけれど。あまり突っ込みたくない。またぶん投げられそうだから。

 犯人捜し。またこういう類の話しだ。ただ、今回の依頼主は僕の彼女だったりするわけだけど。僕にこんなことを頼むのは『黒』のことを知っているしょこたん以外はありえない。この前の犯人捜しとは違い、彼女のためなら僕は尽力できる。無理矢理彼女のためとこじつけなくても、今回は正真正銘彼女からの頼みごとなのだ。しょこたんがこんなに怒り心頭しているのが犯人には少し気の毒だけれど、まあ、そいつが悪い。

 今回の犯人がやってのけたこと。

 それは下着泥棒だ。

 僕の彼女がいるクラスの体育の時間に女子更衣室にどうやってか忍び込み、女子の下着を盗み出した。被害に遭った女子生徒は数名で、僕の彼女は幸いにも被害者ではなかった。

 しかしながら、被害は免れたもののしょこたんは怒っている。猛烈に怒っている。もちろん犯人に向けられた怒りである。

 しょこたんが怒っている理由はみさなまのお察しの通り。この犯人が行った数名の女子に対する卑劣極まりない行為に対してではない。

 自分の下着が盗まれなかったからである。

 被害に遭った生徒は、みんなが豊満なお胸を持ってらっしゃったとか。犯人はより取り見取りの下着の中から、自分の求めるサイズ以上のものだけを盗って行った。残念ながら、いや幸いながら、僕の彼女の下着は犯人の目に適わなかったらしい。

 だから僕の目の前にいるしょこたんは通常通り、健全な状態だ。じゃあ今日つけてないんだ、なんてからかうことはできない。実際にからかったら殴ら……喜ばれそうなところが怖い。

 しょこたんは盗まれなかったと怒っているけれど、もし彼女の下着が盗まれていたとしたら、僕自らが進んで犯人確保に努めるだろう。そして精神的な制裁を与える。もう二度と学校に出て来れなくしてやる。そいつの『黒』全てを白昼のもとにさらしてやる。そういう意味では、犯人はしょこたんからのお痛を喰らうだけで済むのだから、自分の趣味が大きい方で運が良かったと言えるかもしれない。

「犯人を見つけたらどうするんだい?」

「清水寺さんに電話する。お縄だよ」

「おっ、意外にまともだね」

 僕はてっきり縛り付けて窓から吊るしたりするのかと思ってたよ。ああ、やられそうになったことがあるから。あるんですよ、裏ではいろいろと。

「でもその前に、ぺこちゃんに教えてお仕置きしてもらうんだ」

「えっ? たしかそれ、えみりんの友達だったよね? 知り合いだったんだ」

「うん。えみりんと一緒に少し話したことあるんだ。それでね、ぺこちゃんって、男の人が好きな男の人を何人か知ってるって言ってたから」

「……わーお。それでどうするのかは聞かないことにしておくよ」

「そんなにひどいことはしないよ。こっちが犯罪者になっちゃう。ただ、犯人のファーストキスをその男の人に奪ってもらうの」

「初めてって決めつけるのもあれだけど、それは一生消えない傷になりそうだね」

「あたしも傷つけられたもん」

「よーしよし。いい子いい子。じゃあ明日の朝、ベランダから『黒』を見てみるよ」

「うん! よろしくね真黒くん。……ふふ、盗まなかったことを後悔させてやる」

「ほ、ほどほどにね」

 ということで、明日からまた探偵業を復活させることになった。

 捜査対象は生徒全員。大変そうだけど、『黒』を見ればこと足りるのでそんなに苦労はしないだろう。犯人が完全に盗む行為自体を楽しんでいるのなら、僕の出る幕はないかもしれないけれど。でも例え『黒』でわからなくても、僕は犯人を見つけ出してみせる。彼女の頼みだからだ。

 さーて、彼女の好感度アップのためにいっちょやりますかー。



「それは本当ですか?」

「うん。隣のクラスなんだけどね、何人か盗られちゃったらしいよ。水鏡さんは可愛いんだから特に気を付けてね」

「え? はい、ご忠告痛み入ります」

 先日に引き続き、街の案内をお願いしている吉岡さんから、校内に下着泥棒が現れたことを聞きました。吉岡さんは、活発で明るくて、転校してきたばかりの私にもすぐに声をかけてくれて親切にしてくれる素敵な方です。笑った時に見える八重歯が特徴的です。下着泥棒の被害に遭ったのが隣のクラスということは、大空さんがいるクラスですね。大空さんも被害に遭われたのでしょうか。

「あの、被害に遭われた方はおわかりですか?」

「そこまでは聞いてないけど、胸が大きい人のブラばっかり盗られたって。だからね、水鏡さんは気を付けた方がいいかなって」

「バストサイズが大きい方ばかりですか。それでは、大空さんは無事でしょうね」

 吉岡さんは、怪訝そうに首を傾げました。あら、吉岡さんは大空さんのことはご存じないのでしょうか。

「大空さんって、翔子?」

 名前で呼ぶということは、お友達ですね。大空さんは魅力的な方でしたから、お友達も多そうです。

「はい。吉岡さんもお友達なんですね」

「うーん、友達は友達だけど、彼氏ができてから翔子付き合い悪くなっちゃってさ。今はあんまり……っていうか翔子の前でそれ言っちゃダメだよ?」

「それ、と言いますと?」

「その、盗られたのが大きいのばかりだったから翔子が大丈夫だったって。あの子、小さいの気にしてたから」

「そんな。被害に遭う可能性がないのなら、喜ぶべきことだと私は思いますけど」

「あはは……。ま、まあそうかもしれないけどさ。それ言ってやっても落ち込みそう」

「それに女性の魅力は、胸の大きさで決まるわけではありませんし」

「へぇ。水鏡さんにとって、女の魅力ってなに? 聞きたい」

「女性に限らず、人の魅力というものは、し……いえ、何でもありません。すみません、そう尋ねられてしまうと、答えに困りますね。そうですね、心理学上の話しですけれど、母性は大事だと思います」

「うっ、学問の話しになるとは」

「難しいことではありません。善悪すべてを包み込むということです」

「ああー、つまり優しさってことだ」

「そうですね」

 私にとっては、優しさとは少し違いますけれど。

「吉岡さんは、とても魅力的だと思いますよ」

「あははっ。やだなー。水鏡さんに言われたって説得力ないよー」

「本当にそう思いますよ」

「あっはは……。うん、水鏡さんに言われたら不思議とそう思えてきた。自信つくかも」

「それはよかったです。クラスの中で吉岡さんを見ていて、こちらも元気をもらっている気がします。私がクラスに早く馴染むことができたのも、吉岡さんのおかげだと思っていますから。あなたは優しくて気配りができる、素敵な女性ですよ」

「あ、ありがとう! そんなこと思ってくれてるの水鏡さんくらいだよ!」

「そんなことありませんよ。みんなもきっとそう思っています。あなたの周りには素敵な笑顔がいつもあるじゃないですか。みんな、あなたのことが好きなんですよ」

「そ、そっかあ! うん、うん! アタシ、もっとみんなに優しくするよ! 困ってる子がいたら力になってあげたい!」

「それはとてもいいことです。吉岡さんがいたら頼りになりますね」

「や、やだなー。あんまり言ったら照れちゃうって」

 ……これで一人、ですね。

 私に声をかけてきたのは、自分が善行をしていると思いたかったからかもしれません。自信が欲しかったのかもしれません。無事に差し上げられたでしょうか。まあ、私には『見える』のでわかってしまうのですけれど。そう、あなたは今輝いていますよ、吉岡さん。

「じゃあ水鏡さん。今日はどこを案内して欲しい?」

「文具専門店があれば嬉しいのですが」

「専門店かどうかはわからないけど、そういうのが多い雑貨屋なら知ってるよ」

「では、よろしくお願いしますね。吉岡さん」

「はいはーい!」

 吉岡さんは、もう大丈夫でしょう。原因が何かを知る必要はありません。私にはこれくらいのことしかできませんから。

 そうですね。

 明日は、下着泥棒さんを探してみましょうか。

 私でお力になれることがあるかもしれませんし。

 どこか、全校生徒の登校風景でも見渡せる場所があればいいのですが……。 


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